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緑谷くんの一言で、張り詰めていた空気が
一気にほどける。

――戻った。

轟くんと夜嵐くんの視線が、ようやく“今”に合う。

(よかった…)

ほんの一瞬だけ安心する暇もなく、
次の動きが始まる。

ギャングオルカの圧に押されながらも、
二人は同時に踏み込んだ。

風と炎。

別々だったはずの力が、今度は噛み合う。

渦を巻くように絡み合い、
巨大な炎の塊となってギャングオルカを包み込む。

炎の檻。

外へ逃がさないように閉じ込める形。

(今度は…いける!)

その間も、私はサイドキックの制圧を続ける。

光粒子を広げ、動きを封じる。数を減らす。
救護所に近づけさせない。

(時間を稼ぐ…!)

炎の檻の中で、ギャングオルカの姿が
一瞬見えなくなる。

――でも。

(……あれ?)

違和感。

次の瞬間、その中から影が動いた。

炎を、弾き飛ばす。

(そんな…!)

水。

体を濡らし、弱点を補う。

そして放たれる超音波。

圧が空気を震わせ、炎の渦を吹き飛ばす。

(プロって…ここまでやるんだ)

弱点を“知ってる”だけじゃなく、
対策を“常に持ってる”。

「で?次は?」

余裕のある声。

その圧倒的な存在感に、
夜嵐くんと轟くんの動きが一瞬止まる。

(まずい…!)

そのまま、ギャングオルカが二人に歩み寄る。

迷いのない足取り。

「ハロー・バインド・トリプル!」

反射的に声を上げる。

三重に重ねた光の輪を、
ギャングオルカへ向けて放つ。

同時に、緑谷くんが飛び出す。

シュートスタイル。

一気に距離を詰める。

(今なら――)

その瞬間、

ビーーーっと、警報が鳴り響いた。

《えー、只今をもちまして、配置された
全てのフックが危険区域より救助されました。
まことに勝手ではございますが、
これにて仮免試験全工程、終了となります!!》

「え…」

思わず声が漏れる。

力が、ふっと抜ける。

張り詰めていたものが、一気にほどけた。

拘束していた光が消える。

緑谷くんの蹴りも、宙を切る。

(そっか…)

この試験の本質は、ヴィランを倒すことじゃない。

――救けること。

私たちが足止めしている間に、
他の受験者が全員を避難させていた。

(終わったんだ…)

「お…終わったあ」

思わず息が漏れる。

緊張と集中が一気に抜けて、
膝から力が抜けそうになる。

でも――

ちゃんと、やりきった。

その後、試験は正式に終了となり、
制服に着替えて施設の外へと出る。

空気が少し軽い。

さっきまでの緊張とは違う、結果を待つ空気。

「皆さん長い事おつかれ様でした。
これより発表を行いますが…その前に一言。
採点方式についてです。
我々ヒーロー公安委員会と、
フックの皆さんによる、二重の減点方式で
あなた方を見させてもらいました。
つまり…危機的状況で、どれだけ間違いのない
行動をとれたかを審査しています。とりあえず、
合格点の方は五十音順で名前が乗ってます。
今の言葉を踏まえた上で、ご確認下さい…」

掲示板に、名前が並ぶ。

(あるかな…)

自然と足が前に出る。

目で、一つ一つ追っていく。

そして――

(あった)

“星宮綺羅”

「……あった…!良かったあ!」

胸の奥が一気に軽くなる。

「私もあったよ!良かったあ!」

「私も!」

三奈ちゃんと透ちゃんが抱きついてきて、
思わず笑ってしまう。

(よかった、本当に)

でも――

視線が、少しだけズレる。

(……あれ?)

本来あるはずの位置。

その名前が、ない。

(え…爆豪くん…)

思わずそちらを見る。

爆豪くんは、珍しく焦ったような表情で

「ねェ……!!」

と呟いている。

隣の切島くんも、驚きを隠せていない。

その時、

「轟!!」

夜嵐くんの声。

思わず空気が張る。

(また何か…)

そう思った次の瞬間――

「ごめん!!」

深々と頭を下げる。

(え…?)

予想外すぎて、思わず目を見開く。

「あんたが合格逃したのは、俺のせいだ!!
俺の心の狭さの!!ごめん!!」

まっすぐな謝罪。

(やっぱり、この人…)

根は、悪くない。

そう思える。

「元々、俺がまいた種だし…よせよ。
おまえが直球でぶつけてきて、
気付けた事もあるから」

轟くんも、落ち着いた声で返す。

そのやり取りに、少しだけ安心する。

「轟…落ちたの?」

三奈ちゃんの声。

「ウチのツートップが両方落ちてんのかよ!」

瀬呂くんも驚く。

「暴言改めよ?言葉って大事よ。原因明らか」

上鳴くんが爆豪くんに絡む。

「黙ってろ、殺すぞ」

(通常運転だ…)

少しだけ安心してしまう自分がいる。

(不合格理由、やっぱそこなんだろうな…)

想像はつく。

フックへの対応。

言葉。

全部、見られている。

「両者ともトップクラスであるが故に、
自分本位な部分が仇となったわけである。
ヒエラルキー崩れたり!」

峰田くんの言葉を、
飯田くんが無言で引きずっていく。

(ナイス判断)

場の空気が少しだけ落ち着く。

その中で、目良の説明が続く。

プリントが配られる。

手に取って、点数を見る。

(79点…)

思っていたよりも、少し低い。

でも――

(納得、かな)

臨機応変に動けた部分もあった。

でも同時に、“やりすぎた”部分もある。

(できることが多い分、選択が難しい)

救助に徹するか、制圧に回るか。

その判断の精度。

(もっと詰められる)

そう思える。

周りでも、点数を見せ合う声が上がる。

それぞれの反応。

それぞれの反省。

「こうして至らなかった点を捕捉してくれるのは、
ありがたいな!」

飯田くんの言葉に、

「うん…!」

緑谷くんが力強く頷く。

(ほんとにそうだ)

ただの合否じゃない。

“次”に繋がる試験。

そして、目良の言葉が続く。

オールマイトの引退。

これからの時代。

ヒーローの在り方。

(……次は、私たち)

その重みを、しっかり受け止める。

そして――

不合格者への言葉。

特別講習。

チャンス。

「当然!」
「お願いします!!」

爆豪くん、轟くん、夜嵐くん。

三人の目が変わる。

(いい顔してる)

「やったね、轟くん!!」

周りからも声がかかる。

私も自然と前に出て、

「爆豪くん!轟くん良かったね!」

そう声をかけると、

「うるせえ!黙って余裕ぶってろ!」

(あ、元気だ)

少しだけ笑ってしまう。

轟くんは、

「星宮も…巻き込んじまって悪いな…」

と申し訳なさそうに言うけど、

「全然だよ!特別講習あって良かったね!」

そう返すと、少しだけ表情が緩んだ気がした。

(これで終わりじゃない)

むしろ――

ここから。

そう思いながら、次へ進む準備を整えていった。







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