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翌日。

教室に入った瞬間、視界に入る“いつもの位置”に人影があって、少しだけほっとする。

(あ、戻ってる)

前の席。

そこに当たり前のように座っている背中。

たった数日空いていただけなのに、不思議と落ち着かなかった場所が埋まっている。

「前の席が埋まって安心するー!」

思ったまま口に出すと、

「嫌味かよ黙れ」

即座に返ってくる、いつも通りの低い声。

(あ、これこれ)

むしろ安心する。

「このやり取りも慣れたなー」

隣から瀬呂くんがぼそっと呟く。

(確かに…)

気づけば、この距離感も自然になっていた。

軽く笑いながら席に着いたところで、チャイムが鳴る。

同時に、扉が開く音。

「おはよう。1年生のヒーローインターンですが、昨日協議した結果校長を始め多くの先生が、やめとけという意見でした」

淡々とした声。

でも、その内容に教室の空気が一気に沈む。

「えぇー!?」「マジで!?」

あちこちから声が上がる。

「なんだよそれ!あんな説明会までして!」

切島くんが不満を隠さず言う。

「でも、全寮制になった経緯から考えたらそうなるか…」

上鳴くんの言葉に、少しだけ現実が重なる。

(確かに…)

外に出るリスク。

今の状況。

分かってはいたけど――

「ざまァ!!」

(うわあ…)

隣から聞こえる声に、思わずそちらを見る。

爆豪くん。

ちょっとだけ嬉しそう。

(いやほんと分かりやすいな…)

自分が行けない側だからこそ、というのも含めて。

でも――

「が、今の保護下方針では強いヒーローは育たないという意見もあり、方針としてインターン受け入れの実績が多い事務所に限り1年生の実施を許可する。と、いう結論に至りました」

空気が、反転する。

「え!?」「マジで!?」

今度は歓声に近いざわめき。

「クソが!!」

(情緒どうなってるの…)

爆豪くんの感情が一瞬で反転するのを見て、思わず内心でツッコむ。

教室の空気は一気に明るくなった。

(やっぱり、行けるんだ)

胸の奥が少しだけ熱くなる。

そのままHRは終わり――

「星宮、昼休み職員室に来い」

名前を呼ばれる。

「え?」

思わず顔を上げる。

「綺羅が呼び出しされるの珍しい〜」

三奈ちゃんが不思議そうに言う。

(確かに…)

個人で呼ばれるのは初めてだ。




昼休み。

お腹が空いているのを感じながら、
先に職員室へ向かう。

(早く終わらせてご飯行こ…)

軽くノックして、扉を開ける。

「失礼しまーす!」

反射的にいつもの声量で言ってしまう。

「職員室だぞ。声を抑えろ」

(あ、やっちゃった)

すぐに注意される。

「すみません…」

少し声を落として、相澤先生の席へ向かう。

「呼び出しって何ですか?」

率直に聞くと、

「ベストジーニストから直々に
インターンについて連絡があった」

(……え?)

一瞬、意味が分からない。

「ベストジーニストが?
今休業中なんじゃ…それに、
インターンの事どうして知ってるんですか?」

思わず言葉が続く。

「ジーニストの事務所は、
インターン実績があるから時期は把握している。
本題だが、ヒーロー活動は休業のまま、
お前の個性伸ばしをインターンという名目で、
見てくれるそうだ。良かったな」

「ええ!?」

反射的に声が出る。

(やばい大きい)

「おい…」

(さっき注意されたばっかり…!)

「す…すみません…!」

慌てて口元を押さえる。

「い、良いんですか?
ベストジーニストも…雄英的にも…」

まだ信じきれない。

「向こうが見てやると言ってるんだから
良いんだろう。休業中だから、
現場の経験は出来ないと思うが、
現状No.3ヒーローから直々に
指導を受けられる事はまたとないチャンス。
合理的な時間を過ごせよ。
これはジーニストの連絡先だ」

差し出された紙。

(連絡先…!)

手に取った瞬間、指先に力が入る。

(すごい…)

ただの紙なのに、重みが違う。

もともと好きなヒーロー。

その本人と直接繋がる手段。

(やばい…)

少しだけテンションが上がる。

でも同時に、

(あ…)

頭に浮かぶのはもう一人。

「爆豪くんは…」

思わず口に出す。

「アイツは仮免落ちているから無い」

ぴしゃり。

(あ、これは…)

空気が少し変わる。

(これ以上聞いちゃいけないやつだ)

直感で分かる。

「あ、ありがとうございました!」

すぐに話を切り上げる。

そのまま出ようとしたところで、

「日程分かったら教えろよ。
インターン組は授業欠席、後日補講で補うからな」

「はい!」

しっかり返事をして、扉を閉める。

 

廊下に出た瞬間、

(……え、ほんと?)

じわじわと実感が湧いてくる。

さっきまでの不安が、全部ひっくり返る。

(行ける…)

しかも、

(ベストジーニストさんに…)

思わず口元が緩む。

気づけば足取りも軽くなっている。

(ご飯!ご飯!)

そのまま、少し浮かれた気分のまま
食堂へ向かっていた。






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