A組のみんなと視線を合わせて、小さく頷く。
(まずは近いところから…!)
広がる被災エリアの中で、ひとまず一番近い
都市部ゾーンへ向かうことに決める。
瓦礫が散乱し、煙がうっすらと立ち込める
その場所は、さっきモニター越しに見たよりも
ずっと“現実感”があった。
足を踏み入れた瞬間、空気の重さが変わる。
(……すごい)
ただの演習のはずなのに、
胸の奥が少しだけざわつく。
その中で、すぐに耳に飛び込んできたのは――
泣き声。
「ひっひっ、ああああんたすげでえぇ!!
ひっあっち…!おじいちゃんが!!
ひっ潰されてぇ!!」
見ると、小さな子どもが一人、
地面に座り込んで泣きじゃくっている。
「ええ!大変だ!!どっち!?」
緑谷くんがすぐに駆け寄って、
焦るように問いかける。
(早い…でも――)
その瞬間、
「なァんだよそれぇ減点だよォオ!!」
空気が、がらりと変わった。
さっきまで泣いていたはずの子どもが、
急に鋭い声で怒鳴る。
(えっ!?)
「まず、私が歩行可能かどうか確認しろよ、
呼吸の数もおかしいだろォ!?
頭部の出血もかなりの量だぞォ!?仮免持ちなら、
被害者の状態は瞬時に判断して動くぞ!
こればかりは訓練の数がものを言う!!
視野広くぅ、周りを見ろォ!!」
一気にまくし立てられて、思わず息を呑む。
(……正論、だ)
言っていることは全部正しい。
でも、勢いがすごすぎて圧倒される。
指摘を受けて、ようやく周囲に意識を向ける。
そこでは――
既に動き出している受験者たちがいた。
暫定区域を指定する人、
ヘリの離発着場を確保する人、
救護所を設置し、負傷者を振り分けていく人。
ただ“助ける”だけじゃない。
現場そのものを動かしている。
(ヒーローって…ここまでやるんだ)
救出や応急処置だけじゃなく、
消防や警察が来るまでの“橋渡し”をする存在。
その重さを、改めて実感する。
(減点だけじゃなくて、
ちゃんと教えてくれるんだ…)
怒鳴られているはずなのに、
不思議とありがたいと思ってしまう。
そしてその子は、
さらに緑谷くんへ視線を向けて――
「何よりあんた…」
一瞬だけ間を置いて、言葉を続けた。
「私たちは、怖くて痛くて不安で
たまらないんだぜ?
掛ける第一斉が、ええ!大変だ!!
じゃあ、ダメだろう」
(……あ)
胸の奥に、すとんと落ちる。
そうだ。
ただ状況を把握するだけじゃない。
安心させることも、ヒーローの役目。
(オールマイトみたいに…)
“もう大丈夫だ”って思わせる存在。
緑谷くんも、それを理解したのか、
パンッと自分の頬を叩いて気持ちを切り替える。
そして――
「大っ丈夫!!」
力強く、迷いのない声。
そのまま、にこっと笑う。
その笑顔に、空気が少しだけ変わる。
子どもは、また最初のように泣き出した。
ここから試験が始まった
かのような切り替えだった。
「大丈夫さ、必ず救けるよ。
僕はこの子を救護所まで運ぶから、
皆先行ってて!!」
「うん!ここは手分けして救助にあたろう!」
自然と声が出る。
全員で一箇所に固まるより、分散した方がいい。
「チームアップね!」
三奈ちゃんもすぐに理解してくれる。
(さすが)
でも、その時にはもう――
爆豪くん、切島くん、上鳴くんの姿はなかった。
(早い…)
迷わず別方向へ動いている。
(それぞれのやり方で動いてるんだ)
一瞬だけ視線を送ってから、
すぐに意識を切り替える。
私は、三奈ちゃん、常闇くん、
尾白くん、轟くん、梅雨ちゃんと一緒に、
水辺・岩場付近を担当することになった。
「水難救助は私の得意分野だわ」
そう言って、梅雨ちゃんは迷いなく
水の中へ飛び込んでいく。
(頼もしい…!)
「私も上空から見るね!」
声をかけて、シューティングスターで
身体を軽く浮かせる。
視界が一気に広がる。
水面の揺れ、岩場の影、瓦礫の位置――
(いた)
すぐに、岩場の陰に倒れている人影を見つける。
「大丈夫ですか!?」
声を張って、そこへ降り立つ。
「うう…助けてくれ…!」
苦しそうな声。
呼吸はある。でも、体勢が不自然。
「今助けます!」
崩れかけている岩場を確認して、
すぐにネビュラ・シールドを展開。
落石を防ぐように空間を固定する。
そのまま、そっと体を起こす。
「歩けそうですか?」
「い、いや足が折れて…」
(やっぱり)
無理に動かすのは危険。
「ではこれに乗って下さい!」
光粒子を集めて、浮き輪のような形状に形成する。
柔らかく、でもしっかり支える強度。
そこへ男性を乗せて、さらに折れている足を
光粒子で固定する。
(これで動かしても大丈夫)
「三奈ちゃん!この人お願い!
左足折れてるから気を付けて!」
声を飛ばしながら、ゆっくりと運ぶ。
三奈ちゃんたちの方へと送り届けてから、
すぐに次へ意識を向ける。
(次、次を探さないと…)
足を踏み出した、その時――
ドンッ、と大きな衝撃音が響いた。
振り向くと、救護所近くの壁が爆発している。
「何だぁ!?」
「うわァ!?」
受験生たちの叫びが重なる。
煙の中から現れたのは――
異様な存在感。
プロヒーローNo.10、ギャングオルカ。
そのサイドキックたち。
(……ヴィラン役)
一瞬で理解する。
《ヴィランが姿を現し、追撃を開始!
現場のヒーロー候補生はヴィランを制圧しつつ、
救助を続行して下さい》
冷静なアナウンスが、現実を突きつける。
(救助しながら…戦う?)
さっきまでとは、難易度が違う。
「どう動く!?ヒーロー!」
ギャングオルカの声が響く。
その圧に、一瞬だけ足が止まる。
(……どうする)
助けるか、止めるか。
両方、必要。
胸の奥で、思考が一気に回り始める。
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