教室に戻ると、さっきまでのざわつきが
少しずつ落ち着いていく。
席に着いて、鞄を横にかける。
(なんか…やっと日常に戻った感じ)
さっきまでの始業式の空気と違って、
教室の中はいつものA組の空気に戻りつつあった。
そこに、扉が開く音。
相澤先生がいつも通りの
気だるげな様子で入ってくる。
その瞬間、自然と空気が引き締まる。
「じゃあまァ…今日からまた
通常通り授業を続けていく。
かつてない程に色々あったがうまく切り換えて、
学生の本分を全うするように。
今日は座学のみだが、
後期はより厳しい訓練になっていくからな」
淡々とした口調。
でも、その言葉の中にはしっかりと重みがある。
(“切り換えて”か…)
頭では分かっているけど、
全部が簡単に整理できるわけじゃない。
それでも、前に進むしかない。
(インターンについては先の話なのかな?)
さっきの校長の話が、ふと頭をよぎる。
知らない単語。
でも、確実にこれから関わってくるもの。
その時――
「ごめんなさい、いいかしら先生。
さっき始業式でお話に出てた
”ヒーローインターン”って
どういうものか聞かせてもらえないかしら」
梅雨ちゃんが手を挙げて質問する。
(あ、同じこと思ってた)
自然と少し前のめりになる。
「そういや、校長が何か言ってたな」
「俺も気になってた」
瀬呂くんと常闇くんも反応する。
「先輩方の多くが取り組んでらっしゃるとか…」
百ちゃんも続ける。
(みんな気になってるんだ)
当然かもしれない。
次に進むための話だから。
「それについては後日やるつもりだったが…
そうだな、先に言っておく方が合理的か…」
相澤先生は少しだけ間を置いてから、
説明を始める。
「平たく言うと”校外でのヒーロー活動”。
以前行ったプロヒーローの下での職場体験…
その本格版だ」
(本格版…)
自然と、職場体験の時のことを思い出す。
ベストジーニストの事務所。
細かい指導。
無駄を削る意識。
(あの感じが、もっと長く…
もっと深くなるってことか)
少しだけ、胸が高鳴る。
「ヒーローインターンは、
体育祭で得たスカウトを
コネクションとして使うんだ。
これは授業の一環ではなく、
生徒の任意で行う活動だ」
(任意…)
強制じゃない。
でも――
「むしろ体育祭で指名を頂けなかった者は、
活動自体難しい」
(あ…)
その一言で、現実味が増す。
機会は平等じゃない。
選ばれることも、実力の一部。
「仮免を取得したことでより
本格的・長期的に活動へ加担できる。
ただ、1年生での仮免取得はあまり例がないこと。
ヴィランの活性化も相まって、
おまえらの参加は慎重に考えてるのが現状だ」
(そっか…)
ただ行けるわけじゃない。
状況も、タイミングも、全部含めて判断される。
「まァ、体験談なども含め、
後日ちゃんとした説明と、今後の方針を話す。
こっちも都合があるんでな」
説明が一段落する。
(気になるけど…まだ先か)
少しだけもどかしい気持ち。
でも、それくらいがちょうどいいのかもしれない。
その時、相澤先生が視線を扉の方へ向ける。
「じゃ、待たせて悪かったな。マイク」
(あ)
気づけば、いつの間にか
教室の後ろに立っている人影。
次の瞬間――
「一限は、英語だーー!!すなわち、俺の時間!!
久々登場、俺の壇上待ったかブラ!!
今日は詰めていくぜー!!アガってけー!!
イエァァ!!」
(うるさ…元気…)
一気に教室の温度が変わる。
さっきまでの落ち着いた空気が、完全に吹き飛ぶ。
「はーい」
それでも、みんなの返事はどこか落ち着いている。
(慣れてるなあ…)
そんなことを思いながら、教科書を取り出す。
インターンの話は気になる。
でも同時に、現実的なことも頭に浮かぶ。
(ベストジーニストさん…)
職場体験でお世話になったプロヒーロー。
神野の事件で負傷して、今も休職中。
(もし行けたとしても、
同じところには行けないかも)
少しだけ残念な気持ちになる。
でも――
(それも含めて、次か)
新しい場所、新しい経験。
それもきっと、必要なこと。
そんなことを考えながら、
授業の準備を整えていった。
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