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体操服に着替えて体育館γに集まると、
さっきまでの教室とは全く違う
空気に包まれていた。

広くて、音が響く空間。

これから“実技”が始まる場所。

自然と背筋が伸びる。

「あの…マジすか」

瀬呂くんの呟きが、やけに実感を帯びて聞こえる。

「マジだよね!」

対照的に、通形先輩はすでに
準備体操を始めていて、
軽やかに身体を動かしている。

その横で、壁に向かっている天喰先輩が
ぽつりと口を開いた。

「ミリオ…やめた方がいい。
形式的に”こういう具合でとても有意義です”と
語るだけで充分だ。皆が皆、
上昇志向に満ち満ちているわけじゃない。
立ち直れなくなる子が出てはいけない」

(めちゃくちゃ心配してる…)

さっきの様子とのギャップがすごい。

その空気を気にすることなく、
波動先輩は三奈ちゃんのツノを
興味津々に触りながら話を続ける。

「あ、聞いて、知ってる?
昔挫折しちゃって、ヒーロー諦めちゃって
問題起こしちゃった子がいたんだよ。
知ってた!?大変だよねぇ、通形。
ちゃんと考えないと辛いよ、これは辛いよー」

「おやめください…!」

三奈ちゃんが少し恥ずかしそうにしながらも、
されるがままなのがなんだか可愛い。

(三奈ちゃん可愛い…後で私も触らせてもらお)

ちょっと羨ましくなる。

そんな中、空気を引き締めるように
常闇くんが前に出る。

「待って下さい…我々は、
ハンデありとはいえ、プロとも戦っている」

さらに切島くんも続く。

「そして、ヴィランとの戦いも経験してます!
そんな心配される程、俺らザコに見えますか?」

拳をゴツンと合わせるその音が、
やけに力強く響いた。

(確かに…)

普通のヒーロー科より経験はあるという自覚は、
ちゃんとある。

「うん、いつどっから来てもいいよね。
一番手は誰だ!?」

通形先輩の声が軽く弾む。

その瞬間、

「僕…行きます!」

一歩前に出たのは緑谷くんだった。

「意外な緑谷!!」

瀬呂くんの声に、内心で同意する。

(ほんとに珍しい…)

でも、その理由はすぐ分かる。

(動きたかったんだ)

三日間、何もできなかった分。

「問題児!!いいね、君やっぱり元気があるなぁ!」

通形先輩も楽しそうだ。

「近接隊は一斉に囲んだろうぜ!!よっしゃ先輩、そいじゃあご指導ぉー」

「「「よろしくお願いしまーっす!!」」」

気合いを入れて、一斉に動く。

――その直後。

はらり、と。

通形先輩の服が落ちた。

「あーー!!」

響香ちゃんの叫び声。

「今、服が落ちたぞ!」

一瞬で空気が混乱する。

(いやいやいや!?)

「ああ、失礼。調整が難しくてね!」

呑気にズボンを履こうとする通形先輩に、

緑谷くんの蹴りが叩き込まれる。

――はずだった。

(当たった…のに?)

すり抜けた。

確実に捉えたはずなのに、手応えがない。

続けて遠距離攻撃が一斉に飛ぶ。

「コメット・レイン!」

反射的に光粒子を展開して放つ。

けれど――

(消えた!?)

通形先輩の姿が、下に沈むように消える。

「いないぞ!!」

瀬呂くんの声。

次の瞬間。

「まずは、遠距離持ちだよね!!」

背後。

(近い!)

振り返るより早く、気配が迫る。

しかも――

(ちょっと待って!!)

また、素っ裸。

「きゃあああ!!」

思わず叫びながら、反射的に光粒子を展開する。

ネビュラ・シールド。

視界を遮るように防壁を張る。

(見せないでください!!)

咄嗟に前に出したのは、防御と同時に“隠す”ための光。

「ワープした!!すり抜けるだけじゃねぇのか!?どんな強個性だよ!」

切島くんの声が響く。

その直後。

防壁を、すり抜ける。

(え――)

抵抗が、ない。

そのまま――

腹部に衝撃。

「っ……!」

空気が抜ける。

身体がくの字に折れる。

(うわ…痛…!)

一瞬で呼吸が乱れる。

そのまま膝をつく。

(速い…重い…)

理解するより先に、やられている。

周りも同じだった。

遠距離組、ほぼ壊滅。

「一瞬で、半数以上が…!No.1に最も近い男…」

隣で轟くんが低く呟く。

その言葉に現実味が乗る。

「……おまえ、行かないのか?No.1に興味ないわけじゃないだろ」

相澤先生の問い。

「俺は、仮免取ってないんで…」

真面目な返答。

(律儀だなあ…)

「あと、近接主体ばかりだよね」

通形先輩が軽く言う。

「何したのかさっぱりわかんねぇ!!」

「すり抜けるだけでも強ェのに…ワープとか!それってもう…無敵じゃないすか!」

切島くんが叫ぶ。

「よせやい!」

通形先輩は少し照れたように笑う。

「何かカラクリがあると思うよ!」

緑谷くんの声が通る。

さっきまでの勢いのまま、分析に入っている。

「すり抜けの応用でワープしてるのか、ワープの応用ですり抜けてるのか。どちらにしろ、直接攻撃されてるわけだから、カウンター狙いでいけばこっちも触れられる時があるハズ!何してるかわかんないなら、わかってる範囲から仮説立てて、とにかく勝ち筋を探っていこう!」

(もう立て直してる…)

思考の切り替えが早い。

「オオ!サンキュー!謹慎明け緑谷、スゲー良い!」

切島くんもすぐ乗る。

「探ってみなよ!」

通形先輩が再び地面に沈む。

(また来る)

意識を集中する。

――けど。

結果は同じだった。

気付いた時には、やられている。

近接組も全滅。

(何もできてない…)

悔しさより、理解が追いつかない。

「とまァー、こんな感じなんだよね!」

通形先輩はケロッとした顔で戻ってくる。

まるで軽い運動でも終えたみたいに。

「俺の”個性”強かった?」

「強すぎっス!」

即答。

「すり抜けるしワープだし!轟みたいなハイブリッドですか!?」

三奈ちゃんの言葉に、少しだけ納得しかける。

でも――

「いや、一つ!!透過なんだよね!」

(一つだけ!?)

予想が外れる。

「君たちがワープと言うあの移動は、推察された通りその応用さ!」

「どういう原理でワープを…!?」

緑谷くんがすぐに食いつく。

「地中に落ちる!そして、落下中に”個性”を解除すると不思議なことが起こる。質量のあるモノが重なり合うことは出来ないらしく…弾かれてしまうんだよね。つまり俺は、瞬時に地上へ弾き出されてるのさ!これがワープの原理。体の向きやポーズで角度を調節して、弾かれ先を狙うことができる!」

(……え、なにそれ)

頭の中で整理しようとする。

でも、理屈は分かっても再現できる気がしない。

「攻撃は全てスカされて、自由に瞬時に動けるのね…やっぱり、とっても強い”個性”」

梅雨ちゃんの言葉に、頷きかけたその時。

「いいや、強い”個性”にしたんだよね」

通形先輩の言葉。

(……)

さっきの戦いを思い出す。

精度、タイミング、判断。

全部が噛み合っていた。

(“個性が強い”んじゃない)

使い方が、違う。

そう理解した瞬間、さっきの一撃の重さが少しだけ変わって感じた。






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