御早うの接吻


あーまずいってこれ。百舌ちゃんの脚、白くて細くてすべすべさらさらで、内腿を抱える両手が感動してる。背中に当たる胸は、ちっちゃくて可愛いけど、ふにふにしてる触感が女の子を意識させる。長い白髪の匂いが鼻を掠める。寝息が耳を擽る。なんか、あれ、ぜんぶ愛しくなってきた。重症かなー。支部はもうすぐそこで、ちょっと遠回りしたつもりだったんだけど早いでしょ、こういう幸せな時間って。

「下着見えんぞ」

後ろから青峰が近付いて、言う。まあ、わざとに決まってんじゃんね、出来れば赤司とかに見せたかったけど、青峰でも十分十分。醜い心のどっかが満たされたオレは、へらっと笑った。

「見ちゃえば?」

「ふは、エンリョするわ。定期的に見てるから」

うわ、出たキセキの権力。どうせ緑間とか辺りが毎度チェックして貯めてるんだろうな。オレは肩を竦めて支部の扉を開けた。洋館みたいなそこは人気を感じさせない。青峰とオレの足音だけが響く。さらに幹部は奥の階段も降りて、地下室。

「極楽まで送ってってー」

「よし、任せろ」

扉の向こうに言ったら、返事と解錠の音が返ってきた。これがここに入るための合図なんだよん。どうもーと会釈しながら入室する。

「一哉、百舌寄越せ」

って。誰って、花宮。あー面白い、これが見たかったんだよね。百舌ちゃんのこと好き過ぎ。体温を惜しみながらそっと花宮に抱えさせる。ソファーに座った花宮の腕の中にすっぽり収まった百舌ちゃんはまだ寝てる。親指を口元で動かしたりして、まあ幼いこと可愛いことったらないね。花宮も例外じゃなくて、自分の指で百舌ちゃんのセパレートした白いきらきらした睫毛を撫でると、満足げに笑った。あんな顔させられんの百舌ちゃんだけだね。あ、でも起きちゃった。寝返りでも打とうかなって感じで花宮の胸板に顔を擦り付けたら、ぴく、と体が揺れた。

「あえ、花宮先輩の匂い──、花宮先輩、どうして、」

「いつまで寝てる気だ、バァカ」

「今朝の計画のせいで、一睡も出来てなかったですから、眠くて眠くて」

「一日位何とも無えだろ」

そう言いながら、口元は緩んでるのばれてるよん。匂いで判別してくれたのが嬉しいって、どんだけ単純。けど逆に、オレの匂いじゃないって気付いたことはオレの匂いも何となしには把握してんのかな、嬉しいー。単純でしょ。あ、そうそう、今朝の暗殺は三人とも百舌ちゃんが始末したって、ザキが言ってたなー。一人の右手の指が全部ぶっ飛んでたっていうのを聞いてかなりグロテスクと思ったよ、午前中に聞く内容じゃないし事後処理ってザキお疲れ。今日集まったのはその報告の纏めと、新たな騒動について。本部から来た大人の男が資料を読み上げる。

「近頃、白派が皇居付近を彷徨いているという情報を受ける。一般男性が主で、恐らく学生の可能性は極めて低いものと思われる。何人かスパイを送り込んだがその後連絡がつかぬ。そこで幹部に何人か調査を願うとのこと」

「ただのテロルではないのか」

「ああ、スパイが戻ってこない時点で少し様子がおかしい。通常即追放あるいは拷問後にそこらへ投げ捨てられているのだが」

「既に数週間が経過している。まさか敵対した人間が短期間潜入しただけで殺しはしないし、万が一殺しても死体を運ぶ際何らかの動きを抑えられるはずだからな」

「危険性が高い指令のため、幹部のみに限るよ」

「行けますよぉ」

いやいや、ないから。一番ないから。だからその手下ろして百舌ちゃんあっもう花宮が下ろさせたわ。本部の人が視線を百舌ちゃんに寄越す。

「暗殺なので顔は割れてないのと、女だから男より小回り利きま*す」

お巫山戯やめよう?花宮の顔がコワい。瀬戸もあの顔絶対行かせない顔だよ古橋なんか途中で我慢出来ずに乗り込んで殺してきそう。ザキだってやめとけって感じだし。桐皇さんち(東京に学校がある黒軍さんだから支部に集合のときは陽泉の人たちよりよく会う。青峰はそっちに行ってた)も微妙な面持ち。

「冗談抜きに、一理ある。しかし初めは皇居付近を彷徨く輩へのアプローチのみにしておこう」

「あ、許可、やったぁ、お国のために尽力します!天皇万歳!」

こういうときの百舌ちゃんに何言っても無駄っていうのは、今までの経験から九割九分九厘当たる。皆ついたため息と、百舌ちゃんの万歳が、酷い温度差だった。

- 2 -

*前次#


ページ:



ALICE+