寮に戻ったとき、
ようやく一日が終わったんだと実感した。
身体の奥に残っている疲労が、
じわじわと表に出てくる。
さっきまでの緊張が解けて、
足取りが少しだけ重い。
食堂に集まったみんなも、
どこかぐったりしていて、
でもそれぞれに達成感が滲んでいる。
(お疲れさまって感じだなあ…)
席について、温かいご飯を口に運ぶ。
味はちゃんと美味しいはずなのに、
それ以上に“落ち着く”という感覚が強い。
今日一日、ずっと張り詰めていたから。
食事を終え、お風呂に入って、
パジャマに着替える。
いつもの日常に戻ったはずなのに、
どこかまだ現場の空気が残っている気がした。
それでも、ソファに座ってみんなと話していると、
少しずつその感覚も薄れていく。
「それでさ!マジであの時俺が――!」
上鳴くんが、やたらと身振り手振りを
大きくしながら話している。
どうやら一次試験の話らしい。
(あ、そこ気になってたやつだ)
予想通り、爆豪くんは肉倉先輩に
絡まれていたらしい。でもピンチを
上鳴くんがうまく動いて突破した、と。
「いやマジで俺いなかったらヤバかったって!」
自慢げな顔に、思わず笑ってしまう。
(でも確かに、上鳴くんっぽい活躍だなあ)
その場の流れを変えるの、得意だもんね。
「で、二次試験の方は…
まあ、いつも通りっつーか」
切島くんが苦笑いしながら続ける。
「やることはちゃんとやってたんだけどな…
言い方がな」
(あー…)
自然と納得してしまう。
「フック相手にもあの調子だったからなあ」
(それは…減点されるよね)
思わず苦笑いが漏れる。
でも、ちゃんと“やってる”のは分かってるから、
余計に惜しい。
「綺羅の方は大変だったね。
ギャングオルカ相手に」
響香ちゃんがこっちに話を振る。
「あー…うん」
思い返すだけで、少しだけ緊張が蘇る。
「轟くんと夜嵐くんが喧嘩してたのには
ビックリしたけど、仲直りできて良かったよ」
素直な感想がそのまま口に出る。
あの場の空気は、正直ちょっとヒヤッとした。
(でも、ちゃんと戻ってこれたし)
結果的には、それも含めて
“成長”だったのかもしれない。
合格発表のあと、夜嵐くんが
直接謝りに来たことも思い出す。
あの勢いのまま、深く頭を下げてきたときは――
(びっくりしたなあ…)
ぶつかりそうなくらい近くて、
ちょっと焦ったのも事実。
でも、真っ直ぐな人だっていうのはよく分かった。
「ギャングオルカも強いしさー、
炎の渦を超音波の衝撃で壊してた時
ビックリしたよ!」
思わず身振りを交えて話してしまう。
あの瞬間の衝撃は、まだ鮮明に残っている。
(プロって、本当にすごい)
強さの“質”が違う。
そう感じた場面だった。
その時――
「君たち!」
聞き慣れた声とともに、
パジャマ姿の飯田くんがこちらへ駆け寄ってくる。
(あ、来た)
「明日から学校が始まるんだ!
消灯前には部屋に戻りたまえ!」
びしっとした姿勢での注意に、
思わず背筋が伸びる。
「はーい」
「了解でーす」
みんながそれぞれ返事をしながら、立ち上がる。
「あっという間の夏休みだったなー」
切島くんが名残惜しそうに言う。
「夏休みらしい夏休みしてねえよなー」
上鳴くんも同意するように肩をすくめる。
「海でスイカ割りやりたかったー」
三奈ちゃんが残念そうに言って、
「やだよ焼けるじゃん」
響香ちゃんが即座に返す。
(ふふ、いつも通り)
そのやり取りに、自然と笑みがこぼれる。
エレベーターへ向かうみんなの後ろについて
歩きながら、小さく欠伸が出る。
(……眠い)
今日一日の疲れが、一気に押し寄せてきた感じ。
(林間合宿に、必殺技考案に、仮免試験…)
普通じゃない夏休み。
でも――
(すごく、濃かったなあ)
振り返ると、あっという間だった。
エレベーターが止まり、
三奈ちゃんと同じ階に降りる。
「おやすみー!」
「おやすみ!」
手を振って別れ、それぞれの部屋へ。
ドアを閉めた瞬間、静けさが戻る。
(……一人だと一気にくる)
ベッドが視界に入った瞬間、もう抗えない。
(明日の準備…まあ、明日でいっか)
そう思った瞬間には、
体が自然とベッドへ向かっていた。
倒れ込むように横になる。
シーツの感触が心地いい。
(……限界)
目を閉じたら、もう戻れない。
そのまま、意識がゆっくり沈んでいく。
――眠りに落ちる直前。
今日の光景が、ふっと浮かんで消えた。
そして、その夜。
爆豪くんと緑谷くんが外へ出て、
喧嘩をすることを――
私は、まだ知らなかった。
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