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夜の病院前は、昼間とはまるで違って
静まり返っていた。

街灯の白い光がアスファルトを照らして、
遠くで車の音が微かに聞こえるだけ。

その中に、二つの人影があった。

「星宮」

先に気付いたのは轟くんだった。

静かに名前を呼ばれて、
私は軽く手を上げて応える。

「2人だけ?」

辺りを見渡しながらそう聞くと、

「まだ決まったわけじゃねえ。
でも…八百万…考えさせてっつってくれた
……どうだろな…」

切島くんは不安そうに言葉を濁した。

落ち着かない様子で、足元の地面を見つめている。

「まァ…いくら逸っても結局あいつ次第…」

轟くんはいつも通り冷静だった。

現実を見ている声。

(百ちゃんが来るかどうか、か……)

確かに、この作戦は百ちゃんの
個性がなければ成立しない。

でも。

(緑谷くんなら来ると思ったけど…)

昨日の病室での様子を思い出す。

あの怪我。

動ける状態じゃないのは分かってる。

(来られないのかな…)

そう思った、その時だった。

病院の自動ドアが開く音。

振り返る。

そこにいたのは――

「……!」

百ちゃんと、緑谷くん。

緑谷くんはまだ包帯だらけで、
歩き方もぎこちない。

それでも、自分の足でここまで来ていた。

「八百万 答え……」

轟くんが声を掛ける。

「わたくしは…」

百ちゃんが口を開く。

けれど、その言葉は最後まで続かなかった。

「待て」

低く、鋭い声。

振り向くと――

飯田くんが、そこに立っていた。

あの時のままの、強い眼差しで。

(やっぱり…来るよね)

止めるために来たのは、すぐに分かった。

「………何でよりにもよって 君たちなんだ…!」

そう言いながら、
飯田くんは緑谷くんと轟くんを、
辛そうな表情で見ていた。

「俺の私的暴走をとがめてくれた…
共に特赦を受けたハズの君たち二人が…っ!!
何で俺と同じ過ちを犯そうとしている!?
あんまりじゃないか…!」

感情がそのまま溢れ出る。

その言葉に、私は少しだけ息を呑む。

(……過ち)

(やっぱり保須市で何かあったんだ)

詳しくは知らない。

でも、それがどれだけ重い言葉かは伝わってくる。

「何の話してんだよ…」

切島くんは戸惑ったように言う。

けれど飯田くんは止まらない。

「俺たちはまだ保護下にいる。
ただでさえ雄英が大変な時だぞ。
君らの行動の責任は、
誰がとるのかわかってるのか!?」

正論。

完全に、正しい。

「飯田くん 違うんだよ。
僕らだってルールを破っていいなんて……」

緑谷くんが一歩前に出る。

その瞬間。

――ゴチッ!!

鈍い音。

空気が止まる。

(え…!?)

飯田くんの拳が、緑谷くんの頬を打っていた。

思わず息が詰まる。

(痛そう…!)

体が一瞬強張る。

でも、誰も動けない。

「俺だって悔しいさ!!心配さ!!
当然だ!!俺は 学級委員長だ!
クラスメイトを心配するんだ!!
爆豪くんだけじゃない!!
君の怪我を見て、床に伏せる兄の姿を重ねた!!
君たちが暴走した挙句、兄のように
取り返しのつかない事態になったら……っ!!
僕の心配はどうでもいいっていうのか!!
僕の気持ちは……、
どうでもいいっていうのか……!」

声が震えている。

怒りだけじゃない。

心配と、恐怖と、後悔。

全部が混ざっていた。

「飯田くん…」

緑谷くんが、言葉を失う。

その空気を、轟くんが静かに割った。

「飯田。俺たちだって何も正面切って
カチ込む気なんざねえよ」

「………!?」

飯田くんの目が揺れる。

「戦闘無しで救け出す」

短く、はっきりとした言葉。

「ようは隠密行動!!それが俺ら卵の出来る…
ルールにギリ触れねえ戦い方だろ!」

切島くんが続ける。

あくまで“戦わない”救出。

それが、この作戦の軸。

「私は轟さんを信頼しています…が!!
万が一を考え 私がストッパーとなれるよう…
同行するつもりで参りました」

百ちゃんが、まっすぐに言い切る。

「八百万くん!?」

飯田くんが驚く。

「百ちゃん!」

思わず声が弾む。

これで、作戦は成立する。

「僕も…自分でも分からないんだ…
手が届くと言われて…いてもたっても
いられなくなって…救けたいと思っちゃうんだ」

緑谷くんの声。

迷いも、不安もある。

それでも。

止まれない気持ちが、そこにあった。

全員の本音が出揃う。

しばらくの沈黙。

そして――

「………平行線か…ならば、俺も連れて行け」

飯田くんが、そう言った。

その言葉に、空気が変わる。

(……来るんだ)

止めるために。

でも、それでも一緒に行く。

それが飯田くんの答えだった。

言っても止まらないなら、隣で止める。

委員長としての、責任の取り方。

そして。

副委員長である百ちゃんも同じ。

(……6人)

私たちは、顔を見合わせる。

誰も笑っていない。

でも、目は決まっている。

こうして。

私たち6人は――

爆豪くん救出のために、動き出すことになった。





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