鉛
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12年後 都内の高級ホテルのベランダで
瀬里奈は煙草を吸って夜景を見下ろしていた。
透き通るようなホワイトシルバーカラーに
ハイレイヤーのロングウルフの髪が風に梳かされて
前髪の隙間から見える長いまつ毛に虚な瞳は
昔と変わらない目をしていた。
黒地に白いレースのついたサテン生地のキャミワンピに
黒いファーコートを羽織っているが
さすがに冬にその格好は直ぐに湯冷めしてしまったが
今はこの生きてる心地も感じさせない温度が心地良い。
「瀬里奈」
もう何年も聞き慣れた声に
瀬里奈は部屋の中に入り灰皿に煙草を押し付け
呼び主がいる寝室へと入ると
前下がりセンターパートの黒髪になったマイキーがいた。
艶のある黒髪に瀬里奈は吸い寄せられるように
マイキーが座るベッドにコートを脱いで上がった。
「髪 さっぱりしたね。」
「うん。首が寒い。」
「タトゥーがよく映えて良いと思うよ。」
スーツ姿にネクタイを緩めてボタンを外した
マイキーの首筋にはドラゴンのタトゥーが彫られていた。
これはドラケンと三ツ谷が頭に入れてたものと同じだ。
その二人は先日マイキーに殺された。
八戒も千冬も一虎もパーも皆んな殺した。
昔を知る皆んな消して終えば
残りは後自分だけになるからだ。
「その髪型 昔のイザナみたい。」
瀬里奈はそう言ってマイキーの髪に指を通す。
イザナとは誰かそれは今のマイキーに関係する。
此処ではまだ語らなくて良い話だ。
まるで猫のように寄り添い
首元に顔を近づけて龍にキスをして
そのまま耳元もキスをして舌で遊ばせる。
そしてその耳元で囁いた。
「後はアタシとマイキーだけだね…」
少し寂しい様な優しいトーンで言うと
マイキーは表情変わらずポツリと言い出す
「瀬里奈 もう終わりにしよう。」
目も合わさずベッドに腰掛け足元を見ている
俯いた視線のまま告げられた。
「いいよ マイキーが決めた事なら。」
そう言うとマイキーは体制を変えて
瀬里奈を押し倒して馬乗りになる。
「なァ 瀬里奈…ずっとだよな。
ずっと お前は俺を否定しなかった…」
「だってアタシは……」
「お前は俺のだからな。でも、
俺はお前にも俺を止めて欲しかった…
タケミっちも俺から離れていって…
ドラケンも三ツ谷も誰も…
俺を止めてなんてくれなかった……」
泣きそうなくらい寂しそうな声で
どんどん自分と同じくらい堕ちていくマイキーを見て
愛らしくて愛おしくなって離れなかった。
だって君がどんな自分でも捨てなかったから。
そう言ったら何て言うかななんて
分かりきった答えを考えるのも無意味で
瀬里奈は無慈悲な愛情をマイキーに伝えた。
「だから今こうやって一緒にいるんだよ。」
一緒に堕ちるってあの時言った。
その意味通り二人の現状は幸せとは遠く
金と地位だけ手に入れて汚れてしまった。
手に入れたいモノの為に邪魔なモノは全部壊して
気付けば手の平は真っ赤な血で染まっていた。
マイキーはもう、限界だったんだ。
「後悔してるの?マイキー」
「……」
マイキーの虚な目を見て瀬里奈はジッと見つめる。
こんなに傷ついてボロボロで空っぽなのに愛しい。
ずっと自分だけ側にいて崩れそうな時は
ギュッと抱き着いてしがみついて
無敵のマイキーとは思えない弱い彼を見てきて
それを優しく包み込んでいた。
「マイキー」
瀬里奈はそっとマイキーの頭に手を伸ばして
そっと引き寄せてそのまま深いキスをした。
「なら、マイキーはアタシを殺すべきだよ。」
冷たく言い放った瀬里奈の瞳は昔と変わらない
深い黒で冷たくて光がなくて
この世界に初めから希望なんてものは無かった。
たった一人 同じ人を失った。
それだけなのに二人の歩く道は
暗くて沼のように重たくて
しがみついていないと踏み外してしまいそうで
お互いしがみついて歩いていたら
やっとたどり着いた先は絶壁で
後ろから押してくれれば堕ちる場所だった。
「俺は、瀬里奈を殺せない。」
「一緒に死なないの間違いでしょ?」
「………」
「じゃあ、先に逝くね。」
後ろから推してくれないのなら、
自分でゆっくり堕ちる事にした。
瀬里奈はマイキーの目の前で死んだ。
そしてマイキーはその一連を見守っていただけで
自分を見つめながら死んだ瀬里奈を
最後はしっかりと抱き締めた。
ーーーーーー…*°
「僕の記憶が上書きされた…
って事は君が帰ってきたという事です。」
12年後 タケミチは三ツ谷の葬式に参列していた。
そしてヒナも亡くなったニュースが出ていて
未来は失敗していた。
無駄に広い高級マンションから
元々住んでいた古びたアパートに代わり
机の上には懐かしい東卍メンバーとの写真。
それを見つけたタイミングで
生きていたナオトと再会をした。
「ナオト!!何が…何が起こってるんだナオト…!」
「タケミチ君はこれまで姉さんを助ける為、
何度も過去にタイムリープしてきましたね。
今回の未来はこれまでで最悪です…」
「…」
「姉さんが助かっていない事は勿論。
東京卍會の主要メンバーは…全員殺されました。
松野千冬射殺。柴八戒焼殺。三ツ谷隆絞殺。
龍宮寺堅斬殺。羽宮一虎も林田春樹も
他のメンバーも全て殺されました。
稀咲すら殺されています。」
「…稀咲も?(汗)みんな…死んでる…?
