「有馬ぁ〜入るよ〜」
「はいどうぞー…って…はぁ…」
「…へ?何…?」
有馬に言われた通り、ただちにシャワーに入り、ただちに有馬の部屋に来た。のに今度は何を怒っているのか。古田は首をかしげる。
が、有馬からすればそんな古田の表情こそ理解ができなかった。
「なんで上なにも着て来てないんですか!!」
有馬の部屋に訪れた古田は下はスーツ、上は何も着ないままタオルだけを首にかけて来た。
「えっ!?だからほら!!シャツ持ってきたじゃん!!」
「持ってくるんじゃない!!着てきなさい!!」
「大丈夫だって!!俺このアパート全員知り合いだし!!」
「問題はそこじゃない!!一瞬とはいえ外出てるんですから!!」
心底意味の分からないという表情をする古田に、有馬は小さくため息をついた。
「…まぁ…アパート全員知り合いってのはすごいですけどね…」
「でしょ?気がついたら全員知り合いだったの」
もうこれ以上何を言っても古田とは分かり合えないと割り切って違うところを褒めればすぐに目をキラキラさせる。
その姿にもう一度心の中で有馬はため息をついた。
「うっわ!!今日はザ・和食!!」
そして次の瞬間にはもう今までの話なんか忘れてしまっている。彼はそういう男だ。
「いっただっきまぁ〜す!!」
「いただきます」
まぁいいやと有馬も席に着くと手を合わせた。
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「あ、そういえばね」
すべての料理に一通り「うまいうまい」と言い切って落ち着いた頃。
ご飯を口の中に頬張ったまま古田が有馬をちらりと見た。
「昨日さ、あの、安達に、その、こ、こ、告…告白…?されたんだよねぇ…」
古田のその言葉に一瞬有馬の箸が止まる。
「…だと思いました」
が、それも文字通り一瞬のことで、すぐに有馬は箸を動かした。
「え…?思ってたの?」
「思ってましたよ。普通に考えて三人でいてる場で二人でご飯行こうとか言います?古田さんが言ってた通り、万が一俺が狙いなら万々歳で俺のことも誘うと思いません?」
「…確かに…」
今度は古田が箸を止め、うんうんと一人唸る。
「でも…えぇ…俺…?」
「そりゃそんなこともありますよ」
「えぇー…ないでしょ…」
「何でですか」
何気なく訊ねた言葉。
だというのに返事が返ってこなくて有馬はちらりと古田に目を向けた。
「だって…俺…彼女いたことないよ…?」
恥ずかしそうに、なぜか少し申し訳なさそうに、有馬を見返して言う古田。その古田の言葉に有馬は思わず盛大にため息をついた。
「なっ!!何でそんなにため息つくんだよ!!」
そんな有馬のため息に古田は分かりやすくムッとすると有馬のお皿から残っていた鮭を奪った。
分かりやすい古田の嫌がらせに有馬はもう動じない。
「そんなの関係ないでしょ、普通。誰も古田さんに彼女がいたことないとか。そんなこと知らないじゃないですか」
鮭が残っていたらおかわりしようと思っていたご飯を諦め、食器を片づけ始めながら古田に目を向けず言えば「そっか…」と納得した声が返ってくる。
「で?どうしたんですか?付き合うんですか?」
キッチンの洗い場にお皿を置いて水を流す。朝だというのに少し暑くなってきた今日この頃。手を水にあてれば心地よい冷たさが広がる。
「いやぁ…それが…その…」
有馬の背中越しに聞こえてくる古田の声は何故か戸惑っていて、そろそろいらいらしてくる。
「あのですねぇ…別に付き合ったって…!!」
「ちょっと返事待って…って…言った…」
あまりにも間を伸ばすものだから別に隠すものではないじゃないかと振り返れば、古田が思わぬことを言って体が固まった。
「…は?」
我ながら間抜けな声だったと思うが、当の本人は自分のことで精いっぱいのようでそんな表情には気が付いていない。
「いや…なんか、その…もったいないなって…」
「もったいない…?」
んと、えっと…と、うんうん唸る古田。
全然関係ないことだがそろそろ上の服は着てほしい。
「…なんか…俺彼女いたことないじゃん?そんな人と付き合っても…多分楽しくないと思うし…俺楽しませる自信ないんだよね…」
「そんなの、古田さんはいつも通り笑っていたらいいんですよ」
有馬のその言葉に古田がえーっと大きな声を上げる。
「それじゃダメじゃない?やっぱ彼氏なんだったらかっこいい方がいいでしょ?」
「安達さんは別にかっこいい古田さんを好きになったわけじゃないんでしょ?っていうかそれは絶対ないでしょ?古田さんかっこよくないし」
「おい」
古田の突っ込みは無視しての食器を片づけ、余った料理は冷蔵庫に入れていく。もうそろそろゆっくりしてる時間はない。
目の前で未だうんうんと唸っている古田にそろそろイライラしてくる。早く食べてくれ。片づけるのはこっちなんだ。
「大体ですね、古田さんずっとモテないモテないって言ってますけど」
「え?うん」
「古田さんのこと好きな人って俺が知ってるだけでも…!!」
その先を言いかけて有馬はふと言葉を止めた。
「お、俺が知ってるだけでも…?」
対する古田は有馬をじっと見つめその言葉の続きを待っている。
「…やっぱ言わないです」
「なんでだよ!!」
「なんでも、ですよ」
なんだよ教えてくれたっていいじゃないかと駄々をこねる古田の目の前の食器も言葉を無視してまとめ始める。そうすれば古田は教えろと駄々をこねたまま必死にご飯をかきこみ始める。
ふうっと、ひとつため息をついた有馬の様子に、古田は気が付かなかった。