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「あれ?まだこんだけですか?」

草木を掻き分ける音と共に、少女が姿を現した。
セーラー服に身を包み、
どこか無邪気な声音でそう言ったのは、
先程まで麗日と蛙吸と対峙していた
トガヒミコだった。

既にその場には数名のヴィランが集結している。

薄暗い森の中、異様な空気を纏う一団。

「イカレ野郎。血は採れたのか?何人分だ?」

チグハグに縫い合わされた皮膚。
低く冷えた声で問いかけたのは荼毘だった。
木に寄りかかるように立ちながら、
興味なさげに視線だけを向ける。

「一人です」

「一人ィ!?最低3人はって言われてなかった!?」

全身スーツの男、トゥワイスが大げさに驚き、
声を張り上げる。動きも言葉も忙しい。

「仕方がないのです。殺されるかと思った」

トガはまるで気にしていない様子で、
あっけらかんと答えた。

「つーかよ!トガちゃんテンション高くねえか!?何か落ち込む事でもあったのか!?」

支離滅裂な言葉を投げるトゥワイスに、

「お友だちが出来たのと気になる男の子がいたのです」

頬を赤らめながら答えるトガ。

「それ俺!?ごめんムリ!!俺も好きだよ」

混乱したまま返すトゥワイス。

「うるさえな黙って…」

荼毘が苛立ちを滲ませて口を開きかけた、その時。

――気配。

空気が、変わる。

振り返る。

次の瞬間。

ドオンッ!!!

大きな衝撃音と共に、仮面の男
――Mr.コンプレスが地面へ叩きつけられた。

その上に乗るのは緑谷。

左右から抑え込む轟と障子。

一瞬の奇襲。

「知ってるぜ このガキ共!!誰だ!?」

トゥワイスが叫ぶ。

「Mr.避けろ」

荼毘の一言。

「!、了解」

コンプレスが転がるようにその場を離れた瞬間。

青い炎が三人のいた場所を呑み込んだ。

熱が森を歪ませる。

コンプレスはそのまま荼毘の横へと戻る。

「爆豪は?」

短く問う荼毘。

「もちろん」

コンプレスがコートのポケットに手を入れる。

――だが、ない。

一瞬の違和感。

「2人とも逃げるぞ!!」

障子の声。

緑谷と轟が同時に反応する。

「今の行為でハッキリした…!
個性はわからんが、さっきお前が散々
見せびらかした右ポケットに入っていたこれが、
常闇・爆豪だな。エンターテイナー」

障子の触手の先。

そこに、小さな球体が二つ。

「障子くん!!」

緑谷の声が弾む。

「――――ホホウ!あの短時間でよく…!
さすが6本腕!まさぐり上手め!」

コンプレスが愉快そうに拍手をする。

「っし!でかした!!」

轟が短く言い、三人はそのまま離脱を図る。

だが。

「アホが…」

荼毘が前へ出る。

炎が揺れる。

その瞬間。

「いや待て」

コンプレスがそれを制した。

その背後に、黒い靄が広がる。

空間を歪めるように現れるそれは、
かつてUSJで現れたワープの個性――黒霧。

「行きますよ 荼毘」

静かな声。

「待て。まだ目標が…」

荼毘が僅かに焦りを見せる。

だが、コンプレスは余裕のまま言葉を続ける。

「ああ…アレは、どうやら走り出すほど、
嬉しかったみたいなんでプレゼントしよう。
悪い癖だよ。マジックの基本でね。
モノを見せびらかす時ってのは……
トリックがある時だぜ?」

仮面を外し、顔を見せる。

その口元。

舌の上に、二つの球体。

「ぬっ!!?」

障子の手元の球体が、解ける。

瞬間、氷が噴き出す。

それは轟の個性。

つまり――

障子の持っていた球体は、偽物。

コンプレスは、二人を既に“口の中”に隠していた。

「よし。撤退だ」

荼毘の言葉と同時に、
トゥワイスとトガは既にワープの中へ。

荼毘とコンプレスもそこへ向かう。

その瞬間――

森の奥から、光が走った。

一直線に。

撃ち抜くように。

衝撃がコンプレスの顔面を捉える。

「2人を返して!!」

綺羅の放った光弾だった。

弾かれた衝撃で、口元の球体が飛び出す。

一つ。

障子の触手が即座に絡め取る。

もう一つ。

轟が手を伸ばす。

だが――

届かない。

そのわずかな差。

その一瞬。

荼毘の手が、それを掴んだ。

「哀しいなあ 轟焦凍」

低く、呟く。

コンプレスに合図を送る。

パチン、と指が鳴る。

障子の手から、常闇が現れる。

荼毘の手から――爆豪が現れる。

「かっちゃん!!」

緑谷が叫び、踏み出す。

「来んな デク」

拒絶。

その言葉と同時に。

黒霧が広がる。

全てを呑み込み、消す。

姿が、消える。

爆豪も、ヴィランも。

何もかもが。

残されたのは、静寂。

そして。

「……あああああああああああああああ!!!!」

緑谷の絶叫。

体を支えきれず、地面に崩れ落ちる。

拳が土を叩く。

動かない体。

届かなかった現実。

「そんな…」

綺羅はその場に立ち尽くし、肩を落とした。

轟と障子が緑谷へと歩み寄る。

遅れて駆けつけた麗日と蛙吸も、状況を理解する。

言葉が、出ない。

その後。

林間合宿襲撃は、通報によって外部へ伝わる。

ヴィランが去ってから約十五分後。

救急と消防が到着。

森の中は、惨状と化していた。

生徒四十名。

意識不明の重体、十五名。

重軽傷者、十二名。

無傷、十三名。

そして――

行方不明者、一名。

プロヒーローもまた被害を受ける。

一名重体。

一名行方不明。

一方で、ヴィラン側は三名が現行犯逮捕。

だが、それ以外は――

跡形もなく、姿を消した。

夜の森に残ったのは、戦いの痕跡と、
取り返せなかった事実だけだった。

こうして。

全員が楽しみにしていた林間合宿は、

最悪の結果で幕を閉じた。







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