アルジュナ
俺が召喚されて最初に見た顔はマスターではなく、懐かしく慣れ親しんだ幼なじみの顔だった。
俺がその場で真名とクラスを明かし軽い挨拶を言い終えた頃、アルジュナは真っ黒な瞳を輝かせてこちらを見ていた。口は無意識に少し開いている。
アルジュナもいたんだな、よろしく、と付け加えると、ハッと我に返ったように目を大きくし、アルジュナは姿勢を正して開いていた口をキュッと引き締めた。
「遅い」
それだけかよ。と思ったが、腕を組んで睨んでくるその視線は、まだなにか言いたそうな風に見える。後で覚悟しておけというサインかもしれない。
マスターの少女は可愛らしく手を振りながら「積もる話もあるだろうから」と俺の世話をアルジュナに頼んでいた。アルジュナはそれに恭しく頷きながら、「えぇ、マスターの手を煩わせる事もありません。彼の案内は私が承りましょう」となんだか食い気味に応えている。俺の意思は?
行くぞ、と背中を向けて歩き出したアルジュナに続く前に、もう一度マスターの方を振り返った。俺の頭1つ分くらい小さな彼女は、背伸びをして耳打ちをしてくる。少しいい匂いがした。
「アルジュナね、貴方の話をよくしてたよ。すっごく待ってたみたい」
そっか、と言って頷くと、マスターはへへ、と可愛らしく微笑んだ。今回のマスターは当たりだな。そう思いながら自分の名を呼び急かしてくる幼なじみの方へと歩き出した。
「マスターは何と?」
「これからよろしくだって」
適当に嘘をつくと、アルジュナは疑いもせずそうかと返事をした。そして此度のマスターは素晴らしいだの、ここでの自分の貢献を第一に考え規律を守れだのと優等生よろしく語り出した幼なじみをよそに、俺はキョロキョロと辺りを見渡した。
「おい、聞いているのか」
「俺の部屋とかあるの?」
聞くと、大げさにため息をついてアルジュナは足を止めた。説教の気配を感じ、俺も同様に足を止めた。
「いいか、まずは設備の説明だ。それからここでの生活と規律について、そして自室への案内を行う。何故だか分かるか?」
「俺は部屋に入ったら外に出るのがめんどくさくなってベッドに潜り込むから」
「よろしい」
うんうん、と上機嫌で頷いている。これは逃がしてくれそうにない。
「では、付いてくるように。話はきちんと聞くこと」
「はぁい」
返事が緩い、と怒られながら俺はアルジュナに並んで歩き出した。
「………と、ざっとこんなものだろう。質問は?」
「広すぎ、人多すぎ、俺いらなくない?」
サーヴァント多すぎだろう。こんだけいるなら1人2人いなくたってなんとでもなるんじゃないか?あちこちですれ違う英霊たちを横目で見ながらそう言うと、またもやじっとりした視線で睨まれてしまったので降参のポーズを取った。
「次はお待ちかねの自室だぞ。今日くらいは直ぐに寝ても構わないが、日々鍛錬とマスターへの奉仕は忘れないようにする事!」
「はぁい」
「もう…」
ここだぞ、と開けられた扉の中にはこれだけの大所帯にしてはまぁまぁのスペースにベッドが1つ置かれていた。物は無く閑散としている。植物とか置きたいなと眺めていたら、アルジュナがコホン、と咳払いしたのが聞こえて振り返った。
ドアを閉めて部屋の中央辺りにやってくるアルジュナに、俺も向き合うようにして立った。
「その…また貴方と共に、こうして過ごせることを喜ばしく思う。確かに、我々は気を緩めてはいけない境遇にこそいるが…また、あの時のように、穏やかに貴方と……過ごせたら……」
言ってる途中で恥ずかしくなってきたのか、最後にかけて言葉が弱々しくなっていく。そしておそらく自身の発言に納得がいかなかったのか、首を振りながら「いや、違う、私は決してそのような事のために現界したのでは…」とかなんとかやっている。
わたわたと混乱しているアルジュナを取り敢えず抱きしめた。ピタリと動きは止まる。あやすように背中を叩いたら、流石に「ちょっと」と咎めるような声が聞こえた。
「俺もアルジュナに会えて嬉しいよ。サーヴァントとしても頑張るけど、アルジュナがいいなら、たまには一緒に遊びたいし、こうやって2人でいたいな」
返事はない。いい加減にしなさいと言いながら飛んでくる軽い平手打ちも無い。おかしいなと思いながら抱きしめていた体を離してアルジュナの顔を覗き見る。
「………お、お前は…本当に…相変わらず……」
「うわ、すごい照れてる。どうしたの珍しい。超可愛いね、チューぐらいならしていい?」
「いいわけないだろ!」
べシッと音を立てて、綺麗な平手で頬を引っぱたかれた。懐かしいなぁこの感じ、と思いながら俺は続く照れ隠しの説教を、うんうんとそれらしく頷いてやり過ごすのだった。