ヒーローコスチュームに着替えたA組は、
体育館γに集合した。
久しぶりに袖を通したコスチュームは、
やっぱりしっくりくる。
(やっぱこれだなあ…!)
自然と背筋が伸びる感覚に、
少しだけ気分が上がる。
「ここは体育祭γ!そして、
トレーニングの台所ランド略してTDL!」
「「「「「(TDLはマズそうだ!!)」」」」」
一瞬で全員の心が一致したツッコミに、
思わず口元が緩む。
そんな空気の中でも、セメントスは
気にした様子もなく説明を始めた。
「ここは俺考案の施設。
生徒一人一人に合わせた地形や物を用意できる。
台所ってのはそういう意味だよ。」
(へえ…すご)
周囲を見渡す。
広い空間が、まだ何にもなっていない
“余白”みたいに広がっている。
(ここが変わるってことだよね)
ちょっと楽しみになる。
「質問をお許し下さい!」
飯田くんが勢いよく手を挙げる。
(今日もキレッキレだなあ…)
「何故 仮免許の取得に必殺技が必要なのか、
意図をお聞かせ願います!!」
いつも以上に丁寧な言葉遣い。
(昨日のやつ引きずってる…)
「順を追って話すよ。落ち着け。
ヒーローとは事件・事故・天災・人災…
あらゆるトラブルから人々を救い出すのが仕事だ。
取得試験では当然その適性を見られることになる。
情報力・判断力・機動力・戦闘力、
他にもコミュニケーション能力・魅力、統率力など
多くの適性を毎年違う試験内容で試される」
(やっぱり全部見られるんだ)
ただ強いだけじゃダメ。
ちゃんと分かってはいたけど、
改めて言葉にされると重みがある。
「その中でも戦闘力は、
これからのヒーローにとって
極めて重視される項目となります。
備えあれば憂いなし!
技の有無は合否に大きく影響する!」
「状況に左右される事なく安定行動を取れれば、
それは高い戦闘力を有している事になるんだよ」
(“安定”…か)
なんとなく、しっくりくる言葉だった。
その中で――
「技ハ必ズシモ攻撃デアル必要ハ無イ。
例エバ…飯田クンノ”レシプロバースト”」
「一時的ナ超速移動ソレ自体ガ脅威デアル為、
必殺技ト呼ブニ値スル」
(なるほど…)
「確かに!いつも言いながら
動いててかっこ良かったよね!」
思わず声に出る。
飯田くんが特にヒーローらしく見えるのはソレか!
「アレ必殺技で良いのか…!!」
(え、自覚なかったの!?)
飯田くんの反応に、少しだけ驚く。
「成る程ー “自分の中にこれさえあれば有利、
勝てる”って型を作ろうって話かー」
(分かりやすい…!)
瀬呂くんの言葉に、すっと整理される。
「そ!先日大活躍したシンリンカムイの
”ウルシ鎖牢”なんか模範的な必殺技よ。
わかりやすいよね」
(ああ、確かに)
見ただけで何をする技か分かる。
それってすごく大事だ。
「中断されてしまった合宿での”個性伸ばし”は、
この必殺技を作り上げる為のプロミスだった」
(合宿の続き…)
自然と繋がる。
あの時間が、ここに来て意味を持つ。
(じゃあ…)
頭の中で整理されていく。
(広げて、絞る)
ベストジーニストの時は“無駄を削る”だった。
今回はその前段階も含めて全部。
(ちょっと楽しそう)
自然と気持ちが前に向く。
「つまりこれから後期始業まで…
残り10日余りの夏休みは、個性を伸ばしつつ、
必殺技を編み出す…圧縮訓練となる!」
(10日…!)
短い。
でも、
(だから面白い)
その瞬間、床が動いた。
セメントスがコンクリートを操り、
ステージが一気に形成される。
同時に、エクトプラズムの分身がずらりと並ぶ。
(うわ、準備早…!)
もう“始まる”空気。
「尚、個性の伸びや技の性質に合わせて、
コスチュームの改良も並行して考えていくように。
プルスウルトラの精神で乗り越えろ。
準備はいいか?」
一瞬の静寂。
次の瞬間――
「「「「「…ワクワクしてきたあ!!」」」」」
思わず一緒に声が出る。
胸の奥が軽く弾む。
コスチューム。
必殺技。
訓練。
(全部好きなやつだ)
こんなにテンションが上がる授業、そうそうない。
(どんな技にしよっかな)
考えるだけでちょっと楽しい。
足元に意識を落として、軽く踏み込む。
(ちゃんと“私の形”にする)
そう思った瞬間、体が自然と動き出しそうになる。
――始まる。
自分の“光”を形にする時間が。
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