「ほぉ、ようやっと我の前へ現れたか」
召喚されて1番に見えたのは、己のマスターではなく、金ピカな元上司だった。とりあえず、頭がたかーいとか言われる前に頭を下げておいた。
「よろしくお願いしまーす」
「軽いわアホ!」
なんかここ、王様2人いるんですけど。幼少期も合わせたら、3人になるのか?こんなに王様がいて、さぞ大変だろうなとマスターに言えば「そうでもないよ」とさらっと返された。このマスター、大物かもしれない。
「…おい、名前。どこへ行く。誰が我の傍から離れることを許可した」
こんなにもめんどくさい王様を扱いこなしているなんて、尊敬すぎる。弟子入りしたい、今度頼もう。
そそくさと逃げようとしたところを案の定見つかって襟を掴まれつまみ上げられる。脱走しようとした猫か俺はという感じだし、服がつり上がってお腹が見えちゃうのでやめて欲しい。
「お前は我の部下という自覚が足りん」
「あのう、元部下なのでー…」
「退職させた覚えはない!」
それはそうだけど、死んだらリセットとかじゃだめなの?死んだ後もこの王様に仕えるとか、まぁ、嫌ではないけど疲れるよ。
王様は大きな舌打ちをこれみよがしにした。そんな不機嫌になられても。何となくだが、昨日会った太陽王とニトクリスちゃんの関係を見て、俺にああいうのを求めてるんだろうなぁとは勘づいてるのだけど、柄じゃない。そんなの分かってるだろうに、朝から王様はこんな調子で俺を傍に置きたがっていた。
「第一、何故我ばかりがお前を追いかけねばならん…部下であるお前が我の金魚のフンとなり着いてくるべきであろうが…」
なんかブツブツ言ってる。心配しなくても、有事の時にならいくらでも駆けつけるのになぁとは言わずに心の中で留めておいて、今かな?と忍び足で離れようとした。
「まぁまぁ」
「むぎゅ」
障害物に優しく包み込まれてしまった。この独特な感じは、エルキドゥだろうな。彼は俺をホールドして進行を妨げている。押してもビクともしない、これではただ俺が思い切り抱きついてるように見えるだけだった。
「久々に会えて嬉しいのさ、ギルは。もう少しデレてあげて」
「エルキドゥ、適当なことを言うな」
ギロっと王様が睨んでも、エルキドゥは涼しげに笑うだけだ。ほら、と肩を押されて王様の方に俺を近づける。
「…えっと」
「…………」
王様は俺の出方を窺っている。というより、いい加減怒らせたらいくらなんでも怖そうだ。そろそろ王様の求めてることをしなきゃ、不機嫌メーターカンストは近いと思う。感覚的に…。
「あのー、俺もー、王様に会えて嬉しいのでー…」
「…………」
チラッと上を見上げたら、物凄く眉間に皺を寄せて怒っていた。ひぇ、と声が漏れるのをなんとか抑えて、これはもう素直になるしか生き残る道はないと覚悟を決める。
「王様大好きです。近くに居させてください。めんどくさいけど」
やばい、照れ隠しが自動的に発動してつい悪態が出てしまった。終わったな、と顔を上げようとしたら、頭の上にものすごい力で圧力がかかってきた。
「いだだだだだだ」
「不敬すぎるわ名前の分際で。だがそこまで言うならいいだろう、希望通りまた使い倒してやろうではないか」
頭を押さえつけられてるせいで顔が見れないが、声色はそこまで怒っていなさそうだ。しかし危機を回避した代わりにすごくめんどくさいことになった。
「ふふ」
エルキドゥは笑っていた。王様は今どんな顔をしているのだろう。
「どういうことだそれはぁ〜〜〜………」
「わっ」
地の底から響くような低い声で王様が唸っていた。びっくりして振り返ると、王様がギリギリと歯ぎしりまでしてこちらを睨んでいる。
「おい、今我は忙しい。名前に用があるのなら後にしろ」
しっしっと手で払い除けて、キャスターの王様が王様に向かって吐き捨てるように言う。それに対して、王様は怒り心頭という感じで指をさして怒鳴った。
「貴様が忙しいなど知ったことか!名前!お前は我に付き従うと言ったであろがァ!」
「王様は王様ですしぃ…」
「貴様は!我の!部下!だ!」
「うぐぅ」
首根っこを掴まれて回収されてしまった。ずるずると引きずられながら、キャスターの王様、すみません。と視線で伝えようとすれば、やれやれと肩をすくめていた。
「あの頃の我は独占欲が高くていかんわ。そう焦らずとも、自身が誰のものであるかなど、とうに教えこんだろうによ」
…聞かなかったことにしよう。もしかしたらあっちの王様より、こっちの王様といた方が安全かもしれない。
まぁ、どうあっても王様の傍から離れるという考えがないのも、考えないことにした方がいいかもしれない。