「よし、こんなもんかな!」
最後の段ボールを空にして、
ふう、と小さく息を吐く。
部屋をぐるりと見渡す。
(うん、いい感じ)
ベッドの位置も、棚のバランスも、
ちゃんと収まっている。
クローゼットの中もきっちり整理できていて、
衣類も無理なく入った。
棚の上に並べた香水とパワーストーン。
その隣に雑誌。
(うん。落ち着く)
デスクの本棚に目をやる。
教材、星座図鑑、天文学の本。
その中に混ざる一冊。
(デニム用語集……)
買っただけで、まだ開いていない。
(また会う時でいいよね)
そう思いながらも、自然と別の顔が浮かぶ。
(ベストジーニスト……)
神野の光景が、一瞬だけよぎる。
あの人が倒れた瞬間。
あの場の空気。
(……大丈夫かな)
重傷。しばらく休業。
それだけでも、どれだけの戦いだったのか分かる。
(プロでも、ああなるんだ)
そして――
(オールマイトも……)
引退。
頭では分かっているのに、まだ少し現実味がない。
あの場にいた時、自分は動けなかった。
(怖かった……でも)
視線を、もう一度部屋に戻す。
整った空間。
自分で整えた場所。
(次は、ちゃんと動けるように)
仮免。正規のヒーロー活動。
(守れるようにならなきゃ)
小さく頷く。
「よし!皆んな部屋片付いたかなー」
自然と声が出る。
段ボールをまとめて廊下へ出ると、
ちょうど同じタイミングでドアが開いた。
「あ!綺羅ー!片付け終わったー?」
三奈ちゃんの明るい声。
「うん!段ボール捨てて終わり!」
自然と声も弾む。
「じゃあ共有スペース行こ!
お茶子ちゃんも!」
「うん!」
三人でエレベーターの前に並ぶ。
待っている間、三奈ちゃんが身を乗り出してきた。
「ねえねえ、皆んなの部屋
どうなってるか気にならない?」
「気になる!趣味とかあんまり話す事ないから、
部屋見てみたいよね!」
「じゃあ、お披露目会しようよ!
男子も一緒に全員で!」
「それいいね!」
話が決まるのが早い。
(絶対楽しいやつだ)
エレベーターが開く。
そのまま1階へ。
共有スペースには、
すでに何人かがくつろいでいた。
大きなソファに沈み込んでいる上鳴くん。
「男子 部屋出来たー?」
「うん。今くつろぎ中」
顔だけこっちに向けて答える。
「ねえねえ!提案なんだけど!
お部屋披露大会 しませんか!?」
三奈ちゃんの勢いのまま、話が転がる。
「お!めっちゃ良いなソレ!」
(決まった)
「んじゃ2階から順に見て行こうよ!」
「え!?2階!?」
緑谷くんの声が裏返る。
(あ、トップバッターだ)
「わああダメダメちょっと待ーー!!!」
止めようとするけど、
扉が開く。
ガチャンッ。
視界に飛び込んできたのは――
「オールマイトだらけだ!オタク部屋だ!!」
(すご……!)
壁一面のポスター。
グッズの量。
「憧れなんで…、………恥ずかしい…」
目を逸らす緑谷くん。
(可愛い)
思わず笑いそうになる。
後ろでは男子たちがざわついている。
(なんか変な空気になってきた)
「フン。下らん…」
そう言いながらもしっかりドア前に立つ常闇くん。
(あ、守ってる)
でも
あっさり開けられる。
中は――
(黒……!)
天井も、床も、布団も。
全部黒。
「黒!!怖!」
三奈ちゃんの声に思わず頷く。
椅子、ローブ、ドクロ。
(世界観すごいな……)
青山くんの部屋の扉が開いた瞬間、
光が一気に溢れ出した。
思わず目を細める。
(まぶし……!)
部屋の中は予想通り、
いや予想以上の“キラメキ”だった。
壁も、小物も、配置も、
とにかく光を反射するものが多い。
中央に据えられたミラーボールが
ゆっくりと回っていて、
七畳ほどの空間に細かい光を散らしている。
(あれ自分の部屋に飾る人いるんだ……)
不思議な光景に、思わずじっと見てしまう。
落ち着くとか落ち着かないとか、
そういう次元じゃない。
ただただ“青山くんらしい”。
その眩しい余韻のまま廊下に出ると、
今度は妙にそわそわした気配。
見ると、峰田くんが
自分の部屋の扉をほんの少しだけ開けて、
こちらに向かって手招きしている。
「……」
(絶対入らない)
全員の意思が一瞬で一致した。
視線を合わせることもなく、そのまま通り過ぎる。
「3階行こ」
三奈ちゃんの一言で、流れはそのまま次へ進む。
階段を上がる足音が続く。
三階。
最初に開けたのは尾白くんの部屋。
中を覗く。
(普通だ……)
備え付けの家具がきちんと配置されていて、
余計な物はほとんどない。
整っているけど、主張はない。
(落ち着くけど、すごく普通)
尾白くんらしい、という言葉が一番しっくりくる。
次は飯田くん。
扉が開いた瞬間、本棚が目に入る。
難しそうなタイトルが並んでいて、
委員長らしさがそのまま出ている。
――けど。
「眼鏡クソある!!」
お茶子ちゃんが吹き出す。
視線を横にずらすと、
そこには整然と並べられた眼鏡、眼鏡、眼鏡。
(多いっていうか……多すぎない?)
「何が可笑しい!
激しい訓練での破損を想定してだな!」
真面目な顔で説明する飯田くん。
(ちゃんと理由あるんだ……)
納得はするけど、やっぱり少し面白い。
次は上鳴くん。
扉が開く。
一瞬で分かる空気。
(あ、チャラい)
色味、ポスター、小物の配置。
流行っているものをそのまま集めたような、
賑やかな部屋。
「チャラい」
「人気なもの集めました感」
「チャラ」
三奈ちゃん、透ちゃん、
響香ちゃんの言葉が重なる。
(うん、分かる)
心の中で同意してしまう。
上鳴くんが少し肩を落とす。
(でも楽しそうではあるんだよね)
そんなことを思いながら次へ進む。
口田くんの部屋。
扉が開いた瞬間、
「うさぎがいるー!」
「可愛いー!」
一気に空気が変わる。
お茶子ちゃんと三奈ちゃんと透ちゃんが駆け寄る。
(え、ほんとだ)
小さくて、柔らかそうで、ぴょんと動く。
(可愛い……)
自然と頬が緩む。
(でもここペット可だったんだ…!)
初めて知る事実。
でもすぐに思い至る。
(あ、個性のトレーニングか)
それなら納得できる。
ただの見学のはずだったのに、
気付けば空気が変わっていた。
男子側からじわじわと不満が滲む。
「釈然としねえ」
「ああ…奇遇だね。俺もしないんだ釈然…」
「そうだな」
「僕も☆」
さっきまでバラバラだったのに、
一気に団結している。
その流れに乗るように、
峰田くんが一歩前に出る。
「男子だけが言われっ放しってのはぁ変だよなァ?
大会っつったよな?なら当然!
女子の部屋も見て決めるべきじゃねえのか?
誰がクラス一のインテリアセンスか、
全員で決めるべきなんじゃねえのかあ!!!?」
最初はただの見学だったはずなのに。
(でもちょっと面白いかも)
自然と口元が緩む。
女子側も否定する空気じゃない。
むしろ――
(やるなら負けたくないよね)
さっきまでの軽い遊びが、少しだけ熱を帯びる。
お部屋お披露目会は、
気付けば――
「部屋王」を決める大会に変わっていた。
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