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「次、ソフトボール投げ」

相澤先生の声がグラウンドに響いた。

生徒たちが順番に前へ出ていく。

私は渡されたボールを手の中で軽く転がした。

ずしりとした重さ。

ただのソフトボール。

でもここでは違う。

(最大限、か)

さっきの爆豪くんの投球を思い出す。

爆音。

空を突き抜けるボール。

705m。

あの記録は、まだ頭の中に残っていた。

でも、不思議と焦りはない。

私は円の中へ入る。

地面を踏みしめる。

軽く腕を引く。

その瞬間、指先に光が集まった。

細かな粒子。

星屑のような光。

スターライト。

私は腕を振り抜いた。

ボールが手から離れる。

その瞬間――

光が弾けた。

白い軌跡が空を切り裂く。

流星の尾のように輝きながら、
ボールは一直線に飛んでいく。

グラウンドの上空を高く、高く。

「おお……」

誰かの小さな声が聞こえた。

私はそのまま空を見上げる。

ボールは小さな点になり、やがて落下していった。

記録装置の数字が更新される。

周囲に小さなざわめきが広がる。

私は軽く息を吐いた。

(よし)

スターライトは問題なく使える。

雄英でも。

円の外へ出ると、次の順番の生徒とすれ違った。

緑色の髪の男の子。

入試のとき、巨大ロボットに飛び込んだあの子だ。

でも――

その表情は、酷く深刻だった。

(……あれ)

私は少し気になって振り返る。

緑色の髪の男の子は、円の中で立ち尽くしていた。

手にはボール。

けれど動かない。

少し離れた場所で、
クラスメイトたちも様子を見ている。

「緑谷くんはこのままだとマズイぞ…」

飯田くんが小さくこぼした。

「はあ?当たり前だろ!無個性のザコだぞ!」

爆豪くんが緑色の髪の男の子を指差しながら言う。

「無個性!?
入試時に彼が何を成したか知らんのか!?」

飯田くんが驚いた声を上げた。

「ああ?」

爆豪くんは、何言ってんだと言ったような
声を出す。

私はその会話を聞きながら、緑谷くんを見る。

(知ってる)

同じ入試会場にいた。

巨大ロボット。

あの超パワー。

一撃で機体を凹ませるほどの力。

でも――

(あの時、全力だった)

そして。

そのせいで大怪我をしていた。

本当なら。

力を調整すれば、どの種目でもいい記録が出せるはず。

なのに。

彼は動かない。

(……もしかして)

私はふと考える。

(個性の調整、まだ出来てない…?)

その疑問に辿り着いた頃だった。

緑谷くんが腕を振った。

ボールが飛ぶ。

けれど――

ぽとり。

一般記録よりも弱い一投だった。

その瞬間。

「個性を消した」

相澤先生の声が響いた。

振り返ると、相澤先生が髪を上げている。

眠そうだった目が、鋭く開かれていた。

「つくづくあの入試は…合理性に欠くよ。
お前のような奴も入学出来てしまう」

そう言いながら歩み寄ってくる。

緑谷くんは目を見開いた。

「消した…!あのゴーグル…そうか……!」

突然、緑谷くんが声を上げる。

「視ただけで人の個性を抹消する個性!
抹消ヒーロー イレイザー・ヘッド!!!」

ざわ、と空気が揺れた。

「イレイザー?俺 知らない」

「無理もないよ アングラ系ヒーローだもん」

クラスメイトたちが小声で話している。

私は小さく頷く。

(知ってる)

でも、テレビにはほとんど出ない。

そういうヒーローだ。

「指導を受けていたようだが…」

「除籍宣告だろ」

爆豪くんの声が冷たく響いた。

(爆豪くん、緑谷くん好きじゃないんだなー)

私はぼんやりそう思った。

その時だった。

緑谷くんが、もう一度ボールを握る。

腕を引く。

振り抜く。

次の瞬間――

ボールが空を裂いた。

さっきとは比べものにならない速度。

爆豪くんの投球と同じくらいの勢いで、
遥か彼方へ飛んでいく。

グラウンドが一瞬静まり返る。

でも。

緑谷くんの指は、赤紫に腫れ上がっていた。

「やっとヒーローらしい記録出たよー!」

麗日さんが飛び跳ねて喜ぶ。

「指が腫れ上がっているぞ。
入試の件といい…おかしな個性だ……」

飯田くんがまじまじと見ている。

その隣で。

爆豪くんは――

顎が外れそうなほど驚いていた。

「どういうことだ…」

そう言いながら。

BOM!

BOM!!

爆豪くんの手のひらから、
乾いた爆発音が連続して鳴る。

「ワケを言え!デクてめー!!」

怒号と同時に、爆豪くんが地面を蹴った。

一直線に緑谷くんへ向かう。

速い。

迷いがない。

――危ない。

そう思った瞬間。

空を裂くように布が走った。

爆豪くんの身体に何重にも巻きつき、
動きがぴたりと止まる。

相澤先生は、いつの間にか距離を詰めていた。

手にした捕縛武器が、
獲物を逃がさないよう絡みついている。

「何だこの布…硬え…!」

爆豪くんがもがく。

相澤先生は気だるそうに答えた。

「繊維に特殊合金の鋼線を
編み込んだ捕縛武器だ。
ったく…何度も個性使わすなよ…
俺はドライアイなんだ!」

動きを止めたのは相澤先生の武器だった。

相澤先生の個性は抹消。

見た人間の個性を一時的に消すことができる。

しかし、ドライアイだから長期戦には向かない。

「「「「(個性凄いのに勿体無い!!)」」」」

生徒達の心の声が、場の空気ににじんでいた。









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