あの場所で
▽
自分の名前を呼ぶ声がして振り返ると、
「マイキー君!!」
あの頃(12年前)と変わらない目をしたマイキーがいた。
現代でやっとマイキーまで辿り着けた事に
タケミチは嬉しくなって
言葉が詰まって涙しか溢れてこなかった。
「あの…すいません…!」
「泣き虫は相変わらずか?」
「へへ…」
「ここにわざわざ呼んだのは"頼み"があってね。」
「え?"頼み"?」
「ここに来て兄貴のこと思い出したらさ、
色んな思い出が溢れてきて
ガキの頃は色んな奴らと殴り合って
わかりあって笑い合って泣いたりして、
そうやって東卍は大きくなっていったんだなぁ…って
懐かしくなっちゃった。」
「……マイキー君」
「………東卍は変わっちまった…」
「……え?」
「タケミっち。
………なんで東卍を出ていったんだよ?」
「!(汗)」ドクンッ
「一緒にいて欲しかった。
兄貴のように叱って欲しかった。」
マイキーの柔らかい表情に合わない
暗くて冷たい瞳にタケミチは心臓が強く脈打った。
「なんとか一人で頑張ったんだ。
でも、抑えられなかった。
俺が俺でなくなることを。」
「……マイキー君…それどういう…」
「………東卍を出て行くお前を
引き留めようとした俺に
ケンチンは…こう言った。」
「!」
やめろって言った。
三ツ谷もそれに賛成した。
マイキーが選んだ道は修羅の道で
恩人であるタケミチに同じ道を歩んで欲しくなかった。
そう言われて自分も引き下がった。
「あの二人が…そんな事を…?」
「ああ 最高の奴らだよな。
そんな奴らを俺は殺した。」
「…え!?(汗)」
「タケミっち あの頃の東卍はもういない。
アイツらはみんな……みんな俺が殺した。
だから頼む…お前が終わらせてくれ。」
そう言うとマイキーは拳銃を取り出し
タケミチの前へと投げ捨てた。
「俺を殺せ。」
マイキーはタケミチの前へと歩み寄った。
「ここで全て終わらせたいんだ。俺の夢を。」
「………な、何言ってんだよ?マイキー君
やめて下さいよ ワケわかんないですよ
会っていきなり俺を殺せなんて…
俺はマイキー君に会いたかっただけなのに!」
「会いたかっただけ…
八戒も死に際に同じような事言ってたっけ」
「八戒…死に際…?」
「……夢を叶えるのは難しいね。
"不良の時代を創る"
その道目指して東卍は突き進んでいったはずなのに
いつの間にか、こんなんになっちまった…」
「……こんなんに?」
「初めて人を殺した時、何も感じなかった。
そして思ったよ。世の中の難しい事って大抵
人を殺せば簡単に解決するって、
邪魔なものは消しちまえばいいんだって。」
「違うよマイキー君!!
マイキー君は変わってねえ!
あの頃のまんまだよ!!」
「…やめろタケミっち」
「俺目ェ見て分かるもん!
何にも変わってねえよ!!」
「やめろ」
「変わってないよ だから…だから!!
消すとかそういうのやめてよ!!!」
マイキーの両肩を掴んでタケミチが言い詰めると
マイキーはタケミチの胸ぐらを掴んでひっくり倒し
拳銃をタケミチの頬に突き付けた。
「お前はなんなんだ?」
昔と変わらないタケミチと
変わり果てた自分が遠くて辛くて
マイキーの目に涙が溜まった。
「そんな目で俺を見るな」
綺麗な瞳で汚い自分を写さないで欲しい。
「銃を拾え タケミっち。
俺を殺すか、自分が死ぬか だ。」
その問いかけにタケミチは動く事は無く、
二人の間に僅かに沈黙が流れたが
マイキーが直ぐに言葉を繋げた。
「あの頃は取り戻せない。」
そう言った瞬間 銃声が鳴り響いて
自分を馬乗りになっていたマイキーは崩れ倒れ
持っていた銃もカチャンと落ちた。
打ったのは後から付いてきていたナオトで、
タケミチが殺されると思って先に打った。
横たわるマイキーを見てタケミチは抱き寄せる。
「マイキー君!!!」
転がっていた銃には安全装置がかかっていて
マイキーはタケミチを殺すつもりはなかった。
タケミチもマイキーは殺させなかった。
「マイキー君!!マイキー君!!!」
後頭部から流れる血が生温い。
「マイキー君!!!!」
「………橘ナオトか…」
「!(汗)」
「……ありがとう。
たぶん…タケミっちには無理だったから」
「マイキー君、」
「やっと、終わるんだね。
俺の人生は苦しみだけだった…」
「そんな事言わないでマイキー君!!
