必殺技考案と圧縮訓練の日々が過ぎ、
ついに迎えたヒーロー仮免許取得試験当日。
朝から少しだけ空気が違う。
寮を出て、バスに乗って、会場へ向かうその間も、
誰もがどこか落ち着かない。
(ついに来たかあ…)
窓の外をぼんやり眺めながら、
胸の奥が少しだけ高鳴る。
緊張というより――
(楽しみ、かな)
そんなことを思っているうちに、
バスはゆっくりと止まった。
「降りろ。到着だ。
試験会場はここ国立多古場競技場だ」
相澤先生の声で、一気に現実に引き戻される。
外に出ると、視界いっぱいに広がる大きな会場。
(広っ…)
思わず見上げる。
想像していたよりずっとスケールが大きい。
「緊張してきたァ…!」
上鳴くんが胸をさすりながら言う。
「多古場でやるんだ…!」
緑谷くんは周りを見回して、
どこか懐かしそうにしている。
(地元なのかな?)
「試験って何やるんだろう…
ハー 仮免取れっかなァ」
峰田くんが弱気な声を出した瞬間、
すっと背後に影が差した。
「峰田。取れるかじゃない取ってこい」
先生の低く、真っ直ぐな声。
「おっもっモチロンだぜ!!」
さっきまでの不安が嘘みたいに、
峰田くんが勢いよく返事をする。
(切り替え早…)
でも、少しだけ空気が引き締まった気がした。
「この試験に合格し、仮免許を取得出来れば、
お前達は志望者は晴れてヒヨッ子…
セミプロへと孵化できる。頑張ってこい」
淡々としているのに、
ちゃんと背中を押してくれる言葉。
(ヒヨッ子かあ)
少しだけ笑いそうになる。
「っしゃあ!なってやろうぜヒヨッ子によォ!!」
上鳴くんが勢いよく声を上げると、
「いつもの一発決めて行こーぜ!
せーのっ Plus…「「Ultra!!」」
切島くんが円陣を仕切る。
そのまま声を合わせようとした瞬間――
後ろから、さらに大きな声が重なった。
(え?)
振り返ると、見知らぬ大柄の生徒が
一緒に叫んでいた。
しかもめちゃくちゃ全力。
(誰!?)
その後ろには、同じ制服の集団。
帽子に、きっちりした姿勢。
空気が違う。
「勝手に他所様の円陣へ加わるのは良くないよ。
イナサ」
落ち着いた声で注意する男子生徒。
その瞬間、
「ああ しまった!!どうも大変!
失礼!!致しましたァ!!!」
ドンッ、と鈍い音。
地面に頭を打ち付けるほどの勢いで土下座。
(えええ!?)
思わず一歩引きそうになる。
前にいた緑谷くんも、完全に引いている。
「なんだこのテンションだけで
乗り切る感じの人は!?」
上鳴くんのツッコミがそのまま過ぎて、
ちょっとだけ笑いそうになる。
「飯田と切島を足して二乗したような…!」
(分かるかも)
瀬呂くんの例えに、心の中で頷いた。
礼儀正しさと勢いが極端すぎる。
その間にも、周囲のざわめきが大きくなる。
そこで聞こえた東の雄英、西の士傑。
名前は聞いたことがある。
関西地方にある雄英レベルのヒーロー科高校だ。
実際に見ると、空気の締まり方が違う。
(強そう…)
直感でそう思う。
「一度言って見たかったっス!!
プラスウルトラ!!自分雄英高校大好きっス!!
雄英の皆さんと競えるなんて光栄の極みっス!
よろしくお願いします!!」
さっきの人――イナサくんが顔を上げる。
額から血が出ているのに、全く気にしていない。
「あ 血」
隣の女子が冷静に言うのも、なんだかシュールで。
(自由すぎる…)
「行くぞ」
まとめ役っぽい男子がそう言って、
士傑の生徒たちはそのまま去っていく。
残された空気が、少しだけざわつく。
「夜嵐イナサ」
相澤先生がぽつりと呟く。
「先生、知ってる人ですか?」
切島くんがすぐに聞く。
「ありゃあ…強いぞ。夜嵐。
昨年度…つまりお前らの年の推薦入試は
トップの成績で合格したにも拘わらず、
なぜか入学を辞退した男だ」
(え…)
思わず息を飲む。
推薦トップ。
それって――
自然と、轟くんの方を見る。
轟くんも推薦組。
その上でトップ。
(それってかなり…)
緑谷くんも同じことを考えたのか、
驚いた顔をしている。
「雄英大好きとか言ってたわりに、
入学は蹴るってよくわかんねえな」
「ねー…変なの」
瀬呂くんと三奈ちゃんの言葉に、
少しだけ肩の力が抜ける。
でも、
「変だが本物だ。マークしとけ」
相澤先生の一言で、空気がまた引き締まる。
(うん)
軽く頷く。
強いなら、ちゃんと見ないと。
その時、
すっと背後に気配を感じた。
(――誰か来た?)
振り返ろうとした、その瞬間。
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