ピクシーボブの個性によって、
足場ごと崖から振り落とされた私たちは、
咄嗟に個性を使って体勢を立て直す。
(落ちる…!)
一瞬の浮遊感。
次の瞬間には、私は反射的に
光粒子を足元に集中させていた。
光が足にまとわりつき、即席の足場を作る。
そのまま勢いを殺し、地面へと着地した。
着地の衝撃が足に伝わるけれど、問題ない。
周りでも、皆がそれぞれの方法で着地していた。
大きな氷をクッションにしたり、
爆発で減速したり、俊敏に受け身を取ったり。
(さすがA組…)
一瞬で状況に対応している。
その時。
「私有地につき個性の使用は自由だよ!
今から3時間!自分の足で施設までおいでませ!
この…“魔獣の森”を抜けて!!!!」
頭上から降ってくるような声。
思わず顔を上げる。
木々の隙間から見える空の向こうで、
ピクシーボブが楽しそうに叫んでいる。
(“魔獣の森”…?)
その言葉の響きが、現実味を帯びない。
でも、そのテンションとは裏腹に、
やることは明確だった。
“抜けろ”――それだけ。
「“魔獣の森”…!?」
「なんだ そのドラクエめいた名称は……」
戸惑いの声が上がる中、
何人かは土まみれになっていて、
口から土を吐いている。
「雄英こういうの多過ぎだろ…」
響香ちゃんのぼやきに、内心で強く同意する。
(ほんとそれ…)
私は制服についた土を軽く払い、
ポニーテールを後ろへ払う。
そして、周囲へ意識を向ける。
(何か来る…)
名前からして、“何もない森”なわけがない。
空気が、少しだけ重い。
その時。
「お…おしっこ…トトトトイレは……」
(あ)
峰田くんが走り出した。
その直後――
木の影が、揺れた。
地面が盛り上がる。
形を持つ。
「「マジュウだーーー!!!!?」」
土が、人の形とも獣の形ともつかない
異形へと変わる。
(出た…!)
峰田くんはその場で完全に固まっていた。
口田くんが動物たちに呼びかけて
気を引こうとするけれど、反応がない。
(効いてない…!)
あれは“生き物”じゃない。
土そのものだ。
(危ない!)
考えるより先に、体が動いていた。
光粒子を一気に展開。
足元に集中させて、光ブーツを形成する。
地面を蹴る。
一気に加速。
視界が一瞬で切り替わる。
目の前に迫る土のモンスター。
私はそのまま勢いを乗せて、
光を纏った蹴りを叩き込んだ。
衝撃と共に、土が崩れる。
同時に、
別方向から爆発音。
氷の軋む音。
風を切る音。
緑谷くん、飯田くん、轟くん、爆豪くん。
それぞれが一瞬で飛び出し、
同時に敵を叩き潰していた。
(速い…!)
判断も、行動も。
一瞬の迷いもない。
(やっぱりこの5人、機動力高い…!)
土のモンスターは砕け、崩れ落ちる。
けれど――
地面がまた、うねる。
(まだ来る…!)
一体じゃない。
次々と形を成し、数体の“魔獣”が現れる。
囲まれる。
逃げ場は、前しかない。
(倒しながら進むしかない)
林間合宿。
その言葉の軽さとは裏腹に、
これは完全に“試練”だった。
しかも、開始数分でこの密度。
(甘く見てた…)
周囲を見ると、皆も同じように構え直している。
誰も逃げない。
誰も止まらない。
(行くしかない)
私は再び光粒子を展開する。
足元に、空間に。
戦うための光を。
林間合宿初日。
その本当の意味を、体で理解しながら――
私は次の一歩を踏み出した。
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