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寮の外に出ると、夜の空気がひやりと肌に触れた。

(さっきまで賑やかだったのに)

急に静かで、少しだけ現実に戻される。

少し離れた場所に、
梅雨ちゃんがぽつんと立っていた。

(……待ってたんだ)

その姿に、自然と足がゆっくりになる。

お茶子ちゃんが隣に並んで立つ。

「梅雨ちゃんが皆んなにお話したいんだって」

(やっぱり……)

胸の奥が少しだけ重くなる。

梅雨ちゃんは少し間を置いてから、口を開いた。

「私、思った事は何でも言っちゃうの。
でも、何て言ったらいいのか
分からない時もあるの。
病院で私が言った言葉 覚えてるかしら?」

(うん……)

あの時の空気が、そのまま蘇る。

“ルールを破るというのなら、
その行為はヴィランのそれと同じなのよ”

(ちゃんと覚えてる……)

忘れられるわけがない。

「心を鬼にして、辛い言い方したわ」

梅雨ちゃんの視線が落ちる。

(あの言葉は、正しかった)

でも同時に、

(ちゃんと刺さってた)

「それでも皆んな行ってしまったと、
今朝聞いてとてもショックだったの。
止めたつもりになってた不甲斐なさや、
色んな嫌な気持ちが溢れて…
何て言ったらいいのかわからなくなって、
皆んなと楽しくお喋りできそうになかったのよ」

(……そっか)

胸がぎゅっと締まる。

(止めた“つもり”)

その言葉が重い。

今朝の相澤先生の言葉が、頭の中に重なる。

(除籍)

一歩間違えれば、全部終わっていた。

「でも、それはとても悲しいの」

ぽろ、と涙が落ちる。

一粒じゃない。

次々と溢れてくる。

(……あ)

足が自然に動きそうになる。

でも、その前に言葉が続く。

「だから…まとまらなくても
ちゃんとお話をして、
また皆んなと楽しく
お喋りできるようにしたいと思ったの」

(強いなあ……)

誤魔化さない。

逃げない。

ちゃんと向き合う。

(梅雨ちゃんって、すごい)

そう思った瞬間、横から声が重なる。

「梅雨ちゃんだけじゃないよ」

お茶子ちゃんがそっと背中に手を置く。

「皆んなすんごい不安で、拭い去りたくって、
だから…部屋王とかやったのもきっと、
デクくんたちの気持ちは、
わかってたからこそのアレで…
だから責めるんじゃなくまたアレ…
なんというか…ムズいけど…とにかく、
また皆んなで笑って…頑張ってこうってやつさ!!」

ぐっと拳を上げて、にかっと笑う。

(お茶子ちゃん……)

その不器用な言葉が、逆にまっすぐ入ってくる。

気づいたら、もう身体が動いていた。

「梅雨ちゃんごめんね!
裏切ったような事をして!」

ぎゅっと抱きしめる。

(ちゃんと謝りたかった)

言葉だけじゃなくて、ちゃんと伝えたかった。

「梅雨ちゃん、すまねえ!!
話してくれてありがとう!!」

切島くんも勢いよく来る。

(泣いてるし……)

でも、それくらいの気持ちだって分かる。

「蛙吸さん!」

百ちゃんが優しく手を添える。

「蛙吸 すまねえ」

轟くんも静かに近づく。

「梅雨ちゃん君!」

飯田くんの声が少し慌てている。

「あす…ゆちゃん!」

緑谷くんのぎこちない呼び方に、

(頑張ってる……)

少しだけ空気が緩む。

「ケロ!」

梅雨ちゃんがいつもの声で返す。

(……よかった)

少しだけ力が抜ける。

でも、

(忘れちゃダメだ)

今回のこと。

自分たちが選んだ行動。

誰かを傷つけたこと。

(ちゃんと覚えておかないと)

同じことを繰り返さないために。

ぎゅっと抱きしめたまま、少しだけ力を込める。

(それでも)

ゆっくり息を吐く。

(また一緒に笑いたい)

その気持ちは、みんな同じだと思う。

(明日から)

仮免。

ヒーローとしての一歩。

(ちゃんと進もう)

顔を上げる。

夜の空気が少しだけ軽く感じた。







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