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私は鉄哲くんと拳藤さんと共に、
毒ガスの発生源へと一直線に向かっていた。

進むほどに紫の煙は濃くなり、
視界がじわじわと霞んでいく。
足元の感覚も曖昧になりそうなほどの空気の重さ。

それでも、光粒子で覆った顔周りの内側は、
まだ保たれている。

(まだいける…でも長くは持たない)

そう判断した瞬間――

視界の奥に、人影が浮かび上がった。

小柄な体格。学ランのような服装。
そして、異様に大きなガスマスク。

「いた!」

拳藤さんの声が響く。

(学生…?でもあのマスク…)

一瞬の違和感。

けれど、その直後には判断が終わっていた。

(あの装備…毒ガス自体には強くない)

だからこそ、守っている。

なら――そこを突く。

「君ももしかして毒ガス嫌いでしょ!」

言葉と同時に、光粒子を展開する。

四方を囲むように、正方形の壁を一瞬で構築。

閉じ込める。

逃げ場はない。

「敵襲…?弱そうなのが3人…それにこの壁…」

ヴィランが周囲を見回す。

光の壁に触れ、叩き、状況を測ろうとする。

でも、その間にも――

内部の空気は変わっていく。

濃い。

逃げ場がない。

外よりも、明らかに濃度が高い。

「これ…!クソ!この壁外せ!」

ガスマスク越しでも焦りが分かる。

当然だ。

どれだけ頑丈でも、
密閉空間で濃度を上げられれば、
限界は一瞬で来る。

そして――

フッ、と。

光の壁を消す。

その“解除”と同時に。

鉄哲くんが踏み込んだ。

迷いのない一撃。

拳がヴィランの顔面を捉え、そのまま吹き飛ばす。

鈍い音と共に、体が地面に叩きつけられた。

「鉄哲くんナイス!
このヴィランの捕獲はお願い!」

止まらない。

次に行く。

「星宮どこ行くんだ!?」

拳藤さんの声に振り返らずに答える。

「爆豪くん探してくる!」

そのまま光の足場を作り、地面を蹴る。

足元に瞬間的に生まれる光。

踏み切り、跳び、次の足場へ。

木々の上を駆け抜けるように、さらに奥へと進む。

――その時。

ドン、と。

遠くで爆発音が響いた。

(いた)

迷いはない。

あの音は爆豪くんだ。

そして、ペアの轟くんも近くにいるはず。

光の足場を繋ぎ、開けた場所へと飛び出す。

そこには、予想通りの二人。

「星宮!?」

轟くんがこちらに気付いて構える。

「かっちゃん!」

思わず呼んでしまう。

「誰がかっちゃんだ!!」

即座に怒鳴られる。

その瞬間。

横から、鋭い刃が伸びてきた。

反射的に光の防壁を厚く展開し、弾く。

衝撃が腕に伝わる。

そのまま地面に着地し、距離を取る。

「何あれ!」

視界の先。

無数に伸びる刃。

生き物のようにうねるそれは、
明らかに人間の動きじゃない。

「星宮、他の奴らは…」

「峰田くんはすぐマンダレイの所に戻って貰って、
私はB組と毒ガスのヴィラン倒してた!それより
ヴィランの狙いがかっちゃんってマンダレイが…」

「かっちゃん呼びやめろ!!」

「あ、ごめん!」

素直に謝る。

テレパシーで聞いてた名前で思わず呼んじゃう。

「状況は分かった。
あとはこのヴィランをなんとか…」

轟くんが前を見る。

その時。

森の奥が騒がしくなる。

何かが――近付いてくる。

空気が揺れる。

足音じゃない。

もっと重い、圧のある何か。

「いた!氷が見える!交戦中だ!!」

緑谷くんの声。

次の瞬間、木々の間から飛び出してきたのは――

障子くんにおぶられた、ボロボロの緑谷くん。

「星宮もいる!星宮!常闇に光を!!」

その言葉に、一瞬遅れる。

どこに――?

