雄英高校ヒーロー科A組。
教室の扉を開けた瞬間、春の光が差し込んできた。
窓際の席に柔らかな日差しが落ちている。
まだ人はまばらだ。
けれど、すでに何人かの生徒が席に座っていた。
静かな空気。
誰も大きな声では話していない。
お互いを探るような、少し張り詰めた雰囲気。
(やっぱり)
ヒーロー科。
入試を突破してきた人たち。
ここにいるのは、仲間であり――
ライバルでもある。
そんな空気が、なんとなく教室に漂っていた。
私は黒板の席表を見る。
星宮 綺羅
窓際の列、二番目。
私はその席へ向かった。
前の席には、金髪の男子が座っている。
鋭い目つき。
機嫌が悪そうな顔。
(ちょっと怖そうな人)
私は軽く声を掛けた。
「おはよう」
前の席の男子と目が合う。
赤い目。
そして――
「あ”…?」
不機嫌そうな声。
それだけ言うと、もう前を向いた。
(あ、怖い人だ)
でも、完全に無視されたわけではない。
私は小さく苦笑して席に座った。
その瞬間だった。
ガンッ。
前の机に、両足が乗せられた。
「……」
思わず目を瞬く。
前の席の男子が、堂々と机に足を掛けている。
かなり偉そうな姿勢。
(え、いいのそれ)
その時。
「ちょっと君!」
廊下側から、キビキビとした足音が近づいてきた。
眼鏡の男子が、前の席の男子の机の前で
ぴたりと止まる。
そして、はっきりと言った。
「机に足を掛けるな!雄英の先輩方や
机の製作者方に申し訳ないと思わないか!?」
教室に響く、真面目な声。
私は思わず目を丸くした。
(すごい……)
入学初日で注意するなんて。
しかも相手は明らかに気が強そう。
けれど、前の席の男子は鼻で笑う。
「思わねーよ!てめーどこ中だよ端役が!!」
教室の空気がぴしっと張り詰めた。
(うわ……)
言い方がかなり強い。
でも、眼鏡の男子は引かなかった。
少し言葉に詰まりながらも胸を張る。
「ボ…俺は私立聡明中学出身 飯田天哉だ」
その瞬間。
前の席の男子の口元が歪む。
「聡明〜〜〜?くそエリートじゃねえか!
ブッ殺し甲斐がありそうだな!」
私は思わず苦笑いしそうになる。
(初日から物騒すぎる……)
眼鏡の男子は目を見開いた。
「ブッコロシガイ!?君ひどいな!
本当にヒーロー志望か!?」
前の席の男子は興味を失ったように顔を逸らした。
「ケッ」
そして、廊下側へ視線を向ける。
私はつられてそちらを見る。
教室の入り口。
そこに、緑色の髪の男の子が立っていた。
(あ)
思わず目を丸くする。
入試の日。
巨大ロボットに飛び込んだ――
あの男の子だ。
前の席の男子が、小さく呟いた。
「デク…」
低い声だった。
少しだけ鋭い。
緑色の髪の男の子は気づいていない。
彼は入り口で、二人に囲まれていた。
茶色いボブの女の子。
入試の日、瓦礫に挟まれていた子。
そして、さっきの眼鏡の男子。
三人で何か話している。
緑色の髪の男の子は
少し照れくさそうに笑っていた。
その時だった。
背後の廊下から、低い声が響く。
「お友だちごっこしたいなら他所へ行け」
教室の空気が、一瞬で変わった。
私は思わず振り返る。
いつの間にか、廊下の壁に一人の男が立っていた。
無精ひげ。
眠そうな目。
そして――
黒い寝袋に包まれている。
(……え?)
教師……?
いや、それより。
(いつからそこにいたの)
男は気だるそうな目で教室を見渡していた。
雄英高校ヒーロー科。
A組の担任教師だった。
✳︎
..