恐怖で静まり返った空気を裂くように、
パチパチと拍手が鳴り響く。
(……っ)
私は思わず肩を強張らせる。
乾いた音が、やけに大きく響く。
「さすがNo.4!!ベストジーニスト!!
僕は全員消し飛ばしたつもりだったんだ!!
皆んなの衣服を操り瞬時に端へ寄せた!
判断力…技術…並の神経じゃない!」
(褒めてる…?)
異様だった。
この状況で、楽しそうに拍手している。
(おかしい)
「………こいつ…!」
ジーニストの声。
その位置が、さっきより低い。
(倒れてる…?)
見えない。
でも分かる。
声と音で、状況が伝わってくる。
「相当な練習量と実務経験故の強さだ。
君のは…いらないな。
弔とは、性の合わない個性だ」
(やめて…)
次の瞬間。
鈍い音。
何かが叩きつけられるような、嫌な音。
(……っ)
呼吸が止まる。
その一瞬で理解してしまう。
(負けた)
No.4ヒーローが。
こんな一瞬で。
体が震える。
(強すぎる)
現実が、重くのしかかる。
その時だった。
「ゲッホ!!くっせぇぇ…んっじゃこりゃあ!!」
(——爆豪くん!?)
心臓が跳ね上がる。
聞き慣れた声。
間違いない。
(いる)
すぐそこに。
私は思わず顔を上げそうになるのを堪える。
(ダメ)
覗いたら終わる。
分かってる。
でも、
(助けないと)
焦りが一気に押し寄せる。
「悪いね 爆豪くん」とヴィランは
爆豪くんに声を掛ける。
「あ!!?」
距離が近い。
すぐ近くにいる。
音で分かる。
バシャ、と何かが広がる音。
湿った、不快な音。
「げええ…」
(ヴィラン連合…!)
「また失敗したね弔。
でも決してめげてはいけないよ。
またやり直せばいい。
こうして仲間も取り返した。
この子もね…君が”大切なコマ”だと考え、
判断したからだ。いくらでもやり直せ。
その為に 僕がいるんだよ。全ては、君と為にある」
(……弔)
名前。
呼び方。
(完全に上に立ってる)
支配してる。
そんな関係。
(気持ち悪い)
ぞわっとする。
その会話の中で、爆豪くんの位置を感じる。
(早く…)
助けないと。
その瞬間、
緑谷くんの気配が動く。
(行く気だ)
分かる。
でも、
ギュッ
腕を掴まれる。
(百ちゃん…!)
私は動きを止められる。
同時に、
飯田くんが緑谷くんと轟くんを
強く掴んでいる気配。
百ちゃんの手も震えている。
それでも、離さない。
(止めてる)
理性で。
無理やり。
(…2人が正しいよ)
分かってる。
でも、
(行きたい)
気持ちがせめぎ合う。
その時だった。
「………やはり…来てるな…」
(——っ)
全身が強張る。
(バレた…!?)
息が止まる。
音を立てた覚えはない。
でも、
(分かるの…?)
次の瞬間——
「全て返してもらうぞ!
オール・フォー・ワン!!」
一気に空気が変わる。
「また僕を殺すか。オールマイト」
(オールマイト…!!)
空気が一変する。
低く、まとわりつく声。
「ずいぶん遅かったじゃないか。」
ドンッ——
凄まじい衝撃。
地面が揺れる。
風が一気に吹き抜ける。
(何この威力…!)
空気が押し潰される。
呼吸が一瞬止まる。
「バーからここまで5km余り…
僕が脳無を送り、優に30秒は経過しての到着
……衰えたね。オールマイト」
(会話してる…?)
でも、その裏で。
音が異常。
衝撃が連続する。
「貴様こそ。
何だその工業地帯のようなマスクは!?
だいぶ無理してるんじゃあないか!?
5年前と同じ過ちは犯さん。
オールフォーワン、爆豪少年を取り返す!
そして貴様は、今度こそ刑務所にブチ込む!
貴様の操る敵連合もろとも!!」
(戦ってる)
本気で。
桁が違う。
「それは…やる事が多くて大変だな。お互いに」
音がまた変わる。
空気が押される。
衝撃だけで、建物が壊れていく気配。
(近づけない)
この中に入ったら終わる。
「空気を押し出す+筋骨発条化
瞬発力×4 膂力増強×3。
この組み合わせは美しいな…
増強系をもう少し足すか」
(何言ってるの…)
理解が追いつかない。
でも、
(強い)
それだけは分かる。
「オールマイトォ!!!」
爆豪くんの声。
(無事…!)
少しだけ安堵する。
「心配しなくてもあの程度じゃ死なないよ。
だから…ここは逃げろ弔。その子を連れて。
黒霧、皆んなを逃すんだ」
(逃がす気だ)
また連れて行かれる。
焦りが一気に込み上げる。
それでも体は動けない。
動いたら——
(終わる)
分かってる。
「今行くぞ!!」
オールマイトの声。
(助けて…!)
「させないさ。その為に僕がいる」
遮られる。
また衝撃。
距離が近い。
(間に合わない)
状況が悪い。
分かる。
圧倒的に。
(このままだと——)
爆豪くんが連れて行かれる。
(どうする)
考える。
止まってる時間はない。
(今、動かないと)
胸の奥で、何かが強く鳴った。
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