愛情










ソファで寒そうに縮こまるその人に布団を掛けて
アタシは制服に着替えて部屋を出て行った。

一晩泊めてやった親切で満足でしょ。
勝手に入って寝て行っていいなんて
そんな都合の良い場所にされるなんて
そのうち迷惑になるに決まってる。
いい顔してたのがだんだん迷惑になるに決まってる。

良い家で育って幸せな家族の中に紛れ込めなかった。

公園で時間潰してから学校行こうと向かってたら
向こう側から親父が歩いていて
思わず立ち止まったら気付かれた。



「テメェ!今までどこの男の家に行ってた!?(怒)」



気付いたら直ぐに怒鳴り散らして走ってきた。
アタシは思わずビビって動けなかった。
そして今まで目立たない場所しか殴らなかったのに
初めて顔を思いっきり殴られて
身体が吹き飛んで地面に叩きつけられた。

コンクリートに叩きつけられて身体が痛い。
殴られた時に口が切れて血の味がする。
それでも親父は朝っぱらから場所を考えずに
いつも通りに腹部を蹴って血を吐く。

そうだ。これがアタシの日常だ。

そこから少し良くなって男の家に転がり込んで
身体を売ってた方がマシだったのに
それ以上の幸せを味わったから
こんな不幸な事が返ってきたんだ。
夢なんて見るもんじゃない。
結局アタシはこれがお似合いなんだ。



「テメェまで俺を捨てやがって……!」

「何してんだテメェ!」

「!」

「あ!?なんだテメェは!コイツの男か!?」

「子ども蹴り飛ばして恥ずかしくねえのか!」



朦朧とする意識の中で怒鳴り合う声
親父ともう一人はあの人だ。
アタシの事追ってきてたのか。
然も親父に楯突くなんてダメだ。
そいつは簡単に人を殺せる奴なんだ。



「誰に向かって口きいてんだテメェ!
ブッ殺されてえのか!(怒)」

「ッ……親父、ごめん…」

「あ!?(怒)」

「!」

「……この人何も手ぇ出してないんだよ。
アタシが勝手に転がり込んだだけで…
それまで転々と別の男の家に行ってたんだ…
この人は何もしてないから許してよ…」

「お前……」



アタシは親父とあの人の間に立って本当の事を伝えた。
親父に楯突こうなんて思ってない。
ただ、あの人を巻き込みたく無かったんだ。



「テメェはすっこんでろ!(怒)」バシッ

「ッ…!!」

「おいテメ…!!」



親父に引っ叩かれてコンクリートの塀に当たった。
それにキレたあの人は親父に殴りかかったけど、
親父も暴力団の一員だ。
あの人までボコボコに殴っていると
誰かが通報してパトカーのサイレンが鳴り響いた。
親父はそのまま逃げるように走り去って行った。















「………大丈夫か?」

「お兄さん喧嘩弱かったんだね…」

「おう…」



お兄さんは身を引きずってアタシの方まで来て
心配そうな顔をしていた。



「これで分かったでしょ?
アタシと関わるとろくな事無いよ。
親父、暴力団の構成員なんだ。
薬の密売とか賭博とか…汚い仕事してる。
関わると最悪死ぬよ。だからアタシの事は…」

「ほっとけるかよ。」

「……」

「こんなボロボロになってよ。
毎日一人で耐えてたんだろ。
ガキの頃からずっと。お前、俺ん家来るか?」

「何言って…兄弟いんでしょ…親だって……」

「親はいねえ。爺ちゃんだけ。
小6の弟と小5の妹がいる。」

「………ありがと。
でもしょうがないよ…アイツが親なんだから…
帰らないとさっきみたいな目に遭うし、
最悪殺されちゃう…だから、時々泊めて。」

「それでいいのか?」

「うん。毎日じゃなくていい。
殴られるのに疲れたら泊めて。」

「……いつでも来い。」

「うん。」



アタシはぎこちなく笑って
お兄さんの頬にできたアザを軽くさすった。














ーーーーーーー…*°





「真一郎ー」

「おう 瀬里奈。」



お兄さんの名前は佐野真一郎。
家の近くのバイク屋で一人ひっそり働いていた。
真一郎は喧嘩が弱いくせに元暴走族の総長だった。
然も創設者で今も受け継がれていて
皆んなの憧れの人だった。

だからバイク屋には時々OBが集まる事が多くて
武勇伝の話をすると少し照れ臭そうにしていた。
でも、皆んなが憧れる事はよく分かった。
アタシもその一人だったから。



「あ、イヌピーだ。」

「また来たの瀬里奈。」

「そのまんま返すよ。」

「瀬里奈 この間は大丈夫だったか?」

「うん。親父も女の家に行ってた。」



真一郎の家に泊まった日は必ず聞いてくれる。
殴られた日は病院に連れてってくれたり
手当てもしてくれて本当に優しかった。

イヌピーも真一郎に惹かれて通っている一人だった。
いつも居座っててバイクをいじってる真一郎を
ただ見ているだけで時々話すくらい。
イヌピーは昔家が火事になって
顔に火傷の跡があるけど綺麗な顔をしていた。
アタシはイヌピーの隣に座って真一郎を見る。



「ねえ、単車って女も乗れるの?」

「これはムリだけど後ろにある
ヤマハのドラッグスターとか
ボディは高いけど車体が低くて低身長でも乗れるよ」

「へー」

「何?乗りたいの?」

「ううん。CB250T(バブ)に乗せてもらう方が好き」

「欲しくなったら中古組み立ててやるから言えよ」

「うん」



真一郎がバイクをいじる姿はカッコ良かった。
夢中になって少年みたいで。
それを眺めてるだけでも幸せだった。
でもアタシは真一郎の全部が好きだ。














あれから真一郎の家に何度か泊まったけど
ずっと真一郎はソファで寝ていた。
夏は良いけど秋になってくるとまた冷えてくる。
真一郎が寝に入った時、アタシは真一郎に声を掛けた。



「ねえ、」

「うん?」

「いつまでそっちで寝てんの?」

「いつまでって…お前いるし、
ソファで寝る事よくあるし。」

「アタシ嫌じゃないよ?」

「……お前はガキだろ。」

「アタシ真一郎の事好きだよ。」



お互い別々の布団に寝たまま告白して
真一郎は背もたれに顔を向けてるから顔が見えなかった。
これでもアタシは顔が熱くて胸もドキドキしてるのにな。



「ありがとな」

「真一郎はアタシじゃダメなの?」

「……9コも離れてて
お前は子供で俺はもう立派な大人だ。」

「アタシがいるから彼女出来ないの?」

「俺が知りてえわ(汗)」

「いつになったら考えてくれる?」

「……そうだな…お前が高校生になって
俺がオッサンでもいいなら考えてやる。」

「ほんと?約束だよ?」

「ああ。」

「それまでにもし他に好きなコできたらダメだよ」

「なんでだよ(汗)」

「アタシの事好きになったら
高校まで待たなくても良いからね。」

「自信満々だな(笑)」

「そりゃそうだよ。
誰よりも一番真一郎の事が好きだもん。」



アタシにとって真一郎は絶対の人になった。
高校生になるまであと2年
2年後にはアタシは真一郎の彼女になって
絶対同じベットで寝て 一緒に暮らすんだ。











そんな夢を思い描いて
その日アタシは深く眠る事が出来た。