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指揮官の指示に従い、
流れに乗るようにして控え室へと足を運ぶ。
さっきまでの喧騒が嘘みたいに、
廊下は妙に静かで、
少しだけ現実に引き戻される感覚があった。

中へ入ると、
まず体につけていたポインターを外す。
軽くなった感覚に、試験が一段落したことを
実感して、そっとカゴへ戻した。

視線を上げると、広めの室内の一角に、
見慣れた姿が一つ。

轟くんが、一人で静かに座っていた。

「轟くん1人?早いの流石だね!」

自然と声が弾む。さっきまでの緊張が抜けて、
いつもの調子に戻っているのが自分でも分かる。

「お前も十分早いだろ」

淡々とした返答。でも、その言葉は素直な事実で、
少しだけくすぐったくなる。

「えへへ、まあね」

軽く笑いながら室内を見渡すと、大きなテーブルの
上に軽食が並んでいるのが目に入る。
サンドイッチに飲み物、ちょっとしたお菓子まで
揃っていて、いかにも“用意されている”感じ。

(ヒーロー公安委員会かな…)

「これ自由に食べていい感じ?凄いね!」

遠慮する理由も特に見当たらなくて、
飲み物とたまごサンドを手に取る。
軽くお腹も空いていたし、
何よりこの緊張の後だと、
妙に美味しそうに見える。

そのまま轟くんの隣に腰を下ろすと、
パンの柔らかさとほんのりした甘みが
口に広がった。

(……美味しい)

ほっと息が抜ける。

そうしているうちに、控え室の扉が開いて、
次々と通過者が入ってくる。
その中に見慣れた2人の姿を見つけて、
ぱっと顔が明るくなる。

「2人ともお疲れさまー!」

サンドイッチを片手に軽く振りながら声をかける。

「お二人ともさすが早いですわね」

百ちゃんが感心したように微笑み、

「一緒だったん?」

と響香ちゃんが首を傾げる。

「私も今来たところで轟くんが先にいたよ!」

「さすがー」と響香ちゃんが轟に言っていた。

そのあと直ぐに障子くんと梅雨ちゃんも
無事に戻ってきた。

自然と、少しずつ空気が柔らかくなっていく。
戦闘の緊張から解放された者同士の、
安心したような空気。

「他の皆んなは大丈夫かな?」

ふと口に出た不安に、

「信じるしかありませんわ…」

と百ちゃんも少し眉を寄せる。

「合流も試みたんだけど、
1500人もいると音が拾いきれなくてさ…」

響香ちゃんの言葉に、確かに、と頷く。
あの人数の中で全員を見つけるなんて、
ほとんど奇跡みたいなものだ。

その時、また扉が勢いよく開いた。

「だからテメェが飛び出したからだろうが!」

「ああ!悪りい!サンキューな!」

「つうか俺を褒めろよ!大活躍よ!?」

聞き慣れた声に、思わず笑ってしまいそうになる。
入ってきたのは爆豪くんと切島くんと上鳴くん。

相変わらずのやり取りに、緊張がさらにほぐれる。

「爆豪くん切島くん上鳴くんお疲れさまー!」

明るく声をかけると、

「ああ!?俺より早えからって
調子乗ってんじゃねえ!」

間髪入れずに怒鳴られる。

「労っただけなのに!」

思わず笑いながら返すと、
いつも通りのやり取りに安心感すらある。

「おう!5人もお疲れさん!他の奴らはまだか!」

「お疲れー!いやー雄英潰しとかビビったよな!」

切島くんがこっちへ歩み寄ってきて、周りを見回し、
上鳴くんは、胸を撫で下ろしていた。

それからしばらくして、緑谷くん、瀬呂くん、
お茶子ちゃんと次々に控え室へ入ってくる。

(よかった……)

胸の奥がじんわり温かくなる。
でも、まだ全員じゃない。

アナウンスが響くたびに、
残り人数が削られていく。

《ハイ、えー、ここで一気に8名通過来ましたー!
残席は10名です》

一気に空気が張り詰める。

「A組は…」

「あと8人のまま…これもう無理かなあ」

百ちゃんと響香ちゃんの言葉に、
胸がきゅっと締まる。

(全員で通過したいな…皆んな頑張れ!)

両手をぎゅっと合わせて、
無意識に祈るように握りしめる。

その瞬間――

《2名通過!!残りは8名!!7名!6名!5名!
続々と!この最終盤で一丸となった雄英が!
コンボを決めて通っていく!4名!3名!
おおっとここで士傑高校から通過者残り!2名!
そして0名!100人!!今埋まり!!終了!です!》

一気に、空気が爆発したみたいに弾ける。

視線が自然とモニターへ向かう。

(……え)

一瞬、理解が追いつかない。

でも――

全員、いる。

「やった…」

思わずこぼれた声は、とても小さかったけど、
確かな実感があった。

「おォオオ〜〜〜…っしゃああああ!!!」

切島くんの声が部屋中に響く。

「スゲェ!!こんなんスゲェよ!」

上鳴くんも興奮している。

「雄英全員一次通っちゃったあ!!!」

お茶子ちゃんが飛び跳ねて、
梅雨ちゃんも「ケッケロ〜!」と一緒に弾む。

その光景が、すごく嬉しくて。

「皆んなギリギリにチームワーク凄かったね!」

自然と拍手しながら、隣にいる轟くんを見る。

「ああ」

短い返事。でも、その表情はどこか柔らかくて、
同じ気持ちなんだって分かる。

胸の奥が、じんわりと熱い。

《これより残念ながら脱落してしまった皆さんの
撤収と次の試験の準備を進めます。
通過者は控え室で暫しの休憩をしていて下さい》

アナウンスが響く。

(次の試験か…)

まだ終わりじゃない。

むしろ、ここからが本番。

少しだけ残っている疲労と、
でもそれ以上に湧き上がる期待に、
胸が軽く高鳴る。

どんな試験でも、ちゃんと乗り越えたい。

そう思いながら、次の展開を楽しみに待っていた。







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