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相澤先生に止められた爆豪くんは、
歯を食いしばったまま動かなかった。

捕縛布に絡め取られた体が、
ぎり、とわずかに軋む。

怒りは消えていない。

けれど、それ以上動くことはなかった。

無理やり、飲み込んだのだろう。

グラウンドには、まだ少しだけ
張り詰めた空気が残っていた。

けれど。

「次」

相澤先生の短い一言で、
テストはそのまま再開された。

その後も個性把握テストは続き、
やがて全ての種目が終わる。

持久走で荒くなる息。

握力測定の機械音。

反復横跳びで鳴る靴の音。

いくつもの記録が積み重なり、
グラウンドには汗と土の匂いが混じっていた。

春の風が、それを少しだけ運んでいく。

やがて、最後の測定が終わる。

生徒たちが集まり直すと、相澤先生が口を開いた。

「んじゃ パパッと結果発表。
トータルは単純に各種目の評点を合計した数だ。
口頭で説明すんのは時間の無駄なので
一括開示する」

小さな端末の画面が光る。

次の瞬間。

グラウンドの上空に、順位が表示された。

私は思わず目を上げる。

自分の名前を探す。

星宮綺羅。

(あった)

数字を確認する。

(5位だ……)

トップではない。

それは少し悔しかった。

でも――

(除籍じゃないなら、まあいいか)

そんなふうにも思う。

私は視線を下へ動かした。

問題の20位。

そこには――

緑谷くんの名前があった。

(やっぱり……)

あの力。

人を助ける勇気。

入試の時、確かに見た。

なのに。

このまま終わってしまうのだろうか。

そう思いながら、私は相澤先生の方を見る。

その時だった。

「ちなみに除籍は嘘な」

相澤先生が、あっけらかんと言った。

「え…?」

一瞬、時間が止まったようだった。

「君らの最大限を引き出す合理的虚偽」

相澤先生は、さらっと続ける。

「「「はーーー!!!?」」」

クラスメイトたちの大声が、グラウンドに響いた。

さっきまで張り詰めていた空気が、一気に崩れる。

「嘘!?!?」

「マジで!?」

「心臓止まるかと思った!」

あちこちで声が上がる。

その中で、一人の女子が呆れたように言った。

「あんなの嘘に決まってるじゃない…
ちょっと考えれば分かりますわ…」

品のある声だった。

黒髪をポニーテールに結った女子。

落ち着いた雰囲気の人だ。

(本当かなあ……)

私は少し疑わしそうに、相澤先生を見つめる。

でも。

相澤先生はもう興味がないように、
くるりと背を向けた。

「そゆこと。これにて終わりだ。
教室にカリキュラム等の書類あるから
目ぇ通しとけ。緑谷。
ばあさんのとこ行って治して貰え。
明日からもっと過酷な試練の目白押しだ。」

それだけ言うと、相澤先生はそのまま歩き去った。

グラウンドに残されたA組は、
しばらくその場に立っていた。

そして――

「まじでビビったんだけど!」

「心臓に悪すぎる!」

一気に騒がしくなる。

さっきまでの緊張が、嘘みたいに消えていた。

こうして、A組の生徒たちは教室へ戻る。

教室に入ると、それぞれの机の上に
教材が置かれていた。

プリント。

教科書。

カリキュラム。

山のような資料。

私はそれを見て、思わず顔をしかめる。

(えーこれ全部持って帰るのー?)

鞄の口を開く。

一冊入れる。

もう一冊。

まだある。

(重くてやだなあ……)

少し渋々、教材を鞄にしまっていると――

「ねーねー!」

明るい声が聞こえた。

顔を上げると、ピンク色の髪の女の子が
こちらを覗き込んでいる。

元気そうな笑顔。

目がきらきらしている。

「さっきのソフトボール!
めっちゃ綺麗だったよ!」

その子は身を乗り出すように言った。

「星みたいに光ってた!あれ個性!?」

私は少し驚いてから、笑った。

「うん。スターライトっていうの」

「やっぱり!すごーい!」

女の子は嬉しそうに手を叩く。

「私、芦戸三奈!よろしくね!」

元気いっぱいの声だった。

その様子に、周りの席でも 
少しずつ会話が増えていく。

「お前の個性すげーな!」
「いやー!まだまだいけた!」
「ヒーロー科やばいな!」

教室のあちこちで声が飛び交う。

緊張していた空気は、もうどこにもない。

私は思わず小さく笑った。

(なんか……)

さっきまで、ライバルだと思っていた人たち。

でも今は。

同じクラスの仲間みたいに見える。

雄英高校ヒーロー科。

A組。

その最初の一日は――

こうして、にぎやかに終わっていった。








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