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着替えを終え、
春の風が吹き抜けるグラウンドに全員が集まる。

雄英高校の広いグラウンド。

まだ少し冷たい風が頬を撫でていく。

青い空の下、体操服姿の生徒たちが
横並びに立っていた。

入学式すらも無い入学初日。

(雄英って、本当にいきなりなんだ)

私は軽く肩を回しながら周囲を見渡す。

誰もまだ打ち解けてはいない。

さっき教室にいた面々が、
それぞれ少し距離を空けて立っている。

その前に、あの眠そうな教師が立っていた。

「これから個性把握テストを行う」

「……え?」

「テスト?」

「入学初日から?」

思わず声が上がる。

私も思わず瞬きをする。

(いきなりテスト……)

まだ入学したばかりなのに。

けれど、相澤先生の表情は変わらない。

まるで最初から決まっていたことのように、
当たり前の顔をしている。

「入学式は!?ガイダンスは!?」

茶髪のボブの女子が、はっきりと問いかけた。

さっき教室の入り口で話していた子だ。

声には少し驚きが混じっている。

それに対し、相澤は少しも悪びれず、
むしろ当然のことのように言い放つ。

「ヒーローになるなら、
そんな悠長な行事に出る時間はない」

冷たいわけではない。

ただ、無駄が一切ない。

必要なことだけを言う声。

「雄英は“自由”な校風が売り文句だ。
そしてそれは、“先生側”もまた然り」

その言葉に他の生徒は首を傾げる。

「ソフトボール投げ、立ち幅跳び、
50メートル走、持久走、握力、
反復横跳び、上体起こし、長座体前屈」

淡々と読み上げられる種目。

私は思わず頷いた。

(体力テストだ)

中学の頃から、毎年やっていた。

でも。

「中学の頃からやってるだろ。
“個性”禁止の体力テスト」

相澤先生は言葉を続ける。

「国は未だ画一的な記録を取り続けて、
平均を作っている。合理的じゃない。
まあ、文部科学省の怠慢だよ」

さらっと、とんでもないことを言う。

何人かの生徒が戸惑ったように顔を見合わせた。

その時。

相澤先生の視線が、一人の男子へ向く。

窓側の列の先頭。

さっき机に足を掛けていた金髪の男子。

「実技入試成績トップは爆豪だったな。
中学の時、ソフトボール投げ何mだった?」

「……67m」

前の方で、爆豪と呼ばれた男子は
ぶっきらぼうに答えた。

相澤先生はボールを渡し、短く言う。

「“個性”を使ってやってみろ。
円から出なきゃ何してもいい。
早よ、思いっきりな」

爆豪くんは軽くストレッチをして構える。

肩を回す。

手を握る。

その動きに、迷いはない。

そして。

「(球威に爆風を乗せる――)
死ねえ!!!!」

ΣFABOOOM!!!!!

爆音と衝撃。

空気が震える。

グラウンドの砂が一瞬ふわっと舞い上がった。

私は思わず目を見開く。

(すご……)

ボールはまるで弾丸みたいに空へ飛び、
そのまま彼方へ消えていった。

その威力に、誰もが一瞬言葉を失う。

「まず自分の〔最大限〕を知る。
それがヒーローの素地を形成する合理的手段」

そう言いながら、手元の装置を操作する。

そして記録を、全員に見えるように表示した。

数字が浮かび上がる。

記録表示。

705m

「705mって、まじかよ……」

「何これ!面白そう!!」

「思いっきり個性使えんだ!
さすがヒーロー科!!」

歓声と興奮が広がる。

私も思わず笑みがこぼれる。

(すごい……)

ヒーロー科。

やっぱり普通じゃない。

ここでは、個性を思いきり使える。

自分の限界まで。

胸の奥が少しだけ高鳴る。

けれど――

相澤先生の雰囲気が、わずかに変わった。

「……面白そう、か」

声が低くなる。

さっきまでの空気が、ふっと消える。

「ヒーローになる為の三年間。
そんな腹づもりで過ごす気でいるのかい?」

静まり返るグラウンド。

さっきまで騒いでいた生徒たちも、言葉を失った。

私は思わず背筋を伸ばす。

(……まずい)

空気が変わった。

相澤先生は続ける。

「よし。
トータル成績、最下位の者は――」

一拍。

その口元が、わずかに歪む。

「見込み無しと判断し、除籍処分しよう」

ニヤリと笑う。

その言葉の意味が、一瞬理解できなかった。

でも次の瞬間。

「「「「「はあああ!!?」」」」」

A組の声が一斉に上がる。

私も思わず目を見開いた。

(除籍……!?)

入学初日で?

雄英って、そんな学校なの?

グラウンドの空気が一気に張り詰める。

相澤先生はその反応を見ても、
特に驚く様子もない。

ただ淡々とした声で言った。

「生徒の如何は先生の自由。
ようこそ。これが、雄英高校ヒーロー科だ」

それだけ言うと、相澤先生はくるりと背を向けた。

春の風が、静かにグラウンドを吹き抜ける。

雄英高校。

ヒーロー科。

――その最初の試練が、今始まろうとしていた。








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