そんなっ……なんで…?」
「犯人はまだ捕まってません。
どこにいるか手がかりすらない。………」
「!、マイキー君は!?
マイキー君もまさか…殺されたのか!?(汗)」
「心して聞いて下さい タケミチ君。
現在一連の殺人の容疑者として
指名手配されているのが佐野万次郎です!!」
「………は?テメェふざけんのも大概にしろよ?
そんなわけねェだろ…!?
マイキー君が皆んなを殺すなんて
絶ッ対ェねえだろ!オイ!!!(汗)」
タケミチは強くナオトに怒鳴りつけた。
「………それと、藤井瀬里奈という女性はご存知ですか?」
「!、瀬里奈さん……?
そうだ…!瀬里奈さんならマイキー君の事知ってる!
あの人はマイキー君の彼女なんだ!!」
「その藤井瀬里奈ですが、
彼女は佐野万次郎の恋人として警察のターゲットでしたが、
先日都内ホテルで死んでいるのを発見されたそうです。」
「……は…?」
「死因は薬物中毒死……
睡眠薬や覚醒剤などと一緒に酒も飲んでいて
一見自殺に見えますが藤井瀬里奈の他に
誰かいた痕跡があることから
佐野万次郎といたと考えられます。」
「なん…マイキー君が瀬里奈さんまで……(汗)」
「……タケミチ君。僕も真相が知りたい。
佐野万次郎に会って話を聞きたい。
それが出来るのは君だけです。
東卍元幹部でありながら、
唯一殺されていない 君だけなんです。」
「………マイキー君が、
あのマイキー君が…東卍幹部皆んなを…殺した?
ナオト…本当にマイキー君がやったのか?(汗)」
「………タケミチ君に何か心当たりはありませんか?(汗)」
「え?」
「今回のタイムリープで手に入れた情報
その中で必ず手がかりがあるはずです。
少なくとも過去で君が何かをした事で
現代が大きく変わったんです。」
「…"俺がした事で"って…俺が失敗したって事か?
俺は東卍を狂わせた二つの存在を、過去で排除出来たんだ
黒龍は潰したし稀咲を東卍から追放できた!
全部上手く行ったはずなのに!!(汗)」
「………タケミチ君(汗)」
「………何がいけなかった?
俺が…マイキー君は一人でもやれる
なんて言ったのがいけなかったのか?
あと した事なんて?この写真を撮ったくらいだ…」
タケミチは最後に撮った写真を握り締める。
「……タケミチ君。
その写真…どこにあったんですか?」
「……どこって…そこコタツの上に…
……あ!手紙!写真…この中に入ってたのか…?」
「!、その手紙ちょっと見せてください!」
「え?」
「消印…日本じゃない…フィリピン!
この手紙…誰が出したんですか!?」
送られてきた手紙には住所と一言
1月20日 いつか話したあの場所で。
タケミっちが運転してマイキーが後ろに乗って
二人で笑って話して約束した
二台のCB250Tが眠っていた廃墟。
タケミっちはフィリピンのマニラに向かった。
真冬の日本とは違って湿気による生温い暑さだった。
書かれていた住所に向かい廃墟の中に入る。
入り組んだ構造だが直感で進み続け
多少息が荒くなるが 移動だけではない。
現代で初めてマイキーと会う事に緊張していた。
昔とは違う仲間も彼女も殺す巨悪化したマイキーと会う。
勢いで来てしまったが自分も殺されるかもしれない。
そう思ったタケミチは帰った方がいいのではと
また逃げの方向を振り返ってしまうが、
むせこんでしまいそうな灰色の空の下
天井が壊れた廃墟に大量のスクラップ
真一郎がCB250Tを見つけた場所だと直ぐに分かった。
「タケミっち?」
声がした方を振り向くと
そこにはあの頃と変わらない目をしたマイキーがいた。
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