必殺技考案と個性伸ばしの
トレーニングが始まって四日。
最初は手探りだった動きも、
少しずつ“形”になってきているのが分かる。
体育館γには、以前よりも明確な
意図を持った音が増えていた。
爆発音、衝突音、駆ける音
――全部に“狙い”がある。
その中に、またあの大きな声が響いた。
「進捗どうだい。相澤くん」
(また来た)
思わずそっちを見る。
入口に立っているのはオールマイト。
今日も普通に来ている。
「また来たんですか……ボチボチですよ」
相澤先生は少し呆れたように答えているけど、
完全に追い返す気はなさそうだ。
(なんだかんだで見に来るよね)
「ようやくスタイルを定め始めた者もいれば、
すでに複数の技を修得しようとしている者もいます」
淡々とした報告の中で、
私は自然とある方向に目がいく。
爆豪くん。
高い位置に立って、岩を相手に手を向けている。
(あれ……)
いつもの爆発とは少し違う。
掌全体じゃない。
もっと一点に集中して――
次の瞬間、
ドンッ、と鋭い爆音。
岩が粉砕され、その破片が下へと落ちていく。
「あ オイ 上!!」
爆豪くんが気付いて声を上げる。
視線の先には――オールマイト。
「馬っ……!」
相澤先生が捕縛布を緩めるよりも早く、
「SMASH!」
緑谷くんが飛び込んだ。
足を振り抜いて、落ちてきた岩を蹴り飛ばす。
軌道が変わり、破片は安全な方向へ弾かれた。
そのまま着地して、
「大丈夫でしたか!?オールマイト!」
「ああ!」
オールマイトもすぐに返事をする。
(今の――)
動きが綺麗だった。
迷いがない。
「緑谷くん今の良い感じだったよー!」
思わず声をかけて、親指を立てる。
「あ、ありがとう星宮さん!」
少し照れながらも嬉しそうに返してくれる。
周りもすぐに反応した。
「何 緑谷!?サラッとすげえ破壊力出したな!」
「おめー パンチャーだと思ってた」
上鳴くんと切島くんが興奮気味に声をかける。
それに対して緑谷くんは、
自分の足元を見ながら答えた。
「破壊力は発目さん考案の
このソールのおかげだよ。
飯田くんと星宮さんに体の使い方を教わって
スタイルを変えたんだ。
方向性が定まっただけでまだ付け焼き刃だし、
必殺技と呼べるものでもないんだけど…」
ゴツゴツとしたソール。
確かに、普通の靴とは違う。
(サポートアイテムかあ)
少しだけ自分の足元を見る。
私のブーツも、ほんの少し改良してある。
見た目はほとんど変わらないけど、
内側に衝撃吸収素材を入れてある。
「いいや!多分付け焼き刃以上の効果があるよ。
こと、仮免試験ではね」
オールマイトがそう言うと、
緑谷くんは少しだけ目を見開いた。
「オールマイト。
危ないんであまり近寄らないように」
「いや失敬!爆豪少年!すまなかった!」
「……ケッ、気ィ付けろやオールマイトォ!!」
爆豪くんはそれだけ言って、
もう次の動きに入っている。
(集中力すご…)
さっきの新しい爆破も気になるけど、
今はそれどころじゃないみたいだ。
その横で、
「それより…!皆んなも
コスチューム改良したんだね!」
緑谷くんが周りに声をかける。
「あ!?気付いちゃった!?お気付き!?
俺ら以外もちょこちょこ改良してる!
気ィ抜いてらんねえぞ!」
「ニュースタイルはおめーだけじゃねえぜ!」
上鳴くんと切島くんも嬉しそうに見せてくる。
確かに、細かいところが少しずつ変わっている。
(みんなちゃんと進んでる)
私も付けているゴーグルに触れる。
薄いピンクのレンズ。
軽く装着してみると、
視界が少しクリアになる感覚がある。
(おお…ちょっと未来っぽい)
思わず笑いそうになる。
(ヒーロー感増した気がする)
外して、もう一度見つめる。
その時、
ガラッ、と体育館の扉が開いた。
自然と視線が向く。
「そこまでだA組!!!
今日は午後から我々が
ここを使わせてもらう予定だ!!」
聞き覚えのある声。
入ってきたのは、B組の担任
――ブラドキングと、
その後ろに続くB組の生徒たち。
「B組!」
緑谷くんが驚いて声を上げる。
空気が少しだけピリッと変わる。
「イレイザー。さっさと退くがいい」
「まだ10分弱ある。
時間の使い方がなってないな」
先生同士も静かにぶつかっているけど、
それ以上に分かりやすいのは――
「ねえ知ってる!?
仮免って半数が落ちるんだって!
キミら全員落ちてよ!!」
(ストレートだなあ…)
思わず苦笑する。
「怖」
「自分に正直な奴だな」
耳郎ちゃんと瀬呂くんの反応も
的確すぎてちょっと面白い。
さらに上鳴くんが物間くんを指差して、
「つか物間のコスチュームあれなの?」
確かに気になる。
タキシード。
(なんで…?)
「コピーだから変に奇をてらう
必要はないのさって言ってた」
拳藤さんの説明に、
「てらってねえつもりか」
思わず心の中で同じツッコミをした。
「しかし奴の言う事ももっともだ。
同じ試験である以上俺たちは蠱毒…
潰し合う運命にある」
常闇くんの言葉に、空気が少しだけ締まる。
でもすぐに、
「だからA組とB組は別会場で申し込みしてあるぞ」
相澤先生があっさり返した。
「ヒーロー資格試験は毎年6月・9月に全国3カ所で
一律に行われる。同校生徒での潰し合いを
避ける為、どの学校でも時期や場所を分けて
受験させるのがセオリーになってる」
ブラドキングの説明で、状況が整理される。
(そっか…他校とも当たるんだ)
一瞬だけ物間くんが安心した顔をしたのも、
すぐにいつもの調子に戻る。
「直接手を下せないのが残念だ!!」
「ホッ つったな」
「病名のある精神状態なんじゃないかな」
(容赦ないなあ)
周りのツッコミも含めて、少し空気が和む。
でも、
「どの学校でも…そうだよな。
普通にスルーしてたけど
他校と合格を奪い合うんだ」
切島くんの言葉で、改めて現実が浮かび上がる。
「しかも僕らは通常の修得過程を前倒ししてる…」
緑谷くんの言葉に、
「1年の時点で仮免を取るのは全国でも少数派だ。
つまり君たちより訓練期間の長い者。
未知の個性を持ち洗練してきた者が集うワケだ。
試験内容は不明だが
明確な逆境であることは間違いない。
意識しすぎるのも良くないが忘れないようにな」
相澤先生が静かに言い切る。
(逆境、か)
軽く息を吸う。
怖い、というより――
(燃えるかも)
自然と口元が上がる。
難しいなら、やりがいがある。
強い人たちと戦えるなら、楽しみでもある。
(もっとちゃんと形にしないと)
さっきのイメージを思い出す。
ノヴァ・フレア。
まだ未完成だけど、確実に手応えはある。
視線の先では、爆豪くんがまた
爆破を起こしていた。
(負けてらんないな)
気持ちを切り替えて、
私はもう一度トレーニングに戻った。
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