翌朝、目が覚めた瞬間、身体の軽さに少し驚いた。
(……よく寝た)
頭もすっきりしているし、
昨日まで残っていた疲れもほとんど感じない。
久しぶりにちゃんと休めた気がする。
そのまま制服に着替える前に、食堂へ向かう。
朝の寮は静かで、でもどこか
新学期の始まりらしい空気が流れていた。
「綺羅ちゃんおはよう」
「おはよう梅雨ちゃん!」
顔を上げると、梅雨ちゃんがいつも通りの
落ち着いた様子で挨拶してくれる。
「朝から元気ね」
「よく寝れたからね!」
軽く笑いながら返して、そのまま席に向かう。
――けど。
(あれ…?)
なんとなく、違和感。
食堂の空気が、ほんの少しだけいつもと違う。
その原因はすぐに分かった。
爆豪くんと緑谷くん。
二人とも、やけに静かで。
それでいて――
(怪我、増えてない?)
昨日より明らかに傷が増えていて、
きちんと手当てされているのが見える。
「綺羅おはよ〜」
「三奈ちゃんおはよう」
後ろから声をかけられて振り返ると、
三奈ちゃんがいつも通りのテンションで
手を振っていた。
「なんか爆豪と緑谷怪我増えてない?」
「私もちょうど思ってたところー」
やっぱりそう見えるよね、と思いながら頷く。
トレーを取って、今日の朝食を見る。
フルーツサラダにフレンチトースト、牛乳。
(やった、洋食当たりだ)
ちょっとだけ気分が上がる。
二人で並んで、緑谷くんの向かいの席に座る。
「緑谷おはよ〜」
「あ、芦戸さん!星宮さん!おはよう!」
少し慌てたように顔を上げる緑谷くん。
怪我はしているけど、ちゃんとご飯は食べている。
しかも和食。
(相変わらずだなあ…)
なんだか少し安心する。
「緑谷くんおはよう。仮免試験の後より
怪我増えてない?あの後もトレーニングしたの?」
メープルシロップをかけながら、何気なく聞く。
本当にただの疑問。
「い、いや…これは違くて…!」
否定はするけど、歯切れが悪い。
(あ、これ何かあるやつだ)
三奈ちゃんと顔を見合わせて、同時に首を傾げる。
「じ、実は…かっちゃんと喧嘩して…」
「え…」
思わず声が漏れる。
(あの二人が?いや、でも…)
緑谷くんが爆豪くんに反発するの意外だ。
その横で、
「喧嘩あ!!?」
三奈ちゃんの大声が食堂に響いて、
一気に目が覚める。
「いつ!?もしかして消灯後!?
先生にバレなかったのー?」
勢いよく詰め寄る三奈ちゃんに、
緑谷くんはさらに小さくなる。
「じ…実は相澤先生に怒られて僕が3日間、
かっちゃんは4日間謹慎と寮の掃除の処分で…
学校に行けなくて…」
どんどん声が小さくなっていく。
(あー…)
全部繋がった。
怪我も、空気も、静けさも。
「馬鹿だ」
三奈ちゃんの一言が、すごくストレートに刺さる。
(ほんとにそれ)
せっかく新学期なのに、いきなり不在。
もったいない。
「喧嘩はもう大丈夫なの?
2人でいたらまた喧嘩したりとか…」
少しだけ気になって聞く。
「い、いや!もう大丈夫!
喧嘩はないと思う…よ!」
慌てて否定するけど、最後が少し弱い。
(それは大丈夫なの?)
思わず苦笑いが出る。
でも、少なくとも“何かしらの決着”は
ついたんだろうな、とは感じた。
そのまま朝食を食べ終えて、一度部屋に戻る。
制服に着替えて、もう一度共有スペースへ。
降りた瞬間――
(あ、広まってる)
さっきの話が、もうクラス中に伝わっている。
たぶん三奈ちゃん。
「ケンカして、謹慎〜〜!?」
透ちゃんの驚いた声が響く。
視線が一斉に集まる先。
掃除機をかけている、緑谷くんと爆豪くん。
(ああ、ほんとにやってる…)
現実感がじわじわくる。
「馬鹿じゃん!!」
「馬鹿かよ」
「ナンセンス!」
容赦ない言葉が飛び交う中、
「ぐぬぬ…」
と低く唸りながら掃除機をかけている爆豪くん。
(怒ってるけどちゃんとやってるの、
ちょっと面白い)
そんなことを思ってしまう。
「ええ、それ、仲直りしたの?」
お茶子ちゃんが心配そうに聞く。
「仲直り…っていうものでも…
うーん、言語化が難しい…」
(あ、やっぱり)
完全にスッキリ、ってわけじゃない。
でも、前に進んではいる。
そんな感じ。
「よく謹慎で済んだものだ…!!
では、これからの始業式は君ら欠席だな!」
飯田くんがしっかり怒っている。
(委員長モード全開だ)
「爆豪、仮免の補習どうすんだ」
轟くんの言葉に、
「うるせぇ…てめーには関係ねぇだろ」
少し抑え気味だけど、ちゃんとキレてる。
(うん、通常運転)
それを確認して、少し安心する。
「じゃー、掃除よろしくなー」
上鳴くんが軽く手を振る。
その流れに乗って、私も外へ向かう。
(あとで戻ってきたら、綺麗になってるのかな)
そんなことをぼんやり思いながら、
みんなと一緒に寮を出て、校舎へと向かった。
✳︎
..