⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

✳︎






グラウンドの空気は、
さっきまでとは明らかに違っていた。

誰もが黙っている。

除籍処分。

その言葉が、まだ頭の奥に残っている。

入学初日。

それなのに――

最下位になれば終わり。

(厳しいな)

私は小さく息を吐いた。

春の風が、ポニーテールを揺らす。

肩にかかった髪を、軽く後ろへ払う。

でも、不思議と。

怖い、という感覚はあまりなかった。

むしろ――

(ちょっと、ワクワクする)

ここは雄英高校ヒーロー科。

入試を突破してきた人たちばかり。

つまり。

本気で競う場所だ。

その空気が、体の奥を少しだけ熱くする。

「じゃあ始めるぞ」

相澤先生の声で、生徒たちが動き始めた。

最初の種目は――

50メートル走。

グラウンドに引かれた白線の前へ、
生徒たちが並ぶ。

「位置について」

スタートの合図。

次の瞬間。

地面を蹴る音が、一斉に響いた。

砂が弾ける。

一瞬で距離が開く。

速い。

普通の中学生とは、明らかに違う。

個性を使う者。

純粋な身体能力で走る者。

それぞれのスタイルで、
ゴールへと突っ込んでいく。

(やっぱりレベル高い)

私は順番を待ちながら、前の走者を見る。

黒い影のような何かが地面を滑るように進む。

反対側では、信じられない速度で加速する男子。

このクラス、やっぱりすごい。

私の番が来た。

スタートラインに立つ。

前には、白線。

たった50メートル。

でも――

ここでは、それが単なる体力測定じゃない。

(スターライト)

私は軽く息を吐いた。

足元に、光の粒子が集まる。

星屑みたいな小さな光。

静かに、でも確かに集まってくる。

「スタート」

地面を蹴る。

その瞬間――

光が弾けた。

足元で、小さな閃光。

体がぐっと前へ押し出される。

風が頬を叩く。

(速い)

光の推進力。

スターライトの加速。

私はそのまま一直線に駆け抜けた。

白線を越える。

砂が靴の裏で止まった。

振り返ると、何人かの生徒がこちらを見ている。

「今の……」

「光?」

小さなざわめき。

私は軽く息を整える。

(うん)

ちゃんと使える。

雄英でも。

テストは次々と進んでいく。

立ち幅跳び。

握力。

反復横跳び。

それぞれの能力が、
グラウンドのあちこちで発揮される。

腕を巨大化させる者。

体をバネのように使う者。

見ているだけでも面白い。

(すごいな)

ここにいる全員が、ヒーローを目指している。

その時、ふと思い出す。

さっきのソフトボール投げ。

爆発の衝撃。

705メートル。

(あれはすごかったな)

思わず小さく笑う。

でも。

胸の奥には、別の感情もあった。

(負けたくない)

その気持ちが、少しだけ強くなる。

その時だった。

相澤先生の声が響く。

「次、ソフトボール投げ」

生徒たちが、一斉にそちらを見る。

私はボールを受け取った。

手のひらの中の重さ。

ただのボール。

でも――

(これは、ちょっと面白くなりそう)

指先に、光の粒子が静かに集まり始めていた。









✳︎



..