「かっちゃん!」

後ろから緑谷くんの声。

「障子、緑谷…と常闇か!?」

「後ろの暗闇全部常闇くん!?」

轟くんの言葉で、ようやく理解する。

背後。

暗闇。

それ“全部”。

「早く光を!!常闇が暴走した!!」

障子くんが叫びながら逃げてくる。

圧が、迫る。

「待ってて今…」

光を構えた、その瞬間。

「待て アホ」

爆豪くんに止められる。

同時に。

「肉〜〜駄目だぁああ 肉〜〜〜
にくめんんん断面だ駄目だ許せない
その子たちの断面を見るのは僕だぁあ!!!
横取りするなぁあああああ!!!」

狂気じみた叫びと共に、刃のヴィランが突っ込む。

だが――

「強請ルナ 三下!!!」

闇が、動いた。

巨大な腕。

黒い塊が一気に膨張し、ヴィランを掴み上げる。

「見てえ」

爆豪くんが、楽しそうに呟く。

次の瞬間。

叩きつける。

木々が折れ、地面が抉れ、
圧倒的な力で吹き飛ばす。

ヴィランの刃が砕け、そのまま動かなくなる。

でも。

「アアアア!!暴れ足リンゾォアアアア!!!」

止まらない。

むしろ、膨れ上がる。

(これ、次はこっちに来る)

「止まって常闇くん!」

私は即座に光を放った。

フラッシュ。

視界を埋める光。

闇を、押し返す。

一瞬で。

巨大だったダークシャドウが収縮する。

その中心で、常闇くんが膝をついた。

静寂が戻る。

「個性の相性って本当大事だね…!
ダークシャドウがこんなに強いなんて…!」

さっきまでの圧を思い出して、
思わず言葉が漏れる。

「常闇大丈夫か。よく言う通りにしてくれた」

障子くんが支える。

「障子の複製の腕が飛ばされた瞬間、
怒りに任せ黒影を解き放ってしまった。
闇の深さ…そして俺の怒りが影響され、
ヤツの凶暴性に拍車をかけた…
結果、収容も出来ぬ程に増長し、
障子を傷付けてしまった…」

「そういうのは後だ。
……と お前なら言うだろうな」

優しく、でもしっかりと区切る。

そのやり取りを見ていると、

「あ、そうだ…!」

緑谷くんが思い出したように声を上げる。

「ヴィランの目的の1つが、
かっちゃんだって判明したんだ」

「それはマンダレイのテレパシーで聞いたけど…
緑谷くんも怪我酷いよ?大丈夫なの…?」

「大丈夫!とは、はっきり言えるほど
自由には動けないけど…」

無理してるのは一目で分かる。

でも、止まる気はない顔。

「爆豪?命を狙われてるのか?何故…?」

常闇くんが問う。

「分からない…!とにかく…
プラドキング・相澤先生プロの2名がいる
施設が最も安全だと思うんだ」

「なる程。これより我々の任は、
爆豪を送り届けることか」

状況が整理されていく。

「ただ広場は依然プッシーキャッツが交戦中…
道なりに戻るのはヴィランの目につくし、
タイムロスだ。まっすぐ最短が良い!」

「ヴィランの数もわかんねえぞ。
突然出くわす可能性がある」

轟くんが冷静に返す。

でも。

「障子くんの索敵能力がある!
そして轟くんの氷結…星宮さんの光の防壁…
更に常闇くんさえ良いなら、
星宮さんがいることによって制御手段を備えた
無敵のダークシャドウ…このメンツなら正直…
オールマイトだって怖くないんじゃないかな…!」

緑谷くんの言葉に、思わず目を瞬かせる。

(そんなに評価高いんだ、私)

ちょっとだけ、くすぐったい。

「何だこいつら!!!!」

爆豪くんがキレる。

「お前中央歩け」

轟くんが淡々と指示を出す。

「俺を守るんじゃねぇクソ共!!!」

「大丈夫!爆豪くんも大戦力だよ!」

フォローを入れる。

でも、

「爆豪はヴィランに近付かねえ方が良いだろ」

轟くんが即座に被せる。

(あ、台無し)

思わず苦笑いが浮かぶ。

でも。

このメンバーなら。

この距離なら。

守れる。

全員で戻れる。

そう、自然に思えた。

――この時までは。








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