「肝試し?」
思わず聞き返した私に、
透ちゃんはぱっと明るく笑って頷いた。
「そー!今夜あるらしいよ!
綺羅ちゃん離れてトレーニングしてたから
知らなかったよね?」
林間合宿三日目。今日も一日中、
他の皆んなから少し離れた場所で、
光粒子を展開し続けていた。
広げて、圧縮して、維持して。
その繰り返しで、周りの会話に
意識を向ける余裕なんてほとんどなかった。
だから、こういう話題が出ていたこと自体、
今初めて知る。
「肝試しかー…
学生っぽいのもやってくれるんだね!」
訓練ばかりだったここ数日を思えば、
そういうイベントがあること自体が少し意外で、
でもどこか嬉しい。
「ね!楽しみー!」
透ちゃんの声に、私もつられるように頷いた、
その瞬間。
「テメェら喋ってねえで手ェ動かせや!
いつまで芋の皮剥いとんじゃ!」
背後から飛んできた怒声に、肩がびくっと跳ねた。
「びっくりしたー!急に怒鳴んないでよ!
危ないでしょーが!」
透ちゃんが即座に言い返す横で、
私は手元のじゃがいもを落としそうになって
慌てて持ち直す。
「ちんたらしてるテメェらが悪りぃんだろうが!」
相変わらず容赦のない言い方。
でも、その視線はしっかりと
私たちの手元に向けられている。
「だってピーラー使いにくいんだもん。
ボコボコして滑らせにくいし」
そう言ってじゃがいもを見せると、
「ソラニンもちゃんと取れや!腹壊すぞ!」
「ソラニン?」
聞き慣れない言葉に首を傾げた瞬間、
「貸せ!」
半ば奪うようにピーラーを取られた。
次の瞬間には、もう皮がするすると剥かれていく。
無駄のない動きで、芽の部分も迷いなく削ぎ
落としていくその手際に、思わず見入ってしまう。
(……速い)
あっという間に一つ終わってしまう。
文句を言いながらも、やることは正確で早い。
(文句言いながらやってくれるの優しいなぁ…)
そんなことを思いながら、
私は爆豪くんがひたすら切る姿を眺めていた。
気付けば肉じゃがは無事に完成していた。
湯気と一緒に立ち上る甘い香りに、
空腹が一気に刺激される。
疲れた体に染み込むような夕食を終えて、
食器も片付け終えた頃。
「…さて!腹も膨れた 皿も洗った!お次は…」
ピクシーボブが腰に手を当てて、にやりと笑う。
「肝を試す時間だー!!」
三奈ちゃんが楽しげに声を上げると、
場の空気が一気に弾けた。
でも、その流れを遮るように。
「その前に大変心苦しいが、
補習連中は… これから俺と補修授業だ」
相澤先生の一言で、空気が凍る。
「ウソだろ!!!!」
三奈ちゃんの叫びが響いた。
「すまんな。日中の訓練が思ったより
疎かになってたのでこっちを削る」
「「「「うわああ!堪忍してくれえ!
試させてくれえ!!」」」」
次の瞬間、捕縛布が伸びて補習組の体を絡め取る。
ずるずると引きずられていくその姿に、
思わず苦笑いが漏れそうになるけど、
少しだけ寂しさも混じる。
緑谷くんは「くっ…!」と
悔しそうに目を背けていた。
そんな様子を気にすることなく、
マンダレイが手を叩いて説明を始める。
「はい というわけで脅かす側 先攻はB組。
A組は2人1組で3分置きに出発。
ルートの真ん中に名前を書いたお札があるから、
それを持って帰ること!」
「闇の狂宴…」
常闇くんがぽつりと呟く。
ちょっと厨二病っぽい…。
さっきまでの賑やかな空気とは少し違うけど、
それも含めてなんだかワクワクする。
「脅かす側は直接接触禁止で、
個性を使った脅かしネタを披露してくるよ」
「創意工夫でより多くの人数を
失禁させたクラスが勝者だ!!!」
「やめて下さい 汚い……」
響香ちゃんが心底嫌そうに呟いた。
「なるほど!競争させる事でアイディアを推敲させ
その結果 個性に更なる幅が生まれるというワケか
さすが雄英!!」
(飯田くん複雑に捉えてる…)
思わず心の中でツッコむ。
「じゃあ くじ引いてねー!」
差し出された紙を一枚引く。
開くと、数字は――6。
「えーと…6番の人ー?」
顔を上げた瞬間、ばっちり目が合った。
「オイラだぜえ…」
峰田くんだった。
しかも、なんかすごく嫌な顔してる。
「星宮、誰か男子と変わったら?」
「そうね、その方がいいわ」
「絶対その方が良いよ!」
響香ちゃん、梅雨ちゃん、透ちゃんが口々に言う。
「諦めろよおペアは絶対なんだぜえ、
怖かったら抱き付いていいからよお」
後ろから聞こえる声に、少しだけ眉をひそめる。
「んー、嫌だけどまあ最悪発光でお化け怯ますし、
峰田くんは拘束するか、蹴り飛ばすから大丈夫!」
「容赦ないわね」
梅雨ちゃんが淡々と言う。
まあ、何とかなるでしょ。
それより――
(肝試しだもんね!)
夜の山に入って、お化け役がいて、
みんなで騒いで。
普通に考えたら怖いはずなのに、
どうしてか楽しみの方が大きい。
こんな合宿の中で、
やっと来た“イベントらしいイベント”。
ちょっとくらいはしゃいでも、いいよね。
思わず口元が緩む。
どんな感じになるんだろう。
誰がどんな脅かし方してくるのかも気になるし、
透ちゃんたちの反応も絶対面白い。
……まあ、峰田くんはあとで締めるとして。
私は軽く拳を握って、小さく気合いを入れた。
(よーし、楽しも!)
胸の奥が、わくわくと弾む。
夜の山へ向かう時間が、
待ち遠しくて仕方なかった。
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