必殺技考案と個性伸ばしのトレーニングを終えて、
寮に戻ると、玄関を抜けた瞬間に
ふっと空気が緩んだ。
(あー…帰ってきた)
体育館γの張り詰めた空気とは違う、生活の音。
話し声、テレビの音、笑い声。
共有スペースにはすでに何人かいて、
ソファでくつろいでいたり、
食堂で夕飯を食べていたりと、
それぞれの時間を過ごしている。
その中に混ざるのも好きだけど、
今は一度リセットしたい。
私はそのまま自分の部屋に戻った。
汗を拭いて、髪を軽く整えてから、
スポーツウェアに着替える。
ネイビーとホワイトのラインが入った
Tシャツにショートパンツ。
(これが一番楽)
軽く伸びをしてから、食堂へ向かった。
今日の夕食は、唐揚げ定食。
トレーを受け取った瞬間、
いい匂いがふわっと広がる。
(あ、当たりの日だ)
醤油味と塩味がそれぞれ二つずつ。
味が2種類あるのが嬉しい。
キャベツの千切りに、わかめと豆腐の味噌汁。
(ほんと豪華だよね…)
改めて思いながら席を探すと、
「綺羅お疲れー!」
「三奈ちゃんお疲れー!必殺技結構出来た?」
芦戸ちゃんに声をかけられて、そのまま隣に座る。
向かいにはお茶子ちゃんと梅雨ちゃん。
自然と“いつものメンバー”が揃う。
「沢山じゃないけど何個か出来たよ!」
芦戸ちゃんはそう言って、早速ご飯を食べ始めた。
「梅雨ちゃん達は?」
私は手を合わせてから、
味噌汁を軽く混ぜて一口飲む。
(はぁ…落ち着く)
「私もいくつか出来たわ。
綺羅ちゃんもびっくりよ」
「え!見たい見たい!今度見せて!」
思わず身を乗り出す。
梅雨ちゃんの技、絶対面白いに決まってる。
「綺羅ちゃんは調子はどう?
爆豪くんに話しかけてたけど…
めっちゃ怒られてなかった?」
お茶子ちゃんがご飯をすくったまま、
少し不安そうに聞いてくる。
「私もやっと必殺技って呼べる
決め技出来てきたよ!
爆豪くんは怒られたけど、
怒られてないから大丈夫!」
「ん?んん??」
お茶子ちゃんが混乱している。
(あれ、分かりにくかった?)
でも特に気にせず、そのまま唐揚げを一口。
(美味しい…!)
「綺羅、緑谷ともなんかやってなかった?
蹴り技褒めてたし」
芦戸ちゃんが大きな唐揚げを
かじりながら聞いてくる。
その瞬間、お茶子ちゃんの肩が
ぴくっと動いたのが見えた。
(あれ?)
少しだけ気になったけど、すぐに答える。
「緑谷くん、腕もうボロボロだから
足技に変えたらしくて、
私もやってたから教えてあげてたの!」
「じゃあ師匠だ!」
「いやいや、師匠は飯田くんでしょー!
私はサブ!」
笑いながら返して、また唐揚げをかじる。
外はカリッとしてて、中はジューシーで、
思わず頬が緩む。
(幸せだなあ)
食事を終えた後は、少しだけソファで休憩。
身体の疲れがじんわり抜けていくのを感じてから、
お風呂へ向かった。
湯船に浸かると、一気に力が抜ける。
(はー…)
今日もいっぱい動いた。
頭の中で技のイメージがまだ
ぐるぐるしているけど、
それもだんだんとぼやけていく。
お風呂を出て、
ピンクベージュのパジャマに着替える。
(これ着ると一気にスイッチ切れるんだよね)
自然と眠気が近づいてくる。
鏡の前に立って、ドライヤーを手に取る。
プラチナブロンズの長い髪を、
丁寧に乾かしていく。
(半乾きはダメ)
昔から言われてきたことを思い出しながら、
眠気と戦う。
全部乾かし終えた頃には、
少しだけぼーっとしていた。
そのまま水を取りにキッチンへ向かうと、
「お」
ちょうど轟くんが出てきたところだった。
「あ、轟くんもお風呂出たところ?」
冷蔵庫を開けながら声をかける。
「ああ」
短く返事をして、少しだけこちらを見る。
その視線が、髪に向いているのに気づいた。
「どうしたの?」
「いや…いつも髪まとめてっから不思議だった」
「さすがに寝る時は下すよ!」
思わず笑ってしまう。
「それはそうだろ。印象の話だ」
「そんな違うかなー中身は変わらないけど…」
指で髪をすっと通す。
さらりと落ちる感触が少し気持ちいい。
「なんか大人しく感じる。
髪まとめてる方がお前らしいな」
そう言い残して、
轟くんはそのまま行ってしまった。
(大人しく…?)
一瞬だけ考えて、
(それ多分“大人っぽい”の方じゃない?)
心の中でツッコむ。
でももういないから、まあいいかと水を一口飲む。
ふと視線を感じて横を見ると、
少し離れたところで峰田くんが
じっとこちらを見ていた。
(あー…)
なんとなく察する。
(また何か考えてそう…)
関わると面倒な気がして、そのままスルー。
静かに部屋へ戻る。
ベッドに倒れ込むと、
さっきまでの疲れが一気に押し寄せた。
(明日も頑張ろ)
ぼんやりと思いながら、
意識はすぐに沈んでいった。
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