恐怖で体が動かないまま、
それでもどうにかしなきゃと
考え続けていた時だった。
「そうだ…」
(……!)
緑谷くんの声。
さっきまでと違う。何かを掴んだ時の声。
「緑谷くん…!」
飯田くんの制止。
飛び出すなという圧が伝わってくる。
「違うんだよ あるんだよ!
決して戦闘行為にはならない!
僕らもこの場から去れる!
それでもかっちゃんを救け出せる方法が!!」
(戦わずに…?)
一瞬で意識が引き戻される。
この状況を壊さずに、助ける方法。
(あるなら、それしかない)
「言ってみてくれ」
轟くんの低い声。
短いけど、迷いはない。
「でもこれは…かっちゃん次第でもあって、
この策だと多分……僕じゃ…成功しない。
切島くん。君が成功率を上げる鍵だ」
(なるほど…)
「かっちゃんは相手を警戒して、
距離を取って戦ってる。
タイミングはかっちゃんと
ヴィラン達が二歩以上離れた瞬間だ」
爆豪くんに届くのは、私でも緑谷くんでもない。
手を伸ばしても——きっと、振り払われる。
でも、
切島くんなら。
(いける)
条件が揃えば、一瞬だけ空く。
その隙を、奪う。
隣で小さく頷く気配。
轟くんも、切島くんも同じ判断。
残るのは——
「飯田さん…」
百ちゃんの声。
緊張が張り詰める。
「…バクチではあるが…状況を考えれば、
俺たちへのリスクは少ない…
何より成功すれば 全てが好転する…やろう」
(通った…!)
胸が強く鳴る。
全員の意思が揃った。
(いける)
やることはシンプル。
突っ込んで、掴んで、離脱する。
(私は——)
飛ぶ側。
それだけでいい。
次の瞬間。
空気が弾けた。
(来た!)
一気に体が引き出される。
風を切る感覚。
そして——
(——見えた)
塀の向こう。
戦場が一気に視界に飛び込んでくる。
壊れた地面。
吹き荒れる風。
そして中心に——爆豪くん。
(いた…!)
ヴィランに囲まれている。
でも距離を取って戦ってる。
(今…!)
「来い!!」
切島くんの声。
真っ直ぐで、迷いのない声。
一瞬。
ほんの一瞬だけ空いた距離。
爆豪くんがこちらを見る。
(——掴んで)
「…馬鹿かよ…!」
爆発。
そのまま跳び上がって、
切島くんの手を掴んだ。
胸の奥が一気に熱くなる。
「何ィイイイ!!!?」
背後で驚愕の声。
「……どこにでも…っ 現れやがる!!」
(成功した…!)
でもまだ終わりじゃない。
視界の端で、ヴィラン達が一斉に動く。
(追ってくる!)
「逃がすな!遠距離ある奴は!?」
「荼毘に黒霧!両方ダウン!」
「あんたらくっついて!行くわよ!」
その瞬間——
(来る——)
迎撃ではなく光の壁を張ろうと
粒子を展開しようとした瞬間、
ドンッ!!と
目の前に巨大な影が割り込む。
(Mt.レディ…!)
大きく立ちはだかる体。
進路を塞ぐ壁。
「Mt.レディ!」
緑谷くんの声も響く。
「救出…優先…行って…!バカガキ…!」
(……!)
そのまま勢いを殺さず、離脱する。
地面が近づく。
爆豪くんの爆破と飯田くんのレシプロによって、
衝撃を殺して、5人は無傷で着地した。
(いけた…!)
「よし!逃げるぞ!」
飯田くんの声。
(まだ終わってない)
背後ではまだ戦闘音が響いている。
振り返らない。
走る。
(轟くんと百ちゃんは反対側…)
でも問題ない。
(作戦通り)
人の気配が増えていく。
ざわめき。
誘導の声。
(ここまで来れば…)
胸の奥で、ようやく息ができる。
隣に、爆豪くんがいる。
ちゃんと、ここにいる。
(……よかった)
その実感が、ゆっくりと広がった。
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