夏休み明けの授業を終えて、寮へ戻る。
(なんか…一日長かった気がする)
久しぶりの座学に、インターンの話。
頭を使うことが多くて、
ほんの少しだけ疲労感が残っている。
でも、寮の扉を開けた瞬間――
(あ、いつもの感じ)
空気が一気に“日常”に戻る。
共有スペースはすでに賑やかで、
声があちこちから飛び交っていた。
その中心にいるのは、やっぱり――
「んっんー・・・このホコリは何です、爆豪くん?」
峰田くんが、わざとらしく
指先についた埃を見せつけている。
(うわ、絶対怒られるやつ)
「そこデクだ、ザけんじゃねぇぞ…!
オイコラてめー、掃除もできねぇのか!!」
案の定、爆豪くんの声が響く。
しかも、ちゃんとターゲットは緑谷くん。
「わっごめん!」
即座に謝るあたり、やっぱり素直だなと思う。
(でもちゃんと掃除してるんだ…)
謹慎中なのに、しっかり動いてる。
「あ…皆部屋のゴミ、
ドアの前に出しといてまとめます!」
緑谷くんが周りに声をかける。
その姿勢は、どこまでも真面目で――
(ちゃんと受け止めてるんだな)
少しだけ、すごいなと思う。
その横で、
「だから言ってんだろうが!!」
爆豪くんがまだ怒っている。
(元気だなあ…)
さっきよりは少しだけ柔らいでる気もするけど、
基本は変わらない。
そのまま視線を少しずらすと、別の場所では――
「インターンってさ、
どれくらい行くもんなんだろうな」
「やっぱ事務所によるんじゃね?」
瀬呂くんと尾白くんが話し始めていて、
「えー楽しそうじゃない?」
「でも結構ガチっぽくない?」
透ちゃんと響香ちゃんも混ざってくる。
(もうその話になってるんだ)
さっき聞いたばかりなのに、
もう次に意識が向いている。
その空気の中で、
緑谷くんの動きが、ほんの少しだけ鈍る。
(あ…)
視線は掃除に向けてるけど、
耳は完全にそっちに向いてる。
(そっか…)
謹慎中。
授業も、情報も、遮断されてる。
「たった1日で凄い置いてかれてる感と、
いう顔だね謹慎くん!」
飯田くんがズバッと言う。
(言い方…!)
でも、言ってることは間違ってない。
「謹慎くんはひどいや。
あの飯田くん、インターンって何?」
緑谷くんが食い下がる。
その気持ちは分かる。
でも――
「俺は怒っているんだよ!
授業内容等、伝達は先生から禁じられた!
悪いが二人とも、その感をとくと味わって
いただくぞ!聞いてるか、爆豪くん!」
ぴしゃりと空気を切るように、
飯田くんの声が響く。
その真っ直ぐさに、
場の空気が一瞬だけ引き締まる。
(徹底してる…)
規律を守ることに対して、一切の妥協がない。
それが飯田くんらしい。
「っるせんだよ、わかってらクソメガネ!」
爆豪くんも、いつも通り噛みつくように返す。
荒い言葉。でも、その中に反発だけじゃない
“理解してる感じ”が混じっているのが分かる。
(この二人、なんだかんだちゃんとやるんだよね)
言い方も態度も真逆なのに、
根っこの部分は似ている気がする。
さっき聞いた喧嘩のことも、
完全に整理できているわけじゃないはずなのに。
それでもこうして、
それぞれやるべきことをやっている。
朝からずっと掃除を続けているのも、その一つ。
(結構大変だよね、これ…)
広い共有スペースを見渡して、自然とそう思う。
その流れで、ふと口が動いた。
「朝からずっと掃除してたの?」
特に深く考えたわけでもなく、ただ思ったまま。
爆豪くんの方を見る。
「無駄に広いんだよこの寮」
面倒くさそうに吐き捨てるような返事。
でも手は止まっていない。
(ちゃんとやってる)
そのギャップに、少しだけ可笑しさを感じる。
「確かに共有スペースだけでも
めちゃくちゃ広いもんね!」
思わず笑いながら返すと、
「チッ…」
短く舌打ち。
でも、それ以上何か言うこともなく、
そのまま背中を向けて掃除を終えたから
自分の部屋に戻りにエレベーターに向かった。
(あ、行っちゃった)
その背中を見送りながら、軽く声をかける。
「お疲れさまー!」
振り返ることも、怒鳴ることもなく。
そのまま、歩いていく。
(あれ、怒られなかった)
少しだけ意外に思いながら、
目の前の床に視線を落とす。
さっきまで埃があった場所が、
すっかり綺麗になっている。
光の反射が、少しだけ違う。
(ほんとにちゃんとやってるんだ)
当たり前のことかもしれないけど、
改めて実感する。
(爆豪くん掃除も得意なのか…何でも出来るんだな)
少しだけ感心しながら、
整えられた共有スペースを見渡した。
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