「ヴィランだって…!?
見ろ!救護所のすぐ前!!」
尾白くんの声に、反射的に視線を向ける。
確かに――いる。
救護所のすぐ前、負傷者が集められている場所の
すぐ近くで、明確に“攻撃”の動きをしている影。
(近すぎる…!)
「こんなとこに出すなんて、イジワル!」
三奈ちゃんが思わず声を上げる。
その気持ちはすごく分かる。
ここは“守る場所”のはずなのに。
水面が揺れて、そこから梅雨ちゃんが顔を出した。
「ここの救助もまだだけど、
あっちを見て見ぬフリは出来ないわね…」
冷静な判断。
でも、その言葉の中には焦りも混じっている。
(どっちも、必要)
助けることと、止めること。
どっちかじゃない。どっちもやらないといけない。
「ヴィラン確保と救護所の避難も行こう!」
自分でも少し驚くくらい、すぐに言葉が出た。
「主導のギャングオルカを相手するのは轟、
我々は救護所の避難をしながら援護に回ろう」
常闇くんが即座に方針をまとめる。
「そうだね!まずは人命救助が優先だ!」
尾白くんも迷いなく頷く。
(役割分担、できてる)
一瞬でチームが形になる。
そのまま、綺羅と轟くん、常闇くん、
尾白くんで救護所へ向かう。
「皆を避難させろ!奥へ!
ヴィランからできるだけ距離をおけ!」
現場で指示を出していたのは、
傑物高校の真堂くん。
(すごい、もう指揮取ってる)
「インターバル一秒程の震度でたたみかける!」
次の瞬間、地面が揺れる。
規則的に、叩きつけるような振動。
複数のサイドキックたちの足元が崩れ、
動きが止まる。
でも――
ギャングオルカは動じない。
そのまま口を開き、低く響く音を放つ。
音、というより圧。
身体に直接響くような衝撃に、
真堂くんの動きが一気に鈍る。
「この実力差で殿一人…なめられたものだ…!」
その言葉と同時に、轟くんの氷結が走る。
地面を這うように伸びていく氷が、
一直線にギャングオルカへ向かう。
(でも…)
一人で受けるには、相手が強すぎる。
その間に、私たちは救護所へ到着した。
そこには――
「緑谷!避難か!?手伝う!」
尾白くんの声。
振り向いた先に、さっきの子どもを
送り届けていた緑谷くんがいた。
「みんな!どこにいたの!」
「向こうの水辺付近!」
「皆、街の方に向かったから、
手薄なところにいたんだが、
ヴィランがここらに大挙するのを見て、
応援に来た!蛙吹らは向こうで救助続行してる」
常闇くんが簡潔に状況を伝える。
(ちゃんと分散できてる)
でも、まだ終わってない。
「ふぅきィィイイ飛べぇええっつ!!」
突如、強烈な風が吹き荒れる。
轟くんの氷ごと、サイドキックたちを
まとめて吹き飛ばす勢い。
(すご…!)
視線を向けると、夜嵐くんが
楽しそうに立っていた。
「ヴィラン乱入とか!!
なかなか熱い展開にして
くれるじゃないっスか!!」
(この人…テンション高いなあ)
でも、その風は確かに強力だ。
「あんたと同着とは…!」
轟くんを見るその表情は、明らかに不機嫌。
「おまえは、救護所の避難を手伝ったらどうだ。
“個性”的にも適任だろ、こっちは俺がやる」
轟くんも、珍しく強い口調で返す。
(あ、これ…)
空気が、また少し張り詰める。
言い合う二人へ、ギャングオルカが襲いかかる。
風と炎。
同時に放たれるけど――
噛み合っていない。
「何で炎だ!!熱で風が浮くんだよ!!」
「さっき氷結を防がれたからだ。
おまえが合わせてきたんじゃねぇのか?
俺の炎だって、風で飛ばされた」
「あんたが手柄を渡さないよう合わせたんだ!」
「は?誰がそんな事するかよ」
(ちょっと待って…)
戦ってるのに、連携が崩れてる。
それどころか――
「するね!だってあんたは、
あのエンデヴァーの息子だ!」
(今それ言う!?)
状況が完全にズレてる。
救護を続けながら、焦りがじわじわと広がる。
(そろそろ止めないと2人とも試験中なの忘れてる…)
判断して、足を踏み出す。
ギャングオルカのいる方へ。
「さっき…から、何なんだよおまえ。
親父は関係ねえっ」
苛立ちが滲む轟くん。
その瞬間、サイドキックの
セメントガンが放たれる。
(危ない!)
「ネビュラ・シールド!」
反射的に展開した光が、
轟くんの前で弾けるように広がる。
セメントがぶつかり、弾かれる。
「星宮…」
少し驚いた声。
「救護は人手が足りてたから来たよ!」
軽く笑って答えながら、位置をずらす。
二人から少し離れた場所で、
ギャングオルカの動きを引き受ける。
同時に、別のサイドキックたちへ意識を向ける。
ハロー・バインド。
光の輪が走り、数人を一気に拘束する。
その間にも夜嵐くんは止まらない。
「関係あるんだな、これが!
ヒーローってのは、俺にとって熱さだ!
熱い心が人に希望とか感動を与える!!
伝える!!だから、ショックだった!
エンデヴァーに会ってサインを求めた俺に
あの人は邪魔だと冷たい目をしていた!
そして、入試の時あんたを見て、
あんたが誰かすぐにわかった。
なにせあんたは全く同じ目をしてた」
(……そんなことが…でも、)
「同じだと…ふざけんなよ。
俺は、あいつじゃねぇ」
轟くんの声も、低くなる。
「夜嵐くんその話後にしよ!?」
思わず声を飛ばす。
(今じゃないでしょ…!)
でも夜嵐くんは止まらない。
言葉をぶつけるように続ける。
(も〜〜!)
「ヴィランを前に、何をしているのやら…」
ギャングオルカが呆れたように呟く。
(ほんとそれ!!)
内心で全力で同意する。
「俺はあんたら親子のヒーローだけは、
どーにも認めらんないんスよォー!以上!」
(勝手に以上とか一方的にしないで!)
心の中でツッコミが止まらない。
その瞬間――
また風と炎がぶつかる。
軌道がズレる。
炎が、別方向へ流れる。
(え、そっち――)
視線の先。
動けないままの真堂くん。
「また!!やっぱりあんたは…」
夜嵐くんが言いかけたその前に、
「危ない!」
思わず声が出る。
身体が動く。
でも――
それよりも先に、緑谷くんが飛び出していた。
真堂くんを掴み、そのまま炎を回避する。
(速い…!)
一瞬で判断して、動いてる。
そして――
「何をしてんだよ!」
真っ直ぐな声。
その一言で、空気が変わる。
(……戻った)
轟くんと夜嵐くんの意識が、ようやく“今”に戻る。
(よかった…)
小さく息を吐く。
そのタイミングで、他のメンバーも合流してくる。
三奈ちゃん、常闇くん、尾白くん。
さらに――
もふもふの士傑の先輩も。
(ここからだ)
視線を上げる。
ギャングオルカと、そのサイドキックたち。
救護所のすぐ近く。
(守りながら、止める)
さっきよりも、ずっと難しい。
でも――
やるしかない。
光粒子を広げながら、次の動きへと踏み出した。
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