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ホームズを探して歩き回ること1時間。一体あの経営顧問はどこへ行ってしまったのかと思えば、スタッフ専用の狭く薄暗い機材室でパイプ椅子に座り、虚ろな目で天井を見上げているではないか。

「ホームズ、何してるんだー。管制室に戻ってくれー…」

「……あー…」

返事はあるが屍のようだ。彼の美しい真実を見通せる瞳は、普段がストレートティーなら今はたぶんミルクティーぐらい濁っている。

「ほら、立香くんもダウィンチちゃんもマシュもみんな頑張ってるから」

「それなら私がいなくても大丈夫だろう…解き明かすまでもなく、今回はただのトンチキ特異点だよ…」

ふぅー、と深い深呼吸をして遥か宇宙の真理の方へ視線を向け続けるホームズ。彼のコレ、もはやカルデアの医療系サーヴァントでも手に負えない病のひとつじゃないか。確かに今回の特異点先は、なんていうか、そんな緊迫する事件のあるものじゃ無さすぎるけど…。

「だからってこんな所で、死んでるみたいに座ってちゃ怖いんだよ。ほら、せめて自室行こう」

「死体になったらいい。そしたら、それ以上は死なないからね…」

「怖い、何言ってるのこの人…」

これは本格的に駄目そうだ。どうやら疲労と退屈とでバチバチに薬キメちゃっているらしい。動きそうもない虚ろな目の成人男性をなんとか肩で担いで持ち上げるが、脚が長すぎてほぼ引きずっている。許せ経営顧問。

「っだぁ、普通に重たい」

「ほぉ…君にもそれなりに筋肉があったとは」

「歩いてくれませんかね!」

「すまないが、今日の私は死体なのでね…」

「よく喋るよこの死体!」

傍から見たら本当に死体遺棄現場のような光景なんじゃないか。青白いホームズは目を閉じて動かないでいると本当に血色が無く生気が感じられないので、わりと冗談ではなく心配になってしまう。

「ふむ…いつだったか、私が君を運んだ時は…もっとスマートにやっていたがね…」

「…………」

思い出させないで欲しい。







ホームズの部屋へなんとか辿り着き、彼をベッドへ沈みこませた。半ば投げ込むようになってしまったのは許してほしい。
はみ出た脚をベッドに乗せて体を仰向けにする。「素晴らしい、世界が語りかけてくる…」とか呻いている青白い顔のイケメンの髪を適当にほぐし、喉元のボタンを1つ外した。これで少しは楽になっただろうか。髪を下ろしたホームズは幾分幼く見えた。

「婦長には内緒にしとくから、正気に戻ったら管制室に来てくれよ。トンチキ特異点でもなんでも、貴方がそこに居るだけで、みんな安心するんだから」

聞こえてないと思ったが、それだけ伝えて扉の方へ向かう。すると、ホームズの方からトントンと指でテーブルを鳴らす音が聞こえた。振り向くともう一度、ホームズは目を閉じたままベッド横のサイドテーブルを2回指で鳴らしている。
犬にでもなった気分だが、仕方なく彼の枕元へ向かった。ベッドの高さにしゃがんで、枕に顔を半分沈めたホームズの方へ身を寄せる。

「何ですか、経営顧問」

そう声をかけると、今度は指でもっと近づけとジェスチャーしてくる。なんなんだと思いつつ、もう少しホームズの方へ顔を寄せていく。

「わ、」

いきなり、襟元を軽く引っ掛けるようにして引っ張られ体勢が崩れた。なんとか咄嗟にベッドへ手をつくが、いつの間にかこっちを向いて横向きになっていたホームズとの顔の近さに狼狽える。ホームズの目はもう閉じられていない、しっかりとこちらを見ていた。

「光栄だよ、ミスター。ありがとう」

ゆっくりと指が襟から離れる。そしてホームズは寝返りをうつと、また遠い世界へトリップしたのか、目を閉じて深い呼吸を繰り返し始めた。

それを確認して、急いで立ち上がって部屋を出た。なんか後ろで「そうか、そうかいワトソンくん」とか楽しそうな声が聞こえるけど、今のもそういう類の幻覚発言なら俺のこのうるさい心臓が騒ぎ損すぎるので許せないんだが。

「あ〜…あ〜あ〜あ〜!」

色々とかき消すように早足で管制室へ向かった。出来れば、この頬の熱も、辿り着くまでに冷めて欲しいもんだ。