「ついた!神野区!」と緑谷くんが声を上げる。
私は改札を抜けて、
そのまま足を進めながら周囲を見回した。
ネオンの光が視界に飛び込んでくる。
夜なのに明るくて、人の声も多くて、
空気がざわついている。
(……同じ横浜なのに)
知っている街とは違う。
落ち着いた住宅街とは真逆の、
派手で騒がしい空気。
(こんな場所なんだ)
「この街のどこかに奴ら潜んでのか」
と轟くんもネオン街を見上げる。
私も同じ方向を見る。
人が多い。建物も多い。
(……紛れやすい)
どこにいてもおかしくない。
「神奈川で犯罪発生率が高い地域だから紛れ易い
のかもね」と私は轟くんに教えた。
「さァどこだ八百万!」と
切島くんが走り出そうとすると、
「お待ち下さい!」と百ちゃんが引き留めた。
切島くんの動きが止まる。
「ここからは用心に用心を重ねませんと!
私たちヴィランに顔を知られているんですのよ!!」
(……そうだ)
顔は見られている。
このまま動くのは危ない。
「うん。オンミツだ」と緑谷くんは
服で顔を隠す仕草をする。
「しかし、それでは偵察もままならんな」と
飯田くんは辺りを見渡した。
(目立たないようにしながら探す…)
どう動くか考えていると、
「そこで私 提案がありましてよ!?」と
百ちゃんが意気込んで指を刺す先は、
人気格安何でも揃う全国チェーン店である
ドンキオオテだった。
私はそちらを見る。
「変装するって事?」と私は質問すると、
「確かにドンキなら、
仮装とか何でも売ってるぜ!」と
切島くんは行き慣れているのか詳しそうだった。
(なるほど)
それなら紛れられる。
私は皆んなと一緒に店内に入る。
光と音が一気に増えて、少しだけ目が忙しくなる。
(すごい)
仮装エリアに向かう。
「繁華街に馴染むなら
ヴィランっぽくするってこと?」と
緑谷くんが質問すると、
「怪しさ満載だと職務質問されて詰みだ」と
轟くんが言う。
「やっぱ繁華街と言ったら夜の店の人間っぽく
しようぜ!」と切島くんが声を上げた。
(それが一番自然)
私は小さく頷く。
そして切島くんが先陣切って、
どんな夜の店の人間のコスプレをするか決まり、
購入してトイレで着替えた。
私は鏡の前に立つ。
いつものポニーテールじゃなくて
ストレートに下ろす。
肩を滑る髪が少しだけくすぐったい。
光沢感のあるホワイト系のミニドレス。
体に沿うシルエットで、凄く華やかだ。
足元はアンクルストラップ付きのヒールパンプス。
高すぎない高さで、ちゃんと走れる。
そして少し透け感のあるサングラス。
(……別人みたい)
鏡の中の自分を見つめる。
(これなら分からない)
軽く息を整える。
火傷側が髪で隠れ黒髪ホストの轟くんと、
ナイスバディが強調されたドレスに、
髪をウェーブにしたサングラス姿の
キャバ嬢 百ちゃん。
みちっとしたシャツに蝶ネクタイとサスペンダー、
黒スーツパンツにびっちりワックスで固めた髪に
ちょび髭のキャッチスタッフの飯田くん。
下ろした髪に刃物の様な角を生やした
チンピラ切島くん。
同じく髪をかきあげてサングラスに
顎髭チンピラ緑谷くん。
(……浮きそうで浮かない)
少し怪しいけどこの怪しさが繁華街に馴染む。
「オ…オッラァ!」と緑谷くんは叫ぶ。
切島くんの指導でチンピラらしく
振る舞おうとしていた。
「パイオツカイデーチャンネーイルヨー!」と
飯田くんは何を言っているのか分からない
カタコトを叫んでいる。
切島くんがどんな指導したのか分からない。
(なんでそうなるの)
内心でツッコむ。
「夜の繁華街!子どもがうろつくと
目立ちますものね!」と百ちゃんは
少し楽しそうだった。
少しだけ緊張が緩む。
「八百万…創造でつくれば
タダだったんじゃねえか?」
と轟くんは冷静に百ちゃんに聞くと、
「そそソレはルール違反ですわ!
私の個性は好き勝手に創り出してしまうと流通が…
そう!国民一人として…うん!
回さねばなりませんもの!経済を!!」
(絶対それだけじゃない)
さっきの様子を思い出す。
然し轟くんはそんなことも気にせず
「そうか」と納得をしていた。
(納得するんだ)
少しだけ気が抜ける。
すると背後から「雄英じゃん!」と声がして
私達はビクリと驚いて肩を上げた。
周囲が声を上げたのは私達に気付いたのではなく、
雄英会見中継を流してる広告テレビ画面だった。
(びっくりした…!)
心臓が跳ねる。
視線を向ける。
《この度、我々の不備からヒーロー科1年生
27名に被害が及んでしまった事、
ヒーロー育成の場でありながら、
敵意への防衛を怠り、社会に不安を与えた事、
謹んでお詫び申し上げます。
誠にに申し訳ございませんでした》
私は足を止めて見てしまう。
(……相澤先生)
見慣れないスーツ姿。
《NHAです。雄英高校は今年に入って4回、
生徒がヴィランと接触してますが、
今回生徒に被害が出るまで、各ご家庭には
どのような説明をされていたのか。
又、具体的にどのような対策を行ってきたのか
お聞かせ下さい》
言葉が耳に入る。
「悪者扱いかよ…」と切島くんはぽつりと呟く。
(……)
何も言えない。
《周辺地域の警備強化。
校内の防犯システム再検討。
”強い姿勢”で生徒の安全を保障する……
と説明しておりました》と根津校長が説明する。
「は?守れてねーじゃん」
「何言ってんだこいつら」
周囲の声が刺さる。
(……結果が全て)
分かってる。
でも納得はできない。
(ここにいる場合じゃない)
私は視線を切って、
発信機の示めす場所へ向かう事にした。
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