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途中からB組も加わった
個性伸ばしトレーニングは、夕方まで続いた。

時間の感覚は、途中から曖昧になっていた。

太陽の位置が変わっていくのを、
ぼんやりと認識していただけで、
何時間経ったのかは正確には分からない。
ただ、終わりを告げられた時、
ようやく「あ、終わったんだ」
と思えたくらいには、
意識は個性の維持に持っていかれていた。

昨日に引き続き、お昼も取らず個性を使い続けて、
夕方には全員疲労困憊だった。

私も例外じゃない。

「う〜…目ぇシパシパする…」

思わず声が漏れる。

一日中、光のドームの中に居続けた影響か、
視界の輪郭がわずかにぼやけていた。
白く薄い膜がかかったみたいで、
遠くを見ると少しだけ焦点が合いにくい。

(こんなに個性使い続けた事ないから……)

個性を使い続けた反動と、
同じ光を浴び続けた疲労。

それでも、完全に見えないわけじゃない。

むしろ――

(最後まで崩さなかった)

その事実の方が、
じわじわと実感として残っていた。

ドームを維持し続けた時間。

途中で何度か崩れかけたけど、落とさなかった。

(……できたんだ)

ほんの少しだけ、胸の奥が温かくなる。

そんな中、A組が再び集められると、

「さァ 昨日言ったね!
世話焼くのは今日だけって!!」

「己で食う飯くらい己でつくれ!!カレー!!」

元気な声が響く。

(うわ……元気すぎる)

ピクシーボブとラグドールは、
朝と変わらないテンションだった。

目の前にはどっさりと並べられた食材。

正直、今すぐ座り込みたいくらい疲れているのに、
それでも全員ちゃんと返事をするあたり、
さすがA組だと思う。

「「「「「イエッサ…」」」」」

(声ちっさ……)

でも、自分も同じような声しか
出ていない気がする。

「アハハハハ全員ブッチブチ!!
だからって雑なネコマンマは作っちゃダメね!」

余裕そうに笑うピクシーボブに、
ほんの少しだけ恨めしさを感じる。

「確かに…災害時など避難先で、
消耗した人々の腹と
心を満たすのも救助の一環……
さすが雄英 無駄がない!!
世界一旨いカレーを作ろう皆!!」

(飯田くん元気すぎない?)

さっきまで同じ訓練してたよね、
と言いたくなるくらい、声に張りがある。

(すご……でも、そうだよね)

ここでへばってる場合じゃない。

ヒーローになるって、こういうことだ。

「「「「オ…オオ〜〜……」」」」

緩い返事が上がる中、

「オオー!」

私は少しだけ声を張った。

(よし……)

自分で自分を鼓舞する。

一度部屋に戻り、
汗と土で汚れた体操服を脱いで私服に着替える。

冷たい水で顔を洗うと、
少しだけ視界がはっきりした気がした。

クロップ丈の白いTシャツに、
ピンクのショートパンツ。

動きやすさ重視で選んで、急いで戻る。

カレー作りは四人一組。

「綺羅ー!一緒に作ろー!」

「うん!」

三奈ちゃんに呼ばれて向かうと、
お茶子ちゃんと梅雨ちゃんもいた。

(このメンバー、安心する)

自然と肩の力が抜ける。

「綺羅はじゃがいもの皮を剥いて切って!」

「分かった!」

元気よく返事をする。

三奈ちゃんとお茶子ちゃんは火おこしへ。

私は梅雨ちゃんと一緒に食材担当。

じゃがいもを手にしたまま、私は一瞬固まる。

(……あれ?)

見たことはある。

でも、“やる”となると話は別だ。

「……梅雨ちゃん」

「なあに、綺羅ちゃん」

「じゃがいもってどうやって皮むくの?」

「綺羅ちゃん料理しないのね。
じゃがいもは包丁だと危ないから
ピーラーでやった方がいいわ」

(ピーラー……?)

聞いたことはある。

でも、どれか分からない。

「ピーラー?」

「じゃがいもは芽を取ったりしなきゃ
いけないから、私がやるわ。
玉ねぎと人参をお願い」

「分かった!」

素直に役割交代。

(助かった……)

玉ねぎを手に取る。

でも――

(あれ?)

また手が止まる。

「玉ねぎってこんな白かったっけ?」

「それは皮を剥いた玉ねぎだから、
半分に切って、端から5mm幅に切ってちょうだい」

「分かった!」

返事だけは完璧。

包丁も握る。

でも、

(え、めっちゃ滑る)

まな板の上で転がる玉ねぎ。

思ったより安定しない。

押さえて、切ろうとして――

「指無くしてえのかテメェは!」

「え?」

突然、手を止められる。

振り向くと、爆豪くん。

「え?指じゃなくて玉ねぎを…」

「包丁下ろす先に指も巻き込んでんだよ!」

(えっ)

言われて見れば、確かに。

(あ、危な)

「だって玉ねぎ滑るから固定したくて」

「そんなん端抑えりゃいいだろが!」

そう言いながら、包丁を奪われる。

次の瞬間、

スパン!

迷いのない動きで、玉ねぎが一瞬で切られた。

(速……)

しかも、きれい。

「わあーありがとう!」

素直に感動する。

隣ではもう人参に移っている。

皮を剥いて、切って、無駄がない。

「爆豪くん料理するの!?めっちゃ速!」

「切るのに速いものクソもねえだろが!」

(いや速いって)

思わず笑いそうになる。

「いやいや、私は無理だもん。
えーと、玉ねぎを5mm幅で…」

「玉ねぎは筋に沿って切るに決まってんだろうが!
あと指伸ばすな!常識だろが!」

(筋?)

また止まる。

頭が追いつかない。

「え?筋?指?」

「まずその包丁を握り締めんのをやめろ!」

(え、どう違うの……?)

どこから直せばいいのか分からない。

ただ、怒られていることだけは分かる。

でも、不思議と嫌な感じはしなかった。

(ちゃんと教えてくれてる)

その証拠に――

結局、爆豪くんは怒鳴りながら
玉ねぎを全部切ってくれた。

後ろで、

「かっちゃんがあんなに世話を焼くなんて…!」

緑谷くんの驚いた声が聞こえる。

(確かに)

普段なら放っておかれそうなのに。

でも――

(まあ、危なかったしね)

少しでもズレてたら、指切ってたかもしれない。

そう思うと、ありがたさの方が勝つ。

包丁を握り直す。

さっきより、少しだけ安定した気がした。

(よし……やるぞ)

疲れているはずなのに、不思議と手は動いていた。

然し、人参を切ろうとしたら
また爆豪くんに横から怒鳴られた。







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