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「皆、いいか!?列は乱さずそれでいて迅速に!!
グラウンドへ向かうんだ!!」

朝の教室に入って、
席に着く間もなく響いた飯田くんの声。

(今日も元気だなあ…)

思わずそう思いながらも、
すぐに移動の流れに乗る。

「いや、おめーが乱れてるよ」

すかさず入るツッコミに、
小さく笑いそうになるのをこらえた。

教室を出ると、すでに廊下は人でいっぱいだった。
A組だけじゃなく、他のクラスも同じタイミングで
動いているから、なかなか進まない。

(ちょっとした渋滞だ…)

それでも列を崩さないように
進もうとしているところに――

「聞いたよー、A組ィィ!」

前方から、やたらとよく通る声。

(あ、来た)

顔を上げると、やっぱりそこには
B組の物間くんがいた。

「2名!!そちら仮免落ちが
2名も出たんだってぇえ!?」

(うわ、早いな情報…)

「B組物間!相変わらず気が触れてやがる!」

上鳴くんのツッコミが、ほぼ反射で入る。

「さてはまた、オメーだけ落ちたな」

切島くんの言葉に、
物間くんは一瞬だけ間を置いて――

「ハッハッハッハッ」

同じトーンで笑い続ける。

(どっち…?)

そのまま背を向けたかと思えば、

「いやどっちだよ」

という切島くんのツッコミを
待っていたかのように、くるりと振り返る。

「こちとら、全員合格。溝があいたね、A組」

得意げに腕を広げて、自分のクラスを示す。

(あー、これは…)

完全に煽りに来てる。

「……悪ィ…みんな…」

隣で、轟くんが小さく俯く。

(え)

一瞬だけ驚いて、すぐに声をかける。

「轟くんが謝る事じゃないよ!」

「そうだぜ。向こうが一方的に
競ってるだけだから、気にやむなよ」

切島くんもすぐにフォローする。

(うん、それそれ)

空気が少しだけ柔らぐ。

その時、B組の中から一人の
女子生徒が前に出てきた。

春には見なかった顔。

ツノが特徴的で、どこか異国の雰囲気。

「ブラドティーチャーによるゥと、
後期ィはクラストゥゲザージュギョーある
デスミタイ。タノシミしテマス!」

(カタコトだ…かわいい)

一生懸命話しているのが伝わってくる。

「へぇ!そりゃ腕が鳴るぜ!」

切島くんが楽しそうに反応する。

(対抗戦かあ…)

自然と少しワクワクしてくる。

どんな形式かは分からないけど、
クラス同士でぶつかるなら、きっと面白い。

その横で、物間くんが
こそこそと何かを教えている。

「ボコボコォに、ウチノメシテヤァ…ンヨ?」

教わった言葉をそのまま復唱する彼女に、

「アハハハハハ」

満足そうに笑う物間くん。

(ああ…遊ばれてる…)

そう思った瞬間、

「変な言葉教えんな!」

拳藤さんが即座にツッコミを入れて、
物間くんの目を潰す。

(やっぱり頼れる…)

この二人のバランス、ほんとに安心する。

その時、

「オーイ、後ろ詰まってんだけど」

後ろから声がかかる。

振り返ると、列が完全に止まっていた。

「すみません!!さァさァ皆、
私語は慎むんだ!迷惑かかってるぞ!」

飯田くんが慌てて仕切り直す。

その声の主――

普通科の心操くんだった。

(あれ…)

終業式でも見かけたけど、なんとなく印象が違う。

(ちょっと体つき、変わった?)

前よりしっかりしているというか、
鍛えてる感じがする。

周りのみんなも同じことを思ったのか、
少しざわつく。

「かっこ悪ィとこ見せてくれるなよ」

短くそう言って、A組の横を通り過ぎていく。

(ヒーロー科編入いつなんだろ…)

そんなことを思いながら、その背中を見送った。

そのまま流れに乗ってグラウンドへ。

全校生徒が集まり、始業式が始まる。

「やぁ!皆大好き小型ほ乳類の校長さ!」

(出た…)

独特すぎる入りに、
内心で小さくツッコミを入れる。

毛質の話、栄養の話、睡眠の話。

(毛並み…髪の毛と同じかな)

なんとなく納得しつつも、
やっぱりちょっと不思議な話だ。

でも、その後の話は少し空気が変わる。

“事件”。

“柱の喪失”。

(……オールマイト)

自然と頭に浮かぶ。

軽い話じゃない。

これからの社会。

これからのヒーロー。

(私たちが、次)

その言葉が、じわっと重く響く。

ヒーローインターン、という
新しい言葉にも少し引っかかる。

(なんだろ、それ)

まだ知らないことが、たくさんある。

でもきっと、これから関わってくるもの。

校長先生の話が終わり、続いて生活指導。

――と思ったら。

「バウ!!バウバウバオオン!!」

(え、怒ってるのは分かるけど…!)

ハウンドドッグ先生の迫力に、
一瞬だけ空気が止まる。

代わりにブラド先生が説明を引き継ぐ。

「ええと、昨晩ケンカした生徒がいました。
慣れない寮生活ではありますが、
節度をもって生活しましょう。とのお話でした」

(あー…)

やっぱりそうなるよね。

自然と、爆豪くんと緑谷くんの顔が浮かぶ。

(完全に目立ってるなあ…)

ちょっとだけ苦笑い。

でも、それも含めて――

(らしい、かも)

そう思ってしまう。

こうして始業式が終わり、
再び教室へ戻る流れになる。

ざわざわとした空気の中を歩きながら、

(新学期、始まったなあ)

と、静かに実感していた。







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