優しさ











生きてるだけで殴られてた。



寝ていれば酔って帰って来たアイツが
アタシのこと気に入らなくて腹を蹴った。

朝方まで働いた母親を罵倒して酒瓶を投げ付けて
飛び散った破片で血が流れた。

アタシがアイツに殴られても母親は泣くだけで
止めには一切入ってこない。
鈍痛で身体が重くてボロ雑巾のように転がる自分に
ごめんねを繰り返しながら抱き締めるだけ。

でもその愛情だけでも救われていたんだ。

なのに、その愛情さえもアタシは失った。



いつもの"ごめんね"と書かれたメモだけ残して
母親はこの家に二度と帰ってくる事はなかった。



怒り狂ったアイツは気が済むまでアタシを殴った。
死なない程度に学校にはバレない程度に
目立たないところばかり蹴って怒鳴り散らした。
アタシにはどうする事も出来なくて
ただのサンドバッグになるしか無かった。













中学に上がってやっと家に帰らない方法を見つけた。
アイツみたいに色んな男の家を転々とすれば良いんだ。
初めて声を掛けたのは公園で煙草を吸ってた
高校生のヤンキーだった。
家に泊めてくれと頼んで見返りは何でもする。
交渉成立はあっという間だった。

綺麗なマンションで両親ともに優しそうな
悪く言えば気の弱そうな人たちで
アタシが泊まるって言っても
何も言わず息子の言いなりだった。

少し散らかった部屋だけどアタシの家が
ワンルームしかないからそれと同じくらいだった。
ベッドに押し倒されてその後は覚えてない。
汚い息にヨダレを身体中に付けられて
その辺の犬みたいに舌を出して
アタシの口内を舐めずり回した。

股を開かせて自分でも触れない奥深い箇所に指を入れて
水っぽい音と男の荒い呼吸が部屋に響く。
そして初めて見る男性器を当てられて
指よりもさらに深く刺さって息が苦しくて
股が痛くて仕方なかった。
殴られるとは別の痛みが体の中に響いて
早く終われと祈るばかりだった。

その行為に慣れるのは3回目の事だった。

その男の都合が悪い時は別の男を紹介された。
色んな男の家を回ってて煙草や酒を覚えた。
煙草を吸えば頭で考える事が無くなって
イライラや吐き気が収まる気がした。

でも男は勝手で本命が出来ればアタシは用済み。
ゴミみたいな扱いなのは何奴も同じだ。
男のあても無く家に帰る気にもならなくて
またテキトーに声を掛けて泊めてもらおうと思って
公園の喫煙所で煙草を吸って誰か探してた。
そんな時に大人の若い男が隣に立って煙草に火を付けた。



「………お兄さん彼女いる?」

「あん?いねーよ。何ナンパ?」

「うん。アタシ帰る家無いんだ。
泊めてくれたら何でもしてあげるから泊めてよ。」

「……いいけど、」



ほら、ちょろい。
大人も高校生も男は皆んな変わらない。
風俗がいつまでも無くならないのはそういう事だ。
結局自分の欲が満たせれば良いんだ。



アタシは男の後ろをついて行き、
大きな和風の家に案内された。



「(こいつボンボン…?)」

「俺ん家こっちだから。」



そしたら何故か大きい家の同じ敷地内にある
プレハブに案内されてガレージみたいだった。
でもベッドもソファもテレビもあるから
生活していることには間違いないけど
なんでわざわざ家を分けているのか分からない。



「……あんたこの家の居候?」

「アホか。長男だわ。
俺の部屋はマイキーが使ってんの。
此処なら好きにバイクいじれるし。」

「マイキー…?(外人?こんな和風の家なのに?)」

「つかお前いくつ?まだガキだろ。」

「……高1…」

「嘘つけ。その制服 桜中だろ。」

「……だったら何?」

「一応確認だよ。
ほら、これ着替え。ついて来い。」

「……」



母家を案内されると洗面所に来た。



「これバスタオル。
シャンプーはこれエマのだから使って。
それ以外も好きに使っていーから。」

「………うん。」



丁寧に説明されてシャワーを浴びた。
エマって外人がさらにいるのか。
彼女いないって言ってたし兄弟のかな。
女物のシャンプー使うの久々で
フローラルの香りがいい匂い。

シャワーから出て身体を拭いて着替えて
まだ濡れた髪をタオルドライしながら
さっきのお兄さんの部屋に移動した。



「お前メシは?」

「別に良い…」

「ちょっと待ってろ」



お兄さんはそう言って部屋から出て行き、
そのまま待っていると少しして戻ってきた。
醤油のいい匂いがしたと思ったら
焼うどんを持ってきた。



「え…」

「え、嫌いだった?」

「ううん…アタシに…?」

「俺も食うけど。」

「………」



テーブルに焼うどんが二つと麦茶が二つ。
いつもコンビニのおにぎりとかパンだったから
ちゃんとしたご飯は給食以外無かった。

湯気がしっかり立っていて熱そう。

しっかりフーフーしてから食べると
鰹節と醤油の香ばしい味が口に広がって美味しかった。



「………美味しい。」

「だろ?俺の得意料理だからな。」

「お兄さんが作ったの?」

「おう。」

「上手なんだね…」

「それ食ったら歯磨いて寝ろよ。
俺職場に戻るから。」

「え?」

「?」

「………一緒に寝ないの?」

「あん?寂しがりやか?」

「じゃなくて…セックスしないの?」

「するかよ。ガキ相手に。」

「じゃあ何で泊めてくれんの?」

「帰るとこねえんだろ?」

「だってただ泊めるだけじゃ
そっちになんのメリットがあんの?」

「別に、メリットとか考えてねえし。」



アタシには意味が分からなかった。
見返りなく親切にするなんて馬鹿じゃないの。
逆に怖くなってアタシは焼うどんを残して
荷物をまとめてそこから出ていこうと思った。

慌てて服を脱いで着替え出すと
お兄さんがアタシの腕を掴んで止めた。



「ちょ、落ち着けって…どこ行く気だよ、」

「やめ…離して…!」

「おい。何このアザ……」



はだけたシャツから見える腹部のアザに気付くと
お兄さんはシャツを脱がして肩や腕にあるアザも見る。
見え辛いところだけ殴られた。
こんな痛々しいアザを見ても
他の男は見て見ないふりしてた。
なのに、お兄さんは強く抱き締めてくれた。



「………帰るとこがねえんじゃなくて、
帰りたく無かったんだな。」

「………」

「親父か?母親か?」

「……親父……、お母さんは逃げた…アタシ置いて…」

「そうか……辛かったな。」

「同情なんて散々されてんだよ!
まだ見返りを求められた方がマシ!
気持ち悪いんだよ!その同情が!離せよ!」

「……少し前に似たように怒られた」

「はあ!?」

「でも、俺にはこれしか出来ねえんだよ。
寄り添ってやる事しか出来ねえ。」

「何言って……」

「此処は開けとくから寝たい時は此処に来い。
帰りたい時は帰ればいい。ただこれだけは約束しろ。
自分の身体を大事にしろ。約束だ。」

「ッ……」



この人が何を言ってるか分からなかった。
でも嘘じゃ無くて真っ直ぐ見てくれて
強く抱き締めてくれた温もりは本物だった。

その優しさにアタシは慣れてないから
受け入れるのには時間がかかった。
寝てる間に襲われるんじゃ無いか
そんな事を考えて直ぐには眠れなかった。

でもその日目が覚めたとき
その人は自分のベッドじゃなく
ソファにブランケット一枚で寒そうに包まってた。