朝食を終えたあと、一度部屋に戻る。
制服に袖を通しながら、
さっきまでの食堂の空気を思い出す。
(ほんとにもう“日常”なんだなあ)
ネクタイを整えて、
ショルダーバッグを肩に掛ける。
ドアノブに手をかけて、一呼吸。
それから部屋を出た。
廊下には同じように登校準備を終えた
生徒たちの気配がある。自然と足取りも軽くなる。
階段を降りて玄関へ向かうと、
ちょうど見慣れた後ろ姿があった。
「あ!綺羅おはよー!」
「おはよ!」
三奈ちゃんの明るい声に、
自然と同じテンションで返す。
そのまま並んで外に出る。
朝の空気は少しひんやりしていて、
でも日差しはもうしっかり強い。
(徒歩五分ってほんと楽…)
以前は電車やバスを乗り継いで、
一時間以上かけて通っていた。
それが今は、歩いてすぐ。
(その分、出来ること増えるよね)
トレーニングも、勉強も、全部。
(いい環境だなあ)
自然と前を向く。
校舎はもうすぐそこだった。
教室に入ると、寮では会っていなかった
クラスメイトたちの姿もあって、
いつもの空気が戻ってくる。
「おはよー!」
「おはよう」
挨拶を交わしながら、自分の席へ向かう。
視線の先。
いつものように机に足を乗せて、
片足を組んでいる姿。
(あ、いた)
「爆豪くんおはよ!」
気にせず声をかける。
返ってきたのは、
「チッ…」
短い舌打ちと、露骨なそっぽ。
(相変わらずだなぁ)
思わず口元が緩む。
でも、それでいい。
(これもいつもの感じ)
席に着きながら、軽く息をつく。
騒がしさも、素っ気なさも、
全部含めてこのクラスだ。
やがてチャイムが鳴る。
ガラッと勢いよく扉が開いた。
「おはよう」
いつも通りの声。
相澤先生が教卓の前に立つ。
(セーフだったけど、除籍宣言受けたからか
先生見ると緊張しちゃうな)
綺羅は少し背筋を伸ばす。
「昨日の話の続きだが、ヒーロー免許ってのは、
人命に直接関わる責任重大な資格だ。
当然取得の為の試験はとても厳しい。
仮免といえどその合格率は例年5割を切る」
教室の空気が一気に引き締まる。
(半分以下…)
思っていたよりずっと厳しい。
「仮免でそんなキツイのかよ」
上鳴くんの声に、周りもざわつく。
「そこで今日から君らには1人最低でも二つ…」
相澤先生の言葉が続きかけた、その時。
ふと視線が入口へ向く。
(……?)
次の瞬間――
「「「必殺技を!作ってもらう!!」」」
勢いよく飛び込んできた声。
セメントス、エクトプラズム、ミッドナイト。
三人の講師が並んで立つ。
(うわ、急にテンション高い)
「「「「「学校っぽくてそれでいて、
ヒーローっぽいのキタァア!!!」」」」」
教室が一気に沸く。
さっきまでの緊張が、一瞬で弾けたみたいに。
(わあ、戻ってきた感じする…!)
自然と笑いそうになる。
「必殺!コレ スナワチ必勝ノ型・技ノコトナリ!」
「その身に染みつかせた技・型は
他の追随を許さない!
戦闘とはいかに自分の得意を押し付けるか!」
「技は己を象徴する!今日日必殺技を
持たないプロヒーローなど絶滅危惧種よ!」
熱量の高い説明が続く。
(なんかワクワクしてきた…!)
胸の奥がふわっと軽くなる。
(自分の技かあ)
今までなんとなく使ってたものじゃなくて、
“これ!”って言えるやつ。
(ちゃんと形にしたいな)
そう思ったところで、
「詳しい話は実演を交え 合理的に行いたい。
コスチュームに着替え、体育館γへ集合だ」
すっと現実に引き戻される。
(先生ほんとブレないなあ…)
さっきまでの熱さを、綺麗に整えるみたいな一言。
相澤先生はそのまま教室を出ていって、
残された教室は、
ざわざわと期待と興奮に満ちていく。
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