俺……変えれるから!」
「タケミチ君!?」
「俺 過去に戻れるんだ!やり直せるんだ!
こんな未来(現代)にならないように俺頑張るから!
絶ッ対ェ…絶ッ対ェ諦めないから!!
だからそんな悲しい事言わないで…!!」
「ふふっ……ありがとうタケミっち」
「え?」
「俺を慰めてくれるんだな 嘘でも嬉しいよ。
………タケミっち」
「……ハイ」
「お前の手…あったかい」
遠のく意識の中 過去に戻れたらと思った時
思い浮かぶのは自分を見つめる瀬里奈だった。
「………瀬里奈、終わった…よ」
マイキーの最後はタケミチの腕の中で
まるで浄化された心地の中 死んだ。
ーーーーーー…*°
「……ん…」
「起きた?マイキー」
同じ布団の中 瀬里奈は下着に上だけスウェットを着て
身体を起こして携帯を見ていると
布団にすっぽり潜っていたマイキーが
もぞっと身体を動かした。
「ちょうど雨止んだよ」
「んん…」
寝起きが悪いマイキーは寝ぼけながら
瀬里奈のスウェットをキュッと掴んで
また身体を縮めて丸くなっていた。
そんな彼が可愛くて、瀬里奈はフワフワとした
ブリーチ毛の髪を撫でる。
「………なんか夢見た気がする…」
「良い夢?」
「……うん…なんか…暖かかった…」
「そっか、良かったね。」
「瀬里奈に抱き着いてたからかな…」
「そんなのいつもなのに」
「そっか……」
「エマがさっきご飯出来たって呼びに来たよ。」
「起こしたら良かったのに…」
「何となく起こしたくなかったから。
良い夢だったのなら良かった。」
「……ありがとう 瀬里奈」
「ん」
マイキーは身体を起こして瀬里奈にキスをした。
そしてご飯を食べにベッドから降りるが、
瀬里奈はソファに移動した。
「瀬里奈は行かねェの?」
「うん。いらないって先に言っておいた。
今日はお腹空いてないんだ。」
「それ以上細くなってどうすんの?」
「無理に食べてもエマに悪いし。」
「残ったら俺が食うだろいつも」
「ごめんね 体調良くないみたい」
「……分かった」
マイキーはそう言って部屋を出て行くと
瀬里奈は煙草に火を付けて吸い始めた。
昔から低気圧だと頭痛がする。
今日は特に酷くて眩暈や吐き気もする。
何もやる気が起きなくて
煙草を吸うと少し楽になる気がした。
この香りが自分を見失わせないでいてくれる。
「気圧重いなぁ」
横浜の街が見渡せる高いビルの屋上
天竺と書かれた赤い特服にあぐらをかき項垂れ
僅かに銀色に近い白髪が見える細身の男。
「こういう日はなんかあるって思ってたらさぁ
お前が訪ねて来たんだ。稀咲。」
堕ちるんじゃ無いかという程
ふらりと立ち上がる男の背後には
稀咲と半間が立っていた。
「言いたい事 分かる?乱気流が来た。」
ゆらりと揺れる両耳の夕日のピアス。
褐色の肌にフサフサした髪色と同じ色のたっぷりの睫毛。
吸い込まれそうな大きな瞳には意図が読めない
狂気的な何かが感じられた。
横浜 "天竺" 総長 黒川イザナ
「何でウチに入る気になった?」
「俺なりの"リベンジ"ってとこですかね…」
稀咲には止まらない理由があった。
「………まァ 良いよ。
その代わりに聞きたい事がある。」
「?」
「藤井瀬里奈についてだ。」
真一郎に手を差し伸べられた二人が混ざり合う。
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