やーーーっと来たニャン」
軽い調子の声が、夕暮れの空気に響いた。
顔を上げると、ピクシーボブが
腰に手を当ててこちらを見下ろしている。
時刻は夕方の5時20分。
長かった。
本当に、長かった。
山の中から、ぞろぞろとA組が姿を現す。
誰もが土まみれで、服は汚れ、
髪にも葉や土が絡んでいる。
(疲れた……)
足が重い。
呼吸も少し荒い。
それでも歩いてここまで来た達成感が、
かろうじて体を支えていた。
視界の先には、ピクシーボブとマンダレイ、
そして相澤先生。
その三人が、当たり前のように待っている。
「とりあえず お昼は抜くまでもなかったねえ」
マンダレイの言葉に、
その場の空気が一気に崩れた。
どっと疲れが押し寄せる。
(お腹すいた……)
空腹が急に意識に上がってきて、
体の力が抜けそうになる。
「何が三時間ですか…」
「腹減った…死ぬ」
尾白くんと上鳴くんの声に、内心で強く同意する。
「悪いね 私たちならって意味あれ」
マンダレイが楽しそうに笑う。
(いやそれはズルいでしょ…)
「実力差自慢の為か…」
切島くんが苦笑いを浮かべている。
(ほんとそれ…)
誰もが同じことを思っている気がした。
「ねこねこねこ…でも正直
もっとかかると思ってた。
私の土魔獣が思ったより簡単に攻略されちゃった。
いいよ 君ら……特に そこ5人。
躊躇の無さは経験値によるものかしらん?」
ピクシーボブの指がこちらに向く。
その先にいるのは――
私、緑谷くん、飯田くん、轟くん、爆豪くん。
(あ、最初の…)
あの瞬間、迷わず飛び出したメンバー。
(見られてたんだ)
少しだけ背筋が伸びる。
「三年後が楽しみ!ツバつけとこーー!!!」
その言葉と同時に、
ピクシーボブが唾を飛ばすような仕草をする。
「――っ」
反射的に一歩下がって、
私は轟くんの後ろに回り込んだ。
(ちょっと待って無理無理無理)
物理的にも精神的にも防御。
「おい…」
「ご、ごめん…つい…!」
隠れた事を轟くんにバレて振り向かれた。
「マンダレイ…あの人あんなでしたっけ」
「彼女焦ってるの 適齢期的なアレで」
相澤先生とマンダレイの会話に、
なんとも言えない空気になる。
(触れちゃいけないやつだ)
「適齢期と言えばーー…」
「と言えばて!!」
緑谷くんの言葉は、またしても肉球で遮られた。
(止められてる…)
やっぱりこの人たち、勢いがすごい。
その時、ふと視線の先に小さな影が見えた。
建物の陰。
こちらをじっと見ている男の子。
(あの子…)
「ずっと気になってたんですが 、
その子はどなたかのお子さんですか?」
緑谷くんが尋ねる。
「ああ 違う この子は私の従甥だよ。洸太!
ホラ 挨拶しな 一週間一緒に過ごすんだから…」
マンダレイに促されて、洸太くんが少し前に出る。
「あ、えと僕、雄英高校
ヒーロー科の緑谷。よろしくね」
緑谷くんが屈んで、優しく手を差し出した。
次の瞬間。
ドスッ。
鈍い音。
「きゅう…」
(え!?)
緑谷くんがその場に倒れる。
一瞬、何が起きたのか理解できなかった。
(今…殴った?)
しかもかなり痛そうなところに入っている。
「緑谷くん!おのれ従甥!!
何故 緑谷くんの陰嚢を!!」
飯田くんが即座に駆け寄る。
(そこ言う!?)
状況の深刻さとワードの強さが噛み合ってない。
「ヒーローになりたいなんて連中と
つるむ気はねえよ」
(え…)
小さな子どもの口から出る言葉とは思えない。
「つるむ!!?いくつだ君!!」
飯田くんの驚きももっともだと思う。
「マセガキ」
爆豪くんが鼻で笑う。
その横で、
「おまえに似てねえか?」
轟くんが静かに言った。
(あ、それ私も思った)
けど、絶対言わない。
「あ?似てねえよ!つーかてめェ
喋ってんじゃねえぞ舐めプ野郎!!」
「悪い 」
爆豪くんがキレて、轟くんが素直に謝る。
(このやり取りもなんか慣れてきたなあ…)
そんなことを思いながら、私は視線を戻した。
「茶番はいい。荷物を部屋に運び、
食堂にて夕食。その後入浴で就寝だ。
本格的なスタートは明日からだ。さァ早くしろ」
相澤先生の一言で、空気が引き締まる。
(やっとご飯…!)
その言葉だけで一気に元気が戻る気がした。
荷物を部屋に運び、ようやく食堂へ。
テーブルいっぱいに並ぶ料理。
その光景を見た瞬間、
(もう無理…食べる…)
理性より先に食欲が勝つ。
「「「「「「いただきます!!」」」」」
声を揃えた瞬間、箸が一斉に動く。
ご飯を口いっぱいに頬張る。
温かい。
美味しい。
体に染みる。
(生き返る…!)
疲れも、空腹も、一気に満たされていく。
そんな感覚に包まれながら、
私はひたすら食べ続けた。
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