夕食を終えたA組の女子たちは、
揃って露天の大浴場へと向かっていた。
木々に囲まれた開けた空間に、
湯気がふわりと立ち上る。
山の空気は昼間とは違ってひんやりとしていて、
その中で浸かる温かい湯は、
体の芯までじんわりと沁みてくる。
(気持ちいい…)
思わず肩の力が抜ける。
合宿先の変更、いきなりの山落とし、
昼抜きの強行軍。
思い返せば、かなり無茶な一日だった。
(正直どうなるかと思ったけど…)
こうして広い露天風呂に入れている今は、
むしろ少し贅沢にすら感じる。
「はぁー生き返るー」
自然と声が漏れる。
私はそのまま湯船に沈むように、首まで浸かった。
じんわりと体が温まっていく。
長い髪はお団子にまとめて、
首元をすっきりさせていた。
「綺羅ちゃん、滑らないように気を付けてね」
梅雨ちゃんの落ち着いた声。
「うん。ありがとーってわあ!」
足元がつるりと滑る。
(あっ)
そのまま勢いよく――
ドボン。
一瞬で頭まで湯に沈んだ。
(やった…!)
完全に油断していた。
バシャン、と水音を立てて顔を上げると、
髪からぽたぽたと水が滴る。
「ありゃりゃー」
隣でお茶子ちゃんが、
少し笑いをこらえたような声を出していた。
ちょっと恥ずかしい。
その時だった。
「求められてんのってそこじゃないんスよ。
その辺わかってるんスよ オイラぁ…
求められてるのはこの壁の向こうなんスよ…」
(あ)
隣の男子風呂から、聞き覚えのある声。
「1人で何言ってんの 峰田くん…」
緑谷くんのツッコミが続く。
(嫌な予感しかしない)
「ホラ…聞こえるんスよ…今日日、
男女の入浴時間ズラさないなんて、
事故…そう もうこれは事故なんスよ…」
(いや完全に故意でしょ)
思わず内心で突っ込む。
女性陣の空気も一瞬で変わる。
警戒。
もし来たら――確実にアウト。
「峰田くんやめたまえ!君のしている事は
己も女性陣と貶める恥ずべき行為だ!」
飯田くんが必死に止めている。
でも、
「やかましいんスよ…。
壁とは超える為にある!!PlusUltra!!!」
(やめて)
バタバタと駆け上がる音。
「速っ!!校訓を穢すんじゃないよ!!」
飯田くんのツッコミも間に合っていない。
(来る…!)
響香ちゃんと梅雨ちゃんが構える。
迎撃体勢。
その瞬間。
塀の隙間から、小さな影が現れた。
「ヒーロー以前にヒトのあれこれから学び直せ」
洸太くん。
トン、と軽く押す。
「くそガキィイイイイ!!!!?」
そのまま峰田くんの叫び声が落ちていく。
(ナイス…)
見事な処理だった。
「やっぱり峰田ちゃんサイテーね」
梅雨ちゃんが冷静に言う。
その通りだと思う。
「ありがと 洸太くーん!」
三奈ちゃんが、湯船に足だけ入れて
腰掛けたまま手を振っている。
(その姿勢も結構大胆だなあ…)
そう思った瞬間、
「!…わっ…!!ぁ…」
洸太くんが振り向く。
そして一瞬で顔が真っ赤になって――
バランスを崩した。
クラリ、と後ろへ。
(あ、危ない!)
そのまま男子側へ落ちていく。
「洸太くん大丈夫!?」
思わず声が出る。
一瞬の間のあと、
「だ、大丈夫!キャッチしたから!」
緑谷くんの声。
胸の奥の力が抜ける。
「良かったー!」
自然と笑みがこぼれて、
私はもう一度湯船に身を沈めた。
温かさが、ゆっくりと体に広がっていく。
今日一日。
本当に色々あった。
疲れも、少しの不安も、
全部まとめてこのお湯に溶けていくような感覚。
(でも…)
明日からが本番。
何をやるのかは分からない。
それでも――
(楽しみの方が大きいかも)
そんなことを思いながら、私は静かに目を閉じた。
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