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『緑谷 そっち無事か?』

(轟くんの声…!)

緊張で強張っていた空気が、少しだけ緩む。

「うん!轟くんの方は!?逃げ切れた!?」

『多分な。奴の背面方向に逃げてる。
プロ達が避難誘導してくれてる』

(よかった…)

胸の奥に溜まっていたものが、少しだけほどける。

「良かった!僕らは駅前にいるよ!
あの衝撃波も圏外っぽい!奪還は成功だよ!」

“成功”という言葉に、
ようやく現実として実感が追いつく。

(本当に……助けられた)

隣にいる気配。

ちゃんとここにいる。

それだけで、何度も確かめたくなる。

「いいか!俺ァ助けられたわけじゃねえ!
一番良い脱出経路がてめェらだっただけだ!」

(出た)

思わず口元が緩む。

いつも通りの、爆豪くん。

「ナイス判断!」

「ナイス判断ー!」

切島くんと一緒に親指を立てる。

(ほんと素直じゃないなあ)

でも、

(それでいい)

それが爆豪くんだから。

「オールマイトの足引っ張んのは、
嫌だったからな」

(……)

その一言に、少しだけ表情が引き締まる。

その時だった。

視線の先、大型モニターに映像が切り替わる。

(……戦場)

さっきまで、自分たちがいた場所。

上空からの中継。

瓦礫。

崩れた建物。

巻き上がる砂埃。

(……こんな場所に、いたんだ)

遅れて実感が押し寄せる。

映るのはオールマイト。

でも——

(押されてる…?)

見たことのない光景だった。

巨大な力のぶつかり合い。

街が壊れていく。

その先に、逃げ遅れた人影。

(危ない…!)

次の瞬間、

オールマイトが間に入る。

衝撃。

砂埃。

(……え)

風が吹き抜ける。

視界が晴れる。

そこに立っていたのは——

(……誰)

痩せ細った体。

骨ばった輪郭。

弱々しい姿。

(オールマイト……?)

信じられない。

でも、着ているのは同じ服。

(……違う)

今まで見てきた姿とは、全く違う。

理解が追いつかない。

(あれが……本当の姿?)

その瞬間、

再び姿が変わる。

筋肉が膨れ上がり、見慣れたオールマイトへ戻る。

(個性……)

あの姿は、作られていたもの。

そう理解した瞬間、

胸の奥がざわつく。

戦いは続く。

そして——

決着。

圧倒的な一撃。

ヴィランが吹き飛ばされる。

(……勝った)

オールマイトが腕を掲げる。

歓声が上がる。

(すごい……)

胸が熱くなる。

でも、

その直後。

またあの姿に戻る。

(……限界)

分かる。

もう、無理をしている。

それでも立っている。

その姿に、息が詰まる。

モニターの中でアナウンサーが叫ぶ。

「《オールマイトの交戦中も、
ヒーローによる救助活動が
続けられておりましたが、
死傷者はかなりの数になると予想されます…!
元凶となったヴィランは今…あっ今!!
移動牢に入れられようとしています!
オールマイトらによる厳戒体制の中、今…!》」

移動牢に入れられたヴィランを見送った後、
オールマイトは疲れ果てたような猫背で、

「《次は、君だ》」

と言葉は強くも弱々しい指先で、
カメラに指を刺した。

その一言は

短いのに、やけに重く響く。

(今の……)

誰に向けた言葉なのか。

考えるより先に、

周りは歓声に包まれていた。

隣で、緑谷くんが泣いている。

(……違う)

喜びだけじゃない。

もっと複雑な、何か。

(……分かる気がする)

それ以上は考えなかった。

今は——

(戻ろう)

やることは終わった。

その後、

轟くんと百ちゃんと合流して、
着替えて、爆豪くんを警察に送り届けた。

(……無事でよかった)

それだけで、十分だった。

オールマイトの戦いの後、爆豪くんは静かだった。

でも、

(きっと……)

色々、考えてる。

そう思った。

事件の影響で電車は動かず、

そのまま6人で漫画喫茶へ向かう。

(疲れた……)

一気に力が抜ける。

百ちゃんは漫画喫茶も初めてみたいで、
楽しげに少しそわそわしていた。

意外とマイペースなところあって可愛い。

でもさすがに疲労の方が優っていて、
漫画喫茶で仮眠を取り、

朝。



外に出ると、空気が少しだけ軽く感じた。

(やっと……終わった)

林間合宿から続いた出来事。

全部が一区切りついた気がする。

駅へ向かう足取りも、どこか静かだった。

改札の前で、自然と足が止まる。

「では」

飯田くんの声。

「ありがとうな 皆んな」

(切島くんらしいな)

真っ直ぐな声。

「皆様!真っ直ぐ帰って下さいね!?」

(百ちゃんもいつも通り)

「うん。本当にありがとう」

緑谷くんの声も、少しだけ軽くなっている。

「じゃあ…また 学校で」

「うん!また学校で!」

(……うん)

それが一番いい。

当たり前に戻ること。

それが、きっと一番大事だから。

それぞれが改札へ向かう。

背中が少しずつ離れていく。

(また、学校で)

そう思いながら、私も歩き出す。

電車に乗り込むと、車内は静かだった。

(やっと……落ち着いた)

揺れに身を任せる。

(相澤先生も……きっと大丈夫)

そう信じたい。

(また、皆で)

1-Aで、いつもの日常を。

ゆっくりと目を閉じる。

最寄駅に着くまで、

私はそのまま眠りについた。










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