さっきまでの緊張が嘘みたいに、
控え室は一気に賑やかさを取り戻していた。
笑い声や安堵の声があちこちで弾けて、
空気が柔らかくなっていく。
その中に、不意に割り込むように響いたのは
目良のアナウンスだった。
《えー、100人の皆さん。これ、ご覧下さい》
「ん?」
軽く顔を上げると、壁に設置されたモニターに
視線が集まっていく。
映し出されたのは、
ついさっきまで自分たちがいた試験フィールド。
さっきまでの地形や建物がそのまま映っていて、
まだ戦闘の余韻が残っているように見える。
次の瞬間――
爆発。
「「「「何故!!?」」」」
思わず声が揃う。
視界いっぱいに広がる爆炎と崩壊の映像に、
思考が一瞬追いつかない。
建物が崩れ、瓦礫が散乱し、
地面がえぐれたような跡が残る。
ほんの数秒前まで“試験会場”だった場所が、
まるで本物の災害現場のように変わっていた。
(……これ、本気だ)
さっきまでの対人戦とは、明らかに空気が違う。
《次の試験でラストになります!
皆さんにはこれからこの被災現場で、
バイスタンダーとして、
救助演習を行ってもらいます》
「救助、演習…」
ぽつりと呟く。戦うための準備はしてきた。
でも、“助ける”ための現場は、
また別の緊張がある。
「「パイスライダー?」」
「バイスタンダー」
聞き間違えた上鳴くんと峰田くんに、
響香ちゃんが即座にツッコミを入れる。
「現場に居合わせた人のことだよ。
授業でやったでしょ」
透ちゃんが呆れたように言って、
「一般市民を指す意味でも使われたりしますが…」
と百ちゃんが補足しながら、
モニターへと視線を戻す。
その間にも、目良の説明は続いていく。
《ここでは、一般市民としてではなく、
仮免許を取得した者として…
どれだけ適切な救助を行えるか試させて頂きます》
(“適切な”…か)
ただ助ければいいわけじゃない。
判断、優先順位、連携
――いろんなものが試される。
「む…人がいる」
障子くんの言葉に、思わず目を凝らす。
崩壊したフィールドの中に、確かに人影が見える。
老人、子供、大人。
様々な姿の人たちが瓦礫の中に取り残されている。
(あれ、全部…演習用の人たち?)
《“ヘルプ・アス・カンパニー”それぞれの頭文字を
略して”HUC=フック”とも呼ばれます。
ヒーロー人気のこの現代に即した
仕事ともいえよう。そのフックが、
傷病者に扮しフィールド全域にスタンバイし、
受験者は彼らの救出を行うこと。
尚、今回は救出活動をポイントで採点されていき、
演習終了時に基準値を越えていれば、
合格となります》
説明を聞きながら、自然と呼吸が少し深くなる。
(採点式なのは分かるけど…)
「合格の基準は言わないんだ」
緑谷くんの呟きに、小さく頷く。
確かに、目標が見えない分、やり方が問われる。
「わからん以上は、訓練通りやるだけだ」
飯田くんが背筋を伸ばして言う。
その姿勢が、少しだけ安心感をくれる。
(うん、そうだよね)
迷ってる時間はない。やることはシンプルだ。
――助ける。
そうして、与えられた休憩時間はわずか10分。
それぞれが思い思いに過ごし始める。
私は三奈ちゃんと透ちゃんのところへ向かって、
さっきの試験の話を聞いていた。
「えー!青山くんのレーザーで合流したの!?」
思わず声が弾む。上空に光が走って、
それを目印に集まるなんて、
すごく“ヒーローっぽい”。
「そうそう!マジでギリだったけどね!」
三奈ちゃんが笑いながら話してくれて、
その様子が目に浮かぶようで楽しい。
(みんな、それぞれちゃんと戦ってたんだなあ…)
そんなふうに、じんわりと実感が湧いてくる。
その横で、瀬呂くんが上鳴くんと峰田くんに
近づいていくのが見えた。
「なァなァ、すげー事あってさァ聞いてくれよ」
なんだか妙にテンションが高い。
「Rは?」
「18」
「聞こう」
(どういう判断基準だ)
思わず内心でツッコミを入れてしまう。
真面目な話じゃないことだけは分かる。
「士傑のボディスーツいんじゃん?あの女の人」
「いる」
上鳴くんが即答しているあたり、
たぶん同じ方向の話だ。
「良い…という話なら甘い。
オイラはもうさっきっからずっと彼女を視…」
途中で瀬呂くんが被せるように声を上げる。
「素っ裸のまま緑谷と岩陰にいたんだよ!!」
「「緑谷ァ!!!」」
一瞬で空気が変わる。
(えっ)
反応の速さに思わず目を丸くする間もなく、
二人が緑谷くんへと飛びかかる。
(然も素っ裸って…)
「何してたんだてめェはァ!?
俺たちが大変な時にてめェはァ!?」
「試験中だぞ、ナメてんのか人生を!!」
「わ、痛いやめて、何!?」
一方的な勢いに、
緑谷くんが完全に巻き込まれている。
「とぼけんじゃねぇ。あの人と!
おまえは!何をして」
その時、ふと視線の先に――
じぃっ、とこちらを見ている
士傑高校のボディスーツの女の人が目に入った。
目が合うと、にこっと微笑んで、
軽く手を振ってくる。
(あ、普通にいい人そう)
「良い仲に進展した後、男女がコッソリ交わす
挨拶のヤツをやってんじゃねーか!!」
上鳴くんの目が真っ赤に充血している。
「ち、違うよ!そういうんじゃないってば!
全然そんなん関係ないし”個性”の関係だよ!
ていうか、わけわかんなくて
めっちゃ怖かったんだよ!」
必死に弁解する緑谷くんと、
それを全然聞いていない二人。
(……平和だなあ)
さっきまでの試験の緊張が嘘みたいに、
くだらないやり取りに少しだけ肩の力が抜ける。
その様子を見て、
女子のみんなも呆れたようにため息をついていた。
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