「酷いんだよあのクソ鬼!」
白澤は俺にのしかかってわめいた。毎度のことなので気にしないが、どうせ白澤が何かしたに違いない。まぁ、鬼灯様も鬼灯様で理不尽極まりない仕打ちを白澤にするのだが。
「よしよし」
「なんで楽しく女の子とお喋りしてただけなのにケツ思いっきりぶん殴られなきゃいけないわけ!?ホント嫌い!アイツ嫌い!あ゛〜!!」
今度は胸に顔を埋めて叫び出した。何となくであるが、配達仕事を桃太郎くんに任せて遊び呆けてたのが原因なような気がする。言っても直すような男ではないし、これでいて弟子思いな所もあるので言わないが。
「よしよし」
「それでも仕切り直そうとして女の子たち連れて居酒屋にいったらさぁ!獄卒宴会とかでそこにもアイツが居て!女の子達がアイツの方にばっか構うしサイアク!サイアク!サイアク〜〜〜!!!!」
それはまぁなんというか運のない。吉兆の印って本人には効能ないのかもしれない。だとしたらかわいそう。さっきから俺の胸に怒りを込めた拳をぶつけているがそんなに痛くない。本気ではないのだろう。肩たたきに最適な振動だった。
「うーん胸じゃなくて後ろからやって」
「マッサージは有料ですー」
有料だった。無料のサンドバックに徹している俺は追加サービスのハグで返した。胸に顔を埋めている白澤も後ろに腕をまわして抱き締め返してきた。
床には白澤の飲み散らかした色んな種類の酒がころがっている。どぶろくだのカシスオレンジだのモヒートだのカルアミルクだのを、グラスに並べてちょっとずつ飲むのが好きな白澤は嬉しそうに飲み干していった。おかげでべろんべろんだ。もちろんいつもの事だけど。
「落ち着く」
そう呟いた白澤の顔は見えない。丸い頭のてっぺんに顔を埋めてみた。少し白澤の体がこわばった感じがしたが、構わずそこで呼吸をする。不思議な香りだと思う。彼が営んでる店の薬品の匂いが染み付いているんだろう、ちょっとハーブっぽい。
「………」
なんだか大人しくなったので不思議に思い、形のいい頭から顔を離して「白澤」と名前を呼んだ。
「なに」
見上げてくる白澤の顔は酔っぱらいなので当然赤い。ほっぺをぐにぐにと揉んで遊ぶと「ぶべべべ」と鳴いた。面白かったのでしばらくやっていたが痛いと言われ顔を下げられてしまった。
しがみついて離してくれそうにもないので、耳たぶを触って遊ぶことにした。柔らかい耳たぶを揉んで、すーっと上に人差し指で耳をなぞった。腰にまわされた腕の力が強くなった。数回繰り返していたら、心地よくなったのか白澤は身を委ねるように体の力を抜いた。
今度は頭を撫でた。お気に召したようで、ぐりぐりと犬のように顔を押し付けてくる。ぶんぶんと尻尾が左右に揺れる幻覚が見えてきたと思ったら普通に幻覚でもなく尻尾が出てきていた。
「出てますよー」
「出してるの」
もふもふと尻尾を振って白澤は言った。とっくにおねむの時間になって寝ぼけているかと思ったがそうでもないらしい。いつもならそろそろ寝落ちコースの時間だったので驚いた。
「眠くないの?」
「全然」
なおも尻尾をゆらゆらさせてハッキリ答えられた。珍しいこともあるものだ。
「ふーん」
「………ふーん、って、それだけ?」
何か不満らしい。ジト目でこちらを見上げてくる赤ら顔の酔っぱらいは絡み酒もいいとこだった。
「それだけだよ」
実を言うと俺の方が眠かった。白澤をもう一度抱きしめて横向きになり寝る体勢に入る。瞼を閉じると、すぐに眠りに入っていく心地がした。気持ちが良くて、いい気分だ。大人しく抱きしめられている白澤に、おやすみと呟けば、間をあけて微かに 「ん、」とだけ聞こえた。