届かなかった、その先へ

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森を抜けると、不意に視界が開けた。

木々の密度が途切れ、踏み固められた道に出る。
さっきまでの閉塞感が少しだけ緩む
――その先に、人影が二つ。

「障子ちゃん 皆んな…!」

梅雨ちゃんの声が弾む。

同時に、胸の奥に小さく安堵が広がった。

(良かった、無事だった)

その瞬間――

バッ、と。

麗日ちゃんに押さえられていた、
セーラー服の女の子が身を捩って抜け出す。

「あっ しまっ…!」

麗日ちゃんの手が空を切る。

「人増えたので。殺されるのは嫌だからバイバイ」

軽い口調のまま、
その子は森の中へと消えていった。

「待っ…!」

追いかけようと一歩踏み出す麗日ちゃんを、

「危ないわ。
どんな個性を持ってるかもわからないし」

梅雨ちゃんが制止する。

「何だ 今の女…」

轟くんが低く言う。

「ヴィランよ クレイジーよ」

梅雨ちゃんの言葉が、やけに現実的に響いた。

「今の子もヴィランなんだ…」

ぽつりと、思わず零れる。

毒ガスのヴィランも、今の子も。

自分たちと変わらない年頃。

なのに、立っている場所はまるで違う。

その事実が、胸の奥に小さく引っかかる。

「麗日さんケガを…!」

障子くんにおぶられたままの
緑谷くんが声を掛ける。

「大丈夫 全然歩けるし…
っていうかデクくんの方が…!」

麗日ちゃんの視線が、ボロボロの体へと向く。

血、擦り傷、歪んだ呼吸。

無理をしているのが、はっきり分かる。

「立ち止まってる場合か早く行こう」

障子くんが冷静に促す。

状況は一刻を争う。

「取り敢えず無事で良かった…
そうだ!一緒に来て!
僕ら今、かっちゃんの護衛をしつつ
施設に向かってるんだ!」

緑谷くんが言う。

その言葉に、

「………………ん?」

麗日ちゃんが、僅かに眉を寄せた。

違和感。

それは、すぐに言葉になる。

「爆豪ちゃんを護衛?
その爆豪ちゃんはどこにいるの?」

梅雨ちゃんの問い。

――その瞬間。

背筋が、冷たくなる。

「え?何言ってるんだ、かっちゃんなら後ろに…」

緑谷くんが振り返る。

全員の視線が、同じ方向へ向く。

そこには――

ただ、暗い道が続いているだけだった。

爆豪くんがいない。

「彼なら 俺のマジックで貰っちゃったよ」

声。

上から。

「「「「「「!!」」」」」」

見上げる。

木の上。

トレンチコート、ハット、仮面。

不気味なほど余裕のある立ち姿。

「こいつぁそちらにいるべき人材じゃねえ。
もっと輝ける舞台へ俺たちが連れてくよ。」

軽い口調。

けれど、その言葉は――

勝手すぎる。

腹の奥が、熱くなる。

「ーーー…!?っ返せ!!!」

緑谷くんの叫び。

「返せ?妙な話だぜ。
爆豪くんは誰のモノでもねぇ。
彼は彼自身のモノだぞ!!エゴイストめ!!」

正論を装った、歪んだ言葉。

それでも。

「返せよ!!」

緑谷くんは止まらない。

体は動かなくても、意思は折れない。

「どけ!」

轟くんが氷を放つ。

だが。

ひらり、と。

軽々と避けられ、別の木へと移る。

(捕えたくても高さと距離が…)

届かない。

距離がある。

視界に入っているのに、掴めない。

その事実が、じわじわと焦りを生む。

「我々はただ凝り固まってしまった価値観に対し、
それだけじゃないよと道を示したいだけだ。
今の子らは価値観に道を選ばされている」

語るように言う。

まるで正しいことをしているかのように。

その間に。

「………!
爆豪だけじゃない…常闇もいないぞ!」

障子くんが気付く。

胸が、強く打つ。

(常闇くんも…!?)

「わざわざ話しかけてくるたァ…舐めてんな」

轟くんの声に苛立ちが滲む。

「元々エンターテイナーでね 悪い癖さ。
常闇くんはアドリブで貰っちゃったよ。
ムーンフィッシュ…歯刃の男な。
アレでも死刑判決控訴棄却されるような
生粋の殺人鬼だ。それをああも一方的に
蹂躙する暴力性 彼も良いと判断した!」

勝手に、選んで。

勝手に、奪って。

「この野郎!!貰うなよ!」

緑谷くんの怒声が響く。

「緑谷落ち着け」

障子くんが抑える。

でも。

「…っくそ!」

動けない自分への苛立ちが、言葉に滲む。

「悪いね俺ァ 逃げ足と欺くことだけが取り柄でよ!
ヒーロー候補生なんかと戦ってたまるか!
開闢行動隊!目標回収達成だ!
短い間だったが これにて幕引き!!
予定通りこの通信後5分以内に回収地点へ向かえ!」

無線。

合図。

終わり。

連れていく気だ。

このまま。

「幕引きだと…」

障子くんが低く呟く。

「駄目だ…!!」

緑谷くんの声が震える。

「させねえ!!絶対逃すな!!!」

轟くんが駆け出す。

木々を踏み、一直線に追う。

その背中を見て――

迷う理由なんて、どこにもなかった。

「止める!」

声が出る。

同時に、足に光を纏わせる。

光ブーツ。

地面を蹴る。

次の瞬間には、木の高さへ。

足場を作り、繋ぎ、跳ぶ。

視線の先。

仮面のヴィラン。

絶対に、逃がさない。

(連れて行かせない)

爆豪くんも、常闇くんも。

ヴィランになんてならない。

あの二人は。

ヒーローになりたくて、ここにいる。

その道を、勝手に歪められるなんて。

(ふざけないで)

胸の奥が、強く燃える。

光をさらに強める。

距離を詰める。

追いかける。

ただ真っ直ぐに。

止めるために。







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