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コスチュームに着替えて説明会場に向かうと、
まず圧倒されたのは“人の多さ”だった。

(え、こんなに…?)

視界いっぱいに広がるヒーロー志望者たち。

肩が触れそうな距離で
ぎゅうぎゅうに詰まっていて、
少し動くだけでも周りにぶつかりそうになる。

ざわざわとした空気の中で、ふと前方を見ると――

(……ゆるい)

説明役の人が、相澤先生以上に気だるそうだった。

「えー…では アレ 仮免のヤツを…やります。
あー…僕 ヒーロー公安委員会の目良です。
好きな睡眠はノンレム睡眠 よろしく。
仕事が忙しくてろくに寝れない…!眠たい!
そんな信条の下 ご説明させていただきます。
ずばりこの場にいる受験者1540人一斉に
勝ち抜けの演習を行ってもらいます」

(情報量多いなあ…)

本音と仕事がごちゃ混ぜの説明に、
思わず少しだけ笑いそうになる。

でも内容は重い。

“勝ち抜け”。

その一言で周りの空気が一気に変わった。

ざわめきが広がる。

「現代はヒーロー飽和社会と言われ、
ステイン逮捕以降 ヒーローの在り方に
疑問を呈する向きも少なくありません」

続く言葉は、少しだけ重たい。

(ヒーローの在り方、か)

でもそれ以上に現実的だったのは――

「よって試されるはスピード!
条件達成者 先着100名を通過とします。」

(……100人!?)

1540人の中から、たった100人。

思わず目を見開く。

周りでも声が上がるけど、それもすぐに流される。

(シビアだなあ)

でも同時に、胸の奥が少しだけ熱くなる。

(面白そう)

難しいほど、やりがいがある。

続いて説明されるルールも
シンプルだけど容赦がない。

ターゲット、ボール、
三つで脱落、二人倒して通過。

(つまり――)

攻めながら守る。

しかもスピード勝負。

(忙しいなこれ)

「各々 苦手な地形 好きな地形あると思います。
自分を活かして頑張ってください。」

その言葉の直後、

ゴゴゴ、と地面が揺れる。

(え…?)

壁が開いて、景色が一変した。

さっきまでの密集空間から、広大なフィールドへ。

瓦礫、段差、開けた場所、起伏。

まるでいくつもの地形を
無理やり繋げたみたいな空間。

(すご…)

圧倒される。

同時に、視界の中で人が一斉に動き出した。

スタート前から、もう場所取りが始まっている。

(早…!)

「みんなで固まって対策を練ろう!」

 緑谷くんの声に、少しだけ安心しかけた瞬間――

「フザけろ。遠足じゃねえんだよ」

(出た)

爆豪くんが一人で動き出す。

「バッカ!待て待て!!」

切島くんがすぐに追いかけるのを見て、

(切島くん完全に保護者だなぁ)

少しだけ笑いそうになる。

「俺も。大所帯じゃ却って力が発揮出来ねえ」

轟くんも離れていく。

まとまるかと思った空気が、あっさり崩れる。

(まあ、そうなるよね)

この試験で“まとまる”方が逆に不自然だ。

「単独で動くのは良くないと思うんだけど…」

緑谷くんはそう言いながら、
A組の中でまとまろうとする。

その理由もすぐに納得できた。

(手の内、バレてるし)

体育祭で全部見られてる。

対策されてる前提で動かないといけない。

(狙われるよね、普通に)

士傑や傑物を思い出す。

(油断してたら終わるな)

そう思った瞬間――

《スタート!!!》

合図と同時に、空気が一変した。

ざわめきが“殺気”に変わる。

そして――

(来た)

A組の周りに、一斉に他校生が現れる。

狙いは明確。

“雄英”。

「いたぞ雄英!」

(やっぱりね)

予想通りすぎて、逆に冷静になる。

最初に動いたのは傑物。

地面からボールが飛び出してくる。

(下!?)

でも、

ドンッ――

耳郎ちゃんの音が地面を抉る。

次の瞬間、芦戸ちゃんがガード。

常闇くんがすぐに反撃。

(早い)

連携が自然に回ってる。

私もすぐに動く。

「ネビュラ・シールド!」

光粒子を展開。

層を重ねて、盾の形にする。

狙われている方向に合わせて角度を変える。

(防げる)

体育祭の頃とは全然違う。

全員、ちゃんと“戦える形”になってる。

でも――

ズンッ、と地面が揺れた。

(これ…!)

真堂さん。

地面が割れる。

視界が一気に崩れる。

(分断か)

直感で理解する。

その瞬間、私は上へ跳んだ。

「シューティングスター!」

足場を作って、一気に上空へ。

地割れを避ける。

でも――

砂煙。

視界が一気に遮られる。

(皆どこ!?)

一瞬でA組の位置が分からなくなる。

(完全に分けられた)

「いたぞ雄英!」

別の声。

視線を上げると、すでに他校生が
こちらに向かってきている。

(早いなあ…!)

でも、怖くはない。

むしろ――

(いいじゃん)

一人。

逃げ場なし。

でも、その分自由。

(やるしかないね)

光粒子を指先に集める。

圧縮。

形を整える。

(試すチャンス)

ノヴァ・フレア。

(ここで使わなきゃ意味ない)

息を整えて、私は一歩踏み出した。







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