王馬小吉
※夢主の超高校級は考えてないので好きに決めて読んでください



「名字ちゃん、あーそーぼ!」
背中に小柄な重みを感じて振り返る。近すぎやしないかと面食らうほどの距離で、王馬小吉は5歳児のように無垢な顔で笑っている。
相変わらず脈絡なく人に引っ付いて纏わりつくおかしな奴だ。人と話す時は必ず後ろから抱きつけとでも教わってきたのだろうか。親の顔が見てみたい。いや、そもそもコイツはちゃんと人から生まれてきたのだろうか。それさえ疑わしくなってくるほどハチャメチャな奴だからな。
「相変わらず表情が硬いね名字ちゃんは!知ってる?人間、あまりにも表情が変わらないと、町中に取り付けられてる監視カメラから分析されて、人間に擬態している宇宙人だって判別されちゃうんだ!」
「えぇーーーーっ!!!」
完全にとばっちりで、後ろを歩いていたゴン太君が青い顔をして頭上の監視カメラを探し怯えている。
王馬はまたくだらない嘘をついている。毎日毎日、怒るにはしょうもない程度の嘘をよくここまで思いつくものだ。俺はもはや王馬小吉という男に、呆れを通り越して感心さえ抱いているという事はここだけの話だ。言ってみたらどんな反応をするのかは多少気になるところではあるのだが。
「ねぇーっ!名字ちゃんてば!ほら!そろそろ表情変えないとメン・イン・ブラックが来ちゃうよ!」
「はいはい」
ポコスカという効果音が似合いそうな力加減で拳を振り下ろしてくる王馬の、ちょうどいい高さにある頭を撫でて気にせず歩き出す。構っていたら普通に朝のHRに間に合わない。この間はそれで痛い目にあった。
「くっ…!なんて鮮やかな頭ぽんぽんなんだ…っ!これが超高校級のプレイボーイ…!!」
誤解を招くことを言わないで欲しい。
「ねー、待ってよー名字ちゃん!」
ちょこまかと小さい背丈を活かし、王馬はすばしっこく俺の周りをうろつきながら登校する。毎日のことなので周りも最早そんな俺たちを風景扱いだし、すれ違う生徒がどこか生暖かい視線を寄越してくるのも慣れた。
一度最原に、「その、名字くんは…よく王馬くんにあれだけ付き纏わられて、怒ったり怒鳴ったりせずにいられるよね…」と言われたことがある。
そういう最原もなんだかんだ付き合いがいいように見えるが、相手が王馬ならまぁ仕方がないとも言える感想だった。
隣を見下ろせば、王馬はまだ止まらない口からマシンガンのように飛び出す嘘と嘘と嘘を吐き続けている。コーヒー豆好きのネコが食べる糞から作るコーヒーがあるらしい。なんだそりゃ。そんな嘘よく思いつくものだ。
話は戻るが、俺が最原にそう聞かれた時、実はとても返答に困った。本音を言うのはとても気恥ずかしかったからだ。だからというかなんというか、俺は思わずその時嘘をついた。王馬の言葉を借りるなら、誰も傷つかない、優しい嘘というやつだ。
1人物思いにふけっていると、傍らでぺちゃくちゃお喋りを続けていたBGMが鳴り止んでいる。横目で様子を窺うと、王馬は口をきゅっと結んで押し黙ったまま俺を睨みつけていた。
慌てて空を見上げ、雨雲がきていないか、それとも雹が降るのかと心配してしまった。王馬小吉がなんもしなくても黙り続けている。怖い、天変地異の前触れかもしれない。いや、もしや、風邪か?熱があるのか?体調が悪いのか?心臓発作とか?やばい、すごく心配だ。
未だに黙ったままの王馬のおでこに手を当てる。なんかよくわからん。熱くないといえば熱くないかもしれないし、熱いと言われれば熱いかもしれない。顔色や目の状態を見るために顔を固定して覗き込む。「んぇ、」なんか鳴いた気がしたが気のせいだろう。若干顔が赤い気がする。眼は充血もないし大丈夫そうだ。あと何を確認すればいい?心音か?
立ちすくんだままの王馬の胸の高さに合わせるため膝を立ててしゃがみ胸に耳を当てた。規則正しい心音が聴こえて安堵するが、かなり音が早くなってる気がする。やっぱり具合が悪いのかもしれない。
「王馬、このまま保健室「総統キーーーック!!!」
見事な回し蹴りを食らった。痛い。頭を抑え蹲って何が起きたか分からず固まっていると、今度は王馬が俺に目線を合わせるように目の前でしゃがんだ。
「名字ちゃんの阿呆。アホアホボケボケ」
「はぁ?何だよ、心配してやったのに…」
何はともあれこれだけ元気な回し蹴りができるのだ。心配は無用らしい。
いっきに馬鹿らしくなり、衝撃で落とした鞄を拾って立ち上がり服の汚れを叩き落とす。腕時計を確認すると、それなりに危うい時間だった。
「おい、元気なら走れるだろ」
「無理!」
「はぁ?」
どう考えても元気でしかない声で返事が帰ってくる。いいから遅れるとぞと急かすと、王馬はその場にぺたんと座り込んだ。
「名字ちゃん、今のがオレの最期の力を振り絞った、渾身の一撃……もう立つことも歩くことも出来ない。くっ…!行ってくれ!名字ちゃん!オレはここまでみたいだ…!!」
「あ、うん。じゃあな」
「ワァーーーッ!!!おいでがないでよぉーーーっ!!うわぁぁぁあぁぁぁあん!!!」
スーパーでお菓子をねだって懇親の力で泣く子供を見ると、時折とてつもなく羨ましく感じることがある。人間、理性が狭苦しいと感じる時だってあるのだ。こいつには無いと思う。
「あるげないんだよぉーーーっ!!もう1歩も歩けないのーーーっ!!!うわぁんうわぁんぁああああーーーっ!!」
子供もいないしなんなら恋人もいないのに、もう育児の大変さを知った気分だった。これを相手する全国のお母さんは凄いし、もしそういった場面に出くわした時、俺は今日の事を思い出し勝手に同情してしまうだろう。
周りの視線が痛い。鞄を一度降ろし、地べたに座り込んでる王馬を拾い上げて肩に担ぐ。普通にそれなりに重いが、とりあえず泣き止んだので良しとしよう。鞄を拾って小走りで校門へ向かう。泣きわめかれた時より、周囲の視線が更に強くなったのが最悪だった。
「えーオレこういう時っておんぶだと思うんだけど」
このままぶん投げてもよかったが、そう言った後、嬉しそうに「にしし」と笑って肩にしがみついてきたのが可愛かったので、特別に許してやることにした。