「イレイザー!?イレイザーじゃないか!!」
弾けるような声と一緒に、
ひときわ目立つ存在がこちらに歩み寄ってきた。
赤いバンダナ。はっきりとした表情。
立っているだけで場の空気が明るくなるような人。
(元気な人だなあ)
「テレビや体育祭で姿は見てたけど、
こうして直で会うのは久し振りだな!!」
勢いのある口調に、思わず目が引かれる。
その横で、緑谷くんがぽつりと呟いた。
「あの人は…」
思い出そうとしているのが分かる。
「結婚しようぜ」
「しない」
(早っ)
間髪入れずに返される即答に、思わず瞬きをする。
「わあ!!」
芦戸ちゃんは楽しそうに声を上げていた。
「しないのかよ!!ウケる!」
女性は豪快に笑い出す。
「相変わらず絡み辛いな ジョーク」
相澤先生が呆れたように言う。
(ジョーク…あ)
その名前で、緑谷くんのスイッチが入った。
「スマイルヒーロー Ms’ジョーク!個性は爆笑!
近くの人を強制的に笑わせて
思考・行動共に鈍らせるんだ!
彼女のヴィラン退治は狂気に満ちてるよ!」
(相変わらず詳しいなあ)
「HAHAHA!私と結婚したら笑いの絶えない
幸せな家庭が築けるんだぞ!」
「その家庭 幸せじゃないだろ。」
「ブハ!!」
やり取りが完全にコントで、思わず口元が緩む。
その様子を見て、梅雨ちゃんがぽつりと呟いた。
「仲が良いんですね」
「昔事務所が近くでな!助け助けられを
繰り返すうちに相思相愛の仲へと」
「なってない」
(全部即否定するなあ)
でもそのやり取りも、
どこか慣れている感じがする。
「なんだ、お前のとこもか」
話題が変わる。
“お前のとこ”という言い方で、すぐに分かる。
(あ、他校の先生か)
「いじりがいがあるんだよな イレイザーは。
そうそう!おいで皆んな!雄英だよ!」
その声に応じて、後ろからぞろぞろと
生徒たちが現れる。
一気に空気が賑やかになった。
「おお!本物じゃないか!!」
「凄いよ凄いよ!TVで見た人ばっかり!」
(ちょっと照れるなあ)
向けられる視線が、
どこか期待混じりでくすぐったい。
「1年で仮免?へえー随分ハイペースなんだね。
まァ 色々あったからねえ、さすがやる事が違うよ」
(……色々、ね)
一瞬だけ頭に浮かぶけど、すぐに流す。
「傑物学園2年2組!私の受け持ち、よろしくな」
自信たっぷりの紹介に、
相手も負けてない雰囲気が伝わってくる。
その中から、一人の男子が前に出てきた。
「俺は真堂!今年の雄英は
トラブル続きで大変だったね!」
「えっ、あ」
いきなり緑谷くんの両手を握る。
(距離近っ)
「しかし君達はこうして
ヒーローを志し続けているんだね。
素晴らしいよ!不屈の心こそ、
これからのヒーローが持つべき素養だと思う!!」
言葉が真っ直ぐお手本のような褒め言葉を並べて
そのまま流れるように、耳郎ちゃん、
尾白くん、上鳴くんへと握手していく。
最後にはウインクまで。
(すごいなこの人…)
「どストレートに爽やかイケメンだ…」
瀬呂くんの言葉に、ちょっとだけ納得する。
そして真堂は、そのまま爆豪くんの前へ。
「中でも神野事件を中心で経験した爆豪くん。
君は特別に強い心を持っている。
今日は君達の胸を借りるつもりで
頑張らせてもらうよ。」
差し出される手。
でも、
「フかしてんじゃねえ。
台詞と面が合ってねえんだよ」
爆豪くんはそれを振り払った。
(あ、やっぱり)
「こらおめー失礼だろ!すいません無礼で…」
切島くんがすぐにフォローに入る。
「良いんだよ!心が強い証拠さ!」
(ポジティブ強いなあ…)
全然崩れない。
次に動いたのは、傑物の女子生徒。
「ねぇ轟くんサインちょうだーい。
体育祭かっこよかったんだあ」
(サイン…?)
「やめなよ ミーハーだなァ」
同級生に止められてるけど、
本人は気にしてなさそう。
轟くんは、
「はあ…」
とだけ返している。
(困ってる)
その横で、
「オイラのサインもあげますよ」
(いらないと思うなあ)
心の中でそっとツッコむ。
そして、
「君は星宮くん!」
今度はこっちに来た。
「君も爆豪くんとの体育祭の熱いバトル!
素晴らしかったよ!心が強い証拠だ!
輝いていたよ!」
(おお、来た)
右手を取られる。
両手で包まれる形の握手。
(距離近いなあ)
でも、こういうのには慣れている。
私は自然と笑顔を作った。
「えー?ありがとうございますー!
真堂さん達の活躍も楽しみにしてますね!」
そのまま左手を添える。
視線も外さない。
テンションも合わせる。
(こういうのは、引いたら負け)
一歩も引かない。
キラキラした空気がぶつかる。
周りから、
「なんか眩しい…」
という声が聞こえた気がした。
「なんか…外部と接すると改めて思うけど、」
「やっぱけっこうな有名人なんだな 雄英生って」
(そうなんだよね)
改めて実感する。
その横で、
「……?ひょっとして言ってないの?イレイザー」
Ms’ジョークが不思議そうに言う。
でも相澤先生は何も答えない。
(あ、これ言ってないやつだ)
なんとなく察する。
たぶん理由もある。
(まあ、後で分かるか)
深くは考えず、前を見る。
会場の空気が変わっていく。
ざわめきが、少しずつ緊張に変わる。
(いよいよだ)
胸の奥が少しだけ高鳴る。
不安もある。
でもそれ以上に――
(楽しみ)
そう思いながら、一歩前へ進んだ。
ヒーロー仮免許取得試験。
その幕が、今、上がろうとしていた